ORF2014では出展形式に新しくワークショップが加わった。今回は、そのなかでも田中浩也研究会(以下、田中研)を紹介する。田中研は、個人がものづくり(ファブリケーション)を行う「ファブ社会」の実現に向け、ものづくりをするためのツールや環境などを探究・開発する研究会だ。今回のORFでは、最近ますます注目を浴びているデジタル工作機器「3Dプリンタ」を扱うワークショップを実施する。田中研が取り組む最先端の3Dプリンタプロジェクトに触れ、3Dプリンタがもたらす新しい社会をともに考えてもらうのが目的だ。

3Dプリンタの未来を6つの視点から考えるワークショップを実施

最近、知名度が急上昇している3Dプリンタ。しかし、まだまだ私たちの日常から離れた存在であることは変わらない。田中研のワークショップでは、そんな3Dプリンタの現状への理解を深めつつ、3Dプリンタが未来の生活環境にどのように溶け込んでいくのかを、食・病院・建築・遠隔操作・素材・伝達方法の6つの分野から考える。この全6種類のワークショップが、一日一回ずつ開かれる。
 今回は、「大型3Dプリンタ(ArchiFAB)ワークショップ」と「ものづくりの民主化がもたらす未来を空想し対話するワークショップ」を取材した。

11:00-12:00 食×ものづくりの未来を思い描くワークショップ
12:10-13:10 大型3Dプリンタ(ArchiFAB)ワークショップ
13:20-14:20 3Dプリンタを使用した、身体補装具・固定具の制作ワークショップ
14:30-16:10 ものづくりの民主化がもたらす未来を空想し対話するワークショップ
16:20-17:20 フィジタルな社会を考えようワークショップ
16:20-17:20 Fab Tableワークショップ(30分×2セット実施)

※各ワークショップでは参加人数に制限があるので、参加を希望する人は早めに田中研ブースへ行き当日配布される整理券を入手しよう。

建築資材も“印刷”できるメガ3Dプリンタ!?―大型3Dプリンタワークショップ

「大型3Dプリンタ(ArchiFAB)ワークショップ」では、柱の部品等の建築資材を出力できる建築用大型3Dプリンタ「ArchiFAB」が稼働している様子を間近で見ることができる。この大型3Dプリンタは高さが2m30cmもあり、日本で2番目に大きい3Dプリンタだという。田中研が大手総合建設会社である株式会社竹中工務店とともに今春から開発したもので、高さ約50cm 直径約1.3mの円柱に収まるサイズのものを出力できる。プリンタ自体を分解することができ、運搬や現地での組み立てが容易であることもこの大型3Dプリンタの特徴だ。

大型3Dプリンタ「ArchiFAB」大型3Dプリンタ「ArchiFAB」

ワークショップ担当の安井智宏さん(政・メ1)は「3Dプリンタに限らず、デジタルファブリケーションをメガスケールに応用しようという流れがある。現在メディアで取り上げられる3Dプリンタは、メディアセンターにあるような小型なものが主流だが、このワークショップで大型の3Dプリンタを来場者に体験してもらい、『3Dプリンタがこのサイズになったとき、僕らは何ができるのか』という可能性を参加者と一緒に考えていきたい」と語る。
 ワークショップではまず大型3DプリンタArchiFABを稼働しはじめた。この日出力されたのは、サクラダファミリア教会の柱(1/10スケール)のパーツだ。機械がおもむろに動きはじめると、見守っていた人々からは「おー!」という歓声があがった。

3Dプリンタで出力中3Dプリンタで出力中

その後ワークショップ参加者は付箋に「大型3Dプリンタを使ってできること」を書き出し、アイディアを出し合った。「船の造設ができるのでは」「オペラの大道具制作に利用すれば表現の幅が広がる」「コストを気にせずに、家の外見を望み通りにすることができる」「小学校の体育館で使ってみてはどうか」など様々な意見が上がり、参加者たちは想像をより深めていった。
 

もし2020年までに3Dプリンタが普及したら?―ものづくりの民主化がもたらす未来を空想し対話するワークショップ

田中研が開発しているのは、3Dプリンタ本体だけではない。インターネットを介して3Dプリンタを遠隔操作するものづくりプラットフォームのシステムも開発している。このシステムを使えば、例えば六本木ミッドタウンの会場からSFCにある3Dプリンタを遠隔操作することも可能だ。ものづくりのプラットフォームが普及した社会はどうなるのかを考えるのが、「ものづくりの民主化がもたらす未来を空想し対話するワークショップ」だ。
 「私たちのプロジェクトでは3Dプリンタのインフラ・システムを形成し、整備することを目指している」と話すのは三井正義さん(政・メ2)。「“誰でも・いつでも・どこでも”ものづくりに参加できるプラットフォームによってどのような未来が作られるのか、ORF来場者とともに考えていきたい」と続けて説明した。

グループワークの様子グループワークの様子

このワークショップでは、「2020年に国内で3Dプリンタが3万台ほど普及したらどうなるのだろう?」という仮定を基に考えていく。なお「国内の郵便局は約2万4千ヶ所である」という補足もされた。さらに各班は「利用される場所」や「利用する人」といった条件をくじ引きで決め、それらの条件から想像を広げっていった。各班が思い描いた未来を5コマ漫画で発表し合うと、ブースは大いに盛り上がった。

「ホテル」「エリートサラリーマン」を引いた班。「出張での移動は手ぶら。ホテルの3Dプリンタで必要な物を全て印刷しプレゼンに向かう」というストーリーを発表。「ホテル」「エリートサラリーマン」を引いた班。「出張での移動は手ぶら。ホテルの3Dプリンタで必要な物を全て印刷しプレゼンに向かう」というストーリーを発表

ただ、未来を想像しただけで終わりではない。最後に「その未来を実現するために現在私たちがすべきこと、考えるべきことは何か?」という問いが出され、参加者は現在にも意識を向けたのだった。

ほかにも、柔らかい素材を出力可能な3Dプリンタを扱う「3Dプリンタを使用した、身体補装具・固定具の制作ワークショップ」、フィジカルとデジタルの中間的な存在を考える「フィジタルな社会を考えようワークショップ」、食品を作るのに特化した「 食×ものづくりの未来を思い描くワークショップ」、もののつくりかたを共有する新たな方法「FabTableワークショップ」など興味深いワークショップが開催されている。3Dプリンタに少しでも興味のある人は、田中研ワークショップブースに足を運び、3Dプリンタの最先端に触れつつ、これらが創造する未来に思いを馳せてみてはいかがだろうか。