「SFCらしさ」を再発見し、激変する社会におけるSFCの役割を見出す「復刻! CLIP Agora」。今回は、茨城県ひたちなか市(那珂湊)のひたちなか海浜鉄道湊線沿線で活動を続ける、SFC発の地域活性化アートプロジェクト「みなとメディアミュージアム」(以下、MMM)を紹介する。

市誕生20周年記念式典の様子(MMMより提供)

11月1日、ひたちなか市誕生20周年記念式典がひたちなか市文化会館で開催され、市の発展に貢献したとしてMMMが表彰された。
 SFC CLIP編集部は、MMM創設者の田島悠史さん(07環卒・宝塚大学専任講師)、2012-13年度に代表を務めた高草真生さん(環4)、2014年度代表の笠間裕子さん(環3)の3人にインタビューした。

地域鉄道沿線が舞台の地域活性化アートプロジェクト MMMとは

笠間裕子さん(左)、高草真生さん(右)

— MMMはどのような活動をしていますか?

高草さん
 茨城県ひたちなか市那珂湊のひたちなか海浜鉄道湊線沿線のまちなかに現代アートを展示するプロジェクトに取り組んでいます。それに合わせてワークショップやカフェの運営もしています。2009年の初開催から、今年で6年目になります。

笠間さん
 開催期間の8月の間、空き家や空き地、駅のホームや古い列車、店舗や神社などにアート作品を展示しています。

高草さん
 例えば、2012年には、使われてない木造建築を改装してカフェを作りました。2012年のカフェ立ち上げメンバーはSFC生だけでしたが、2013年から、嘉悦大学のフードビジネス研究会の学生さんと協力し始めました。2013年からは嘉悦大学が主体となって運営しています。

那珂湊駅近くの「みなとカフェ」(2012年8月)

— MMMは他大学の学生とも協力したプロジェクトなのですね。

笠間さん
 最近は、首都圏や地元の大学の学生さんの参加の方が多いです。

— なぜ茨城県ひたちなか市の那珂湊でやろうということになったのでしょうか?

高草さん
 このプロジェクトを立ち上げたのはSFCの交通系の学生と、アートを社会に広めたいという意思を持った学生の2人です。その2人が「鉄道でアートイベントをしよう」と企画し、多方面に話を持ち掛けてみました。なかでも、ひたちなか海浜鉄道の社長さんが一番良い返事をしてくださり、那珂湊が活動の場となりました。

田島さん
 ほかにも、ひたちなか商工会議所や、ひたちなか海浜鉄道湊線を応援する「おらが湊鐵道応援団」などが非常に協力的だったことも理由のひとつです。湊線は、MMM初開催の前年2008年に廃線寸前からの復活を遂げて、新しいものを呼び込もうという雰囲気になっていたのです。
 さらに、湊線は、茨城交通から路線を受け継ぎ、ひたちなか市と茨城交通が共同出資する第三セクター(半官半民の企業形態)になったんですよ。つまり、湊線へ支援を行えば、それはひたちなか市への支援にもなるということです。地域活性化にしっかりつながるプロジェクトにできるということが後押しとなり、那珂湊に決まりました。

MMM創設者の田島悠史さん

みなとメディアミュージアムによる地域の再生

— MMMは地域にどのような影響を与えていますか?

高草さん
 MMMがきっかけとなり、ギャラリーなどの展示施設ができました。その一例が「百華蔵」という那珂湊駅近くにある古い蔵です。地元の方が買い上げ、アートスペースとして改装してくださったんですけど、今では地元の方が集まるコミュニティースペースとして使われていて、様々な展示やイベントが催されています。
 以前は、MMMが現地で場所を間借りする感じでした。「この場所お借りしてもいいですか?」と聞くような感じで。でも、活動を続けていくうちに、地域の人から、「この場所どうですか?」「ここを改装してみました!」というお声掛けをいただいたり、地元のアーティストさんが活動場所を自ら見つけてきたりするということが起こり始めたんです。展示場所がどんどん開拓されています。ほかにも、廃屋を展示場所として改装したところ、飲食店として復活したという事例もあります。

笠間さん
 今まではMMMを介してリノベーションまで持って行っていたのに、今年は地元のアーティストさんが自分で古民家を展示場所として改装していました。これには驚きましたね。

高草さん
 小規模アートイベントだからこその現象です。かなり自由度が高くてなんでもできるので、そういった自発的な活動が生まれたのではないでしょうか。

— 地域のなかから自発的な活動が生まれているのですね。

高草さん
 そうですね。最初は「俺らがたくさん人を呼んで盛り上げよう!」と思っていました。でも、小規模アートイベントですし、学生が頑張っても人ってあんまり集められないなって悟って(笑)。
 それなら、小規模なりにできることは何だろうと考えたとき、地元の人が活動を一緒にすることで元気になってくれたらなぁ、と思うようになりました。
 那珂湊には鉄道と商店街と市場の3集団があります。昔からのしがらみもあり、お互いの利害関係が固定されて相容れない状態です。でも、僕らのような全くしがらみのない人間がポンっと入ってきて、「何かやりたいので助けてください」と言うと、みなさん一箇所に寄ってきてくださるんです。毎月の地域で開催するミーティングも、所属している集団に関係なくいろんな人が来てくれて、そこで新しいコミュニケーションが生まれています。

田島さん
 もはやメディア(媒体)ですね。

高草さん
 そうですね。学生だからこそできることだと思います。今までなかった地域のつながりが生まれるということですね。

670個のキューブが車両を覆う作品「CUBeSCAPE」(2011年8月)

学生が運営するMMMならではの特性

-MMMで活動するなかで苦労したことを教えてください。

笠間さん
 学生のスタッフは、長くても3、4年しか活動を続けることはできません。実際は、2年ぐらいで多くの人が入れ替わってしまう。その影響で、ノウハウが蓄積されないことが課題でした。それで、逆に地域の人が「MMMやばいんじゃない!?」と心配してくれて(笑) 。良いのか悪いのかは別として、先回りして準備をやってくださるなど、多大なるご支援をいただきました。

高草さん
 そういう学生組織という意味では、一長一短ですよね。組織として新陳代謝が良いから、いろんな新しいことができる。その一方で、根付かないというか、毎年不安定だということがマイナス面として存在します。
 あと、学生は地域の中でのポジションがすごく揺れるので、そこが難しい。学生、若い人として歓迎してくださる一方で、学生が地域の人にいかに信頼してもらえるかが、一番苦労したところです。だから、今回ひたちなか市に表彰していただいたことはありがたいです。信頼関係を築くことができたという、証明というか箔みたいなものがついたように思えます。

笠間さん
 協賛のお願いで、地元の方の家を一軒一軒回っていると、すごく褒める人と怒る人がいるんですよ。学生を孫のように愛でたいおじいさんおばあさんがいれば、親のように厳しく見守るおじいさんおばあさんもいます。でも、いろいろと怒られた結果、「怒るのもコミュニケーションなんだな」と思いました(笑)。理由はないけどもやもやした気持ちを私たちに言ってくれることも大切かな、と。怒りながらも協力してくれたり、「去年はもっとこうだった」とアドバイスしてくれる人もいて、カタチはたくさんあれど、みなさんに気にかけてもらっているんだなぁ、と実感しています。

田島さん
 大人になってわかる話かもしれませんが、大人の無茶な提案って、笑顔でスルーされちゃうんですよね。一方、学生であれば怒られます。これはMMMのようなプロジェクト特有かもしれません。大人の付き合いじゃない、ある意味本音ベースに近いカタチで接してくれているのだと思います。MMMは学生がいきなり実行に入るから、どんどん地元の方が口を出さなきゃいけないという性質があるんですよね。

MMMのこれから

— 今後、MMMはどういう方向に進んでいくべきだと考えていますか?

笠間さん
 私は、いま少し手が広がり過ぎているので、もっと地域に密着したカタチに戻していった方が良いと思います。まちづくりの最終目標は、住民が自発的に何かをするということです。だから、範囲を広げ過ぎると、那珂湊の人々も自分たちが何かをやっているという当事者意識が薄くなってしまい兼ねません。那珂湊という地域はとても狭いエリアですが、狭いからといって地域活性化にならなわけじゃないのです。ちっちゃく集約するからこそ、爆発的なエネルギーを生み出すことができると考えています。

高草さん
 僕は、その年々の最善を探していくのが大切だと思います。集約するのも拡大するも、その中間も、それぞれにメリットとデメリットがありますから。毎年続けていくなかで、その都度、いま必要なことを考えていく必要があると思っています。

田島さん
 関わる人に物語を提供できる仕組みを作ってほしいですね。アーティストにとっては、MMMをある種の登竜門として捉えているところもあるので、そこそこ成功していると思っています。ただ、主体となる学生にとっても、MMMを通じて成長できるルートがあると良いなと思います。

那珂湊駅ホームにて(2009年8月)

楽しい雰囲気のインタビューの中で、やはり遠くSFCを離れた地域で活動することは大変ながらとても楽しいものだということを感じた取材だった。
みなとメディアミュージアムはスタッフも随時募集している。興味があるSFC生は下記のリンクからチェックしてみよう。