ORF2016の2日目の19日(土)、上山信一パースペクティブ研究会によるセッション「シンギュラリティ時代に向けた人類の知性のあり方 – SFCが育むこれからのリベラルアーツ – 」が開催された。

近年、シンギュラリティに向けた機械と人間の競争の議論が盛んだ。科学技術の発展をどう受け止めるか、人類の知性が問われている。このセッションでは西洋哲学のみでなく、東洋哲学の観点からも現代社会を考察し、広く人類の叡智を参照しながら、未来を考えるヒントを探る議論をなされた。

■パネリスト

  • 今井理紗 株式会社KADOKAWA
  • 深田大寛 国土交通省
  • 上山信一 総合政策学部教授
  • 上山信一研究会学生

セッションは2部構成となっており、前半は上山研の学生5人による研究発表が行われ、後半は学生の発表にたいする登壇者からのフィードバックを中心に議論が展開された。

現代社会における3つのOS 「科学主義・資本主義・民主主義」

上山信一研究会ではアリストテレス、マキャヴェリ、ルソーなどの西洋古典や梅棹忠夫など戦後日本の名著を読み、2050年に向けて取りかかるべきことを歴史から学んでいる。

研究会学生は現代社会を「科学主義・資本主義・民主主義の3つのOS(オペレーティング・システム)やそれらを支える近代啓蒙思想などで構成されている」と定義づけた。OSが人類にもたらした恩恵を踏まえながらも「近年は環境破壊やストレスの増大、衆愚政治など3つのOSのマイナス面が目立つ」と問題提起する。近年のアルカイダ・ISISや反日運動、トランプ現象といった運動はOSが持つマイナス面の延長線上にあると考え「それら反知性運動の根本にある反知性主義は近代啓蒙思想の疲弊が招いている」と近代啓蒙思想の限界を示した。

上山研の学生による研究発表 上山研の学生による研究発表

「新知性」の必要性

2050年にはAIが人の知的能力を上回り、バイオが人の身体能力を模倣・複製することで人類がアイデンティティを喪失する「シンギュラリティ時代」が到来すると言われている。現在の疲弊したOSや反知性主義ではシンギュラリティ時代に対応できないと危惧する研究会学生らは、「新知性」というソリューションを提案した。

「新知性」は、近代啓蒙思想により生まれた既存のOSと異なり、東洋的思想に着目することで導き出されている。「既存の3つのOSに新知性をワクチンとして打ち込むことで新しいOSを創出することができる」と新知性の可能性を説いた。

「新知性を学ぶだけでなく、既存のOSに新知性を加えることで現代社会のOSをバージョンアップしていくことが必要。SFCにはその使命がある」とSFCに焦点を当てて発表をおえた。

AIと人類の共生

セッション後半では、上山信一研究会のOB/OGでもある深田大寛さん(13年卒)と今井理沙さん(11年卒)を交えた議論が行われた。深田さんは現代社会を支える3つのOSが約100年も前の思想であることに不安を抱き、「古い思想を根本にした現代社会の仕組みそのものに限界を感じる」と学生の発表に対して同意を示した。今井さんは「科学技術の発展によって直接会うことなく仕事ができるようになったが、仕事相手といきなり連絡が取れなくなるといった弊害がありえる」と、科学の発展による功罪を体感していると話す。

左から今井理沙さん、深田大寛さん 左から今井理沙さん、深田大寛さん

会場からの「AIと人類はどう共生していくと思うか」との質問にたいして、深田さんは産業革命で失われた職もあった一方、ホワイトカラーという新しい職が生まれたことを例に「機械に雇用を奪われるという恐れはいらない」と断言した。また、今井さんは「AIが人類の未知なる扉を開いてくれることを楽しむことが、AIと人類の共生につながる」とシンギュラリティ時代への希望的な側面を強調した。

上山教授 上山教授

上山教授は「民主主義、資本主義は機能しておらず、科学主義は疑わしく感じられる」と語りながらも「人間には各々の欲望がある前提ならば、既存のOSを無視することはできない」と、「新知性」の存在だけでは社会を支えることができないことを強調した。3つのOSは人類の願望を実現するのに必要な思想であることを示しつつ「既存の3つのOSと新知性の両立をどうしていくか考えていかなければならない」と、2050年に向けた人類の課題を示した。

シンギュラリティ時代に向けた挑戦

来る「シンギュラリティ時代」は歴史上重大なエポックとなり、既存の思想のみで立ち向かうのは無謀だと言えよう。時代は変動し、それに伴い人間の知性も発展していかなければならない。「シンギュラリティ時代」に挑む上山信一研究会の今後に注目しながらも、2050年を作る一員として「新知性」の課題に挑戦していきたい。

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