「SFCらしさ」を再発見し、激変する社会におけるSFCの役割を見出す「復刻! CLIP Agora」。今回は、10月にアプリ「Lokemon」でACM MobiCom 2016 モバイルアプリコンテスト(以下、MobiCom)優勝を果たした坂村美奈さん(政メ・博士1)にインタビューした。

誰もがモンスターになりきれるアプリ「Lokemon」

Lokemonを説明する坂村さん Lokemonを説明する坂村さん

Lokemonでスマートシティを実現する

—— Lokemonとはどのようなアプリですか?

私が所属する徳田英幸研究会はスマートシティについて研究しています。スマートシティとは、都市に住んでいる人や物から得られる様々な情報を集め解析し、人にサービスとして還元する効率化された社会のことです。これを具体的に実現するアプリケーションがLokemonです。情報の中でも、特に人の五感からしか得られない情報を役に立てられないかと考え、場所ごとにいるモンスター(Location Monster)にユーザーがなりきってその場の様子などを発言する参加型センシングを考案しました。

Lokemonでは、ユーザーがモンスターになりきり、その場所についての情報を他のユーザーにチャットで発信することができます。例えば、バス停の混雑状況を知りたいユーザーがバス停にいるバスクンというモンスターに混雑状況を尋ねます。それにたいして、バスクンになりきった他のユーザーがチャットで返答します。バス停にいる誰もがバスクンになりきって発言することが可能です。よって、混雑状況だけでなく、体感気温などその場所にいる人にしか分からない情報をやり取りすることができます。

Lokemonの説明動画(Youtubeより)

—— 誰もがモンスターになりきって発信することができるんですね。Lokemonの可能性はどのような点にありますか?

既存の参加型センシングでは、参加者はユーザー名や実名を使うのが一般的で、プライバシーの問題やユーザーのモチベーション持続が難しいといった懸念点がありました。しかし、モンスターになりきって発言すればプライバシーは保護されますし、モンスターになりきるという面白さから自発的な参加を促せると思います。さらに、Lokemonは従来の「個」ではなく、任意の「集団」が擬態可能な仮想キャラクターを主体とする情報提供モデルです。そうしたモデルが個人個人の行動変容にどのように寄与するか明らかにすることで、参加型センシングにとどまらず、情報環境全般における「個」と「集団」のコミュニケーションモデルに関する新しい知見につなげていきたいです。

その他の活用例としては、商店街などにおいて、お店のモンスターに質問するとモンスターが発言する、というようなシステムをつくることでお店の広報活動と集客につなげることもできると思います。そして地域の活性化につなげれば、ゆくゆくはモンスターの知名度が広まってグッズ販売なんかもできたらいいですね。今、日本は各地にゆるキャラが存在していますが、Lokemonも各地域においてそのような存在になれたらいいと思います。また新たにモンスターを作るだけでなく、すでに存在しているゆるキャラなどのキャラクターもLokemonとして使っていきたいと考えています。

—— 開発する上で苦労したことはありますか?

プログラミングの面ではそこまで苦労しませんでしたが、むしろ作ったプログラムを親しみやすいものにするためのデザインが難しかったです。特に、モンスターのデザインには今も結構困っています。みんなが親しみやすいモンスターを目指しているのですが、先輩と2人で考えているのでアイディアに偏りがあります。ぜひデザインが得意な方に手伝ってほしいです。

MobiComにてLokemonを発表する坂村さん(坂村さんより提供) MobiComにてLokemonを発表する坂村さん(坂村さんより提供)

—— 国際学会で発表されるのは大変なことだと思います。MobiComでなにか感じたことはありますか?

Lokemonはこれまでもいくつかの国内の学会に出してきました。今年の1月には電子情報通信学会主催の「2015年度センサアプリケーションアイデアコンテスト」にて、ドリーム賞を受賞しました。しかし、海外の学会に応募したのはMobiComが初めてです。国内で行われている国際学会と違い、ニューヨークで行われた今回の学会は、日本人は3、4人しかいませんでした。そのようなアウェイな環境だったのでとても緊張しましたね。

今回応募したMobiComは携帯情報端末の開発をする科学者、技術者、学生などのためのモバイルコンピューティングと通信についての学会です。アメリカ計算機学会(ACM)SIGMOBILEによって主催され、国際的にも権威のあるその大会で、アプリに特化したのがこのモバイルアプリコンテストでした。今まで苦労してきたことも多かったですが、優勝という形で成果が出せて嬉しく思います。

未来を見据えて生活してきた学部生時代

学部生時代を語る坂村さん 学部生時代を語る坂村さん

—— プログラミングの勉強はいつ頃から始めましたか?

情報の授業は高校の頃から受けていましたが、プログラミング自体を始めたのは大学に入ってからです。1年の春学期から徳田・村井研究会に所属しています。もともとSFCに入学したのも、将来コンピューター技術を利用して人の役に立ちたいなと思っていたからだったので、情報系の研究室で一番大きなこの研究会に入ったのは自然な流れでした。研究会に長い時間を割くうちにプログラミングの力はついていきました。

これだと思ったことを見つけてほしい

—— 学部生時代に最も力をいれていたことはなんですか。

そうですね、私の場合研究会に割いた時間が一番多かったと思います。学部生時代には様々な研究をしていましたが、基本的にセンシングについて研究していました。卒論では、人と物理的なセンサーを協調させる効率の良いセンシングについて研究しました。研究漬けのように聞こえるかもしれませんが、バイトもしていましたし一時はサークルにも入っていました。サークルは1年生の秋までアインクライネスオーケストラに、2年生の途中まではSFC REVIEWに所属していましたね。

—— SFCの学部生にアドバイスがあったらお願いします。

私は、1年生のうちは様々なことに挑戦し、自分が一番力を入れたいことはなにかを模索しながら過ごしていました。SFC生は多様な趣味を持っている人が多く、色々なことに挑戦していていいと思うのですが、やはり最終的には、これだと思った一つのことを進めていくことが大切だと思います。また、すぐに目に見える成果を出そうとは思わずに地道な作業を重視してほしいですね。

—— 今後の抱負を聞かせて下さい。

今回のMobiComにはまだLokemonの提案書と紹介動画、そして完成したアプリを提出しただけなので、これからがむしろスタートだと思っています。まずはSFCのキャンパスや藤沢市の方に使ってもらって実証実験を進め、その成果を論文にしたいと思います。Lokemonが広く使われるようになってほしいです。

—— ありがとうございました!

様々なことに挑戦し、試行錯誤する中でコンピュータの可能性にかける初心を貫いた坂村さん。コンピュータ技術に携わる女性はまだまだ少ないようですが、坂村さんに続いて今後さらに女性が活躍してほしいですね。Lokemonが多くの人の役に立つ日が待ち遠しいです。

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