先月18日(土)、三田キャンパスにて、昨年度をもって退職した堀茂樹総合政策学部教授の講演会「私のささやかな読書遍歴 ―中間報告―」が行われた。堀教授が、これまでの人生の中で強い影響を受けた作家や本について、自身の姿を振り返りながら語った。

らしさあふれる「中間報告」

まず幹事の宮代康丈総合政策学部准教授より堀教授の略歴が紹介され、義塾の文学部を卒業してからSFCに着任するまでの経歴や、堀教授がこれまで翻訳してきた本の数々などの活躍が述べられた。

堀茂樹総合政策学部教授 堀茂樹総合政策学部教授

その後話し手が堀教授に移り、まずは講演会の特徴的なタイトル「私のささやかな読書遍歴 ―中間報告―」について話題が及んだ。「最終講義」ではなく「講演会」と題したのは、堀教授自身が「1つの分野に邁進していきその集大成として最終講義を行う」といった大学教授の王道からは違う道を歩んできたためだと語った。そして博覧強記というよりは様々なことを考えながら本を読んできたために「ささやかな読書遍歴」、さらに人生はまだまだこれからであるという意味を込めて、あえて学生のように「中間報告」という題を付けたと説明した。

読書との出会い 対立した概念の扱い方

実は理系少年だったという堀教授 実は理系少年だったという堀教授

後に続くキャリアから考えると意外だが、中学生までは数学が得意な理系少年だったという堀教授。中学時代は特にスポーツに情熱を傾けていたといい、卓球部に所属してキャプテンを務めたそうだ。そんな中学時代の3年間はほとんど本を読まなかったという。読書に目覚めたのは高校に入学してからで、一転して文系に偏ってしまうほど読書にのめり込んだ。

堀教授の研究対象としてよく知られているバルザックや、価値観を形成する上で大きな影響を受けたというジュリアン・バンダをはじめ、幾人かの作家の名前とともに印象的な思想や著作などが挙げられた。講演会を通して多く語られたのは二項対立や二元対立といった概念。ジュリアン・バンダとの出会いをきっかけに考え始めた「その対立を解消すべきなのか否か」という問いに対して、「それぞれを認めて、しかし簡単に和解させることなく、お互いを見つめさせ続けることが重要」と語った。

「最終報告会」に向けて、人生はまだまだ続く

研究会の学生をはじめ、多くの人が駆けつけた 研究会の学生をはじめ、多くの人が駆けつけた

堀教授は最後に、「作家と著作の関係を構造的に分析するのも結構だが、その作家の背景も重要な要素であり、本を通して作家との対話することが読書の醍醐味」と語り、今後その考え方が変わっていく可能性も示唆した。そして、「結論を保留することが物事をうまく進める秘訣だとは聞くが、保留し続けたままだと気がつくとご臨終ということもあり得る。今後はできる限り結論を出していきたい」という言葉で締めくくった。最後に堀教授への質問時間が取られた後、感謝が込められた花束の贈呈が行われ、講演会は終了した。

講演会の最後には花束が贈呈され、堀教授は和やかな雰囲気の中で送り出された 講演会の最後には花束が贈呈され、堀教授は和やかな雰囲気の中で送り出された

難解なテーマを扱いつつも、堀教授らしいユーモアが交えられ、和やかな雰囲気の中で進んだ「中間報告会」。いつの日か行われるであろう「最終報告会」に思いを馳せながら、堀教授の今後の活躍を祈りたい。

【4月21日(金)23:15 編集部追記】
堀教授は3月をもって総合政策学部教授を退職されましたが、その後名誉教授の称号を授与されました。現在は名誉教授として講義を受け持っておられます。

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