かまぼこハウスの駐車場に停まる1台の大型車。日野自動車製のマイクロバスだ。実は、このバスの持ち主はSFCの学生、上野啓太さん(環4)。大学生でありながら「バスを買った」という上野さんに、SFC CLIP編集部はインタビュー取材を行った。

念願の夢「バス通学」 大学生の今だからできること

バスの持ち主・上野啓太さん(環4) バスの持ち主・上野啓太さん(環4)

—— バスを購入されたとのことですが、上野さんはどのような活動をされているのですか?

もともと乗り物が好きだったので、乗り物のビジネスをやろうと思っていました。そこでまず取っつきやすいものは何があるかなということでレンタカー事業を思いつき、学生向けにレンタカー屋を始めました。しかし、事故が多く、資金繰りもあまり良くなかったので、1年ぐらいで一旦休止してしまったんです。

でも、卒業後は就職すると決めていましたし、大学生の今は時間があってお金にもある程度の余裕があるので、何かしないともったいないなと感じてこのバスを購入しました。

—— バスは今後どのように活用する予定なのでしょうか?

通学の足として使うつもりです(笑)。すごい事をしようとか、社会の役に立たせようとか、そういうつもりは全くありません。ただただ高校生の時からバスが好きで、大学に入ったら「よし、卒業までにバス通学するぞ」という思いを抱いていたんです。

—— 違う意味での「バス通学」ですね。なぜバスを好きになったのですか?

もともと鉄道ファンで、でかいものが好きだったんです。そして、普通の人が触れない工業用・業務用のものが好きでした。なので、車もトラックとかバスとかから興味を持ち始めて。普通車は免許を取ってはじめて好きになりましたね。

バスの購入には40万円、改造には約30万円がかかっているという。 バスの購入には40万円、改造には約30万円がかかっているという。

—— 今回購入されたこのバスは、もともとどこで走っていたのですか?

石川県です。15年ほど走り続けて、去年引退したそうです。それをとあるタクシー会社が購入し、半年ほどで今度は僕のもとにやってきました。

—— やはりバスには特別な購入ルートがあるのでしょうか。

こういうコミュニティバスは主体が行政なので、バスもバス会社ではなく行政が購入しています。なので、売りに出されるのも特殊な官公庁オークションというものなんです。差し押さえ物件や市の物件を売却する時にはそのオークションが使われるのですが、恐らくタクシー会社は官公庁オークションで購入したのではないでしょうか。そして僕はそのタクシー会社からYahoo!オークションで購入しました(笑)。

苦労が多かったレンタカー事業

—— レンタカー事業はかなり厳しかったのでしょうか。

格安で貸し出していたのですが、学生向けなのでなかなか貸し出し件数が増えず、事業としては厳しいものでした。既存の格安レンタカー屋は、ちゃんとビジネスとして成り立つように人員の配置など色々な設計が工夫されています。そういった設計が整っていないのにも関わらず事業を始めてしまったので、なかなか利益は生まれませんでした。貸し出した車の事故が多かったのも要因です。

—— 今はレンタカービジネスの研究をされていると伺いましたが、どのような研究をされているのですか?

「レンタカービジネスはどうすれば成功するのか」という内容で卒業論文を書こうと思っています。他の事業者からヒアリングを行って、自分がなぜ思うようにレンタカー事業を運用できなかったのかをまとめ、自分の失敗要因は何だったのか、そして逆に成功要因はどういうものなのかを比較していきたいですね。

—— 就職も交通関係を志望されているのですか?

実はそれが全く違って、ITベンチャー志望なんです。乗り物で何かやりたいという気持ちはあったのですが、実際にレンタカー事業をやってみると意外と上手くいかず、いい意味でやりたいことが不明確になってきました。なので、自分がやりたいことが分からない間は、今の最先端の技術を学び続けながらやりたいことを模索して、何かやりたいことを見つけた時にその技術を活かしたいなと考えています。

上野さんにとっての「バス」とは

—— バスを買ったことに関して、「SFCだからこそできた」という部分はありますか?

SFCがど田舎だからというのはあります(笑)。こういうことは場所がないとできませんし、元々かまぼこハウスをレンタカー屋で使わせてもらっていたっていうのがありますから。おそらくこのサイズの車は普通の駐車場には置けなくて、かまぼこハウスだからこそ置けているので、そういう意味での自由度は高かったですね。

—— 上野さんにとって「バス」とはどんな存在でしょうか。

「おもちゃ」でしょうか(笑)。いずれは観光バスなど12mの大型バスが欲しいので、このバス自体は最終目標ではなく、その前の最初のステップでしかありません。スポーツカーが欲しいという人と同じ感覚でバスが欲しいと思っているので、僕にとってのバスは、ただ本当に「自分が好きな車」ということだけですね。購入してから、もともとの路線バスだった時の座席をすべて交換したり、配線を繋いで電気が使えるように色々いじったりもして。そういう意味では本当に「おもちゃ」です。色々勉強しながら工作するという感じですね。

—— 最後に、SFC CLIPの読者に向けて一言お願いします。

自分が他の人と比べて特殊なところがあるのでなんとも言えませんが、「バス通学をしたい」というのは1年生の時から周囲に言い続けていました。本当に「やりたいやりたい」と言い続けていると意外と叶っちゃうものだな、というのはとても言いたいです(笑)。お金がないからとか時間がないからっていうのは、実際にそういうこともあるのでしょうが、意外と言い訳に過ぎないのかもしれません。「やりたい」と言い続けていれば、意外とそれは出来てしまうものなのではないでしょうか。

—— ありがとうございました。

普通ならば難しいであろう夢を本当に叶えてしまった上野さん。「有言実行」という言葉が似合う彼の姿勢には見習いたいものがあった。「これからもバスを追い続ける」という上野さんの挑戦を今後も見守り続けたい。