ORF2017初日の22日(水)、セッション「DesignX * Xdesign-XDesignプログラム教員による鼎談」が開催された。
「DesignX」についてのKeio SFC Journalを出版するにあたって、SFC XDesignプログラム(以下、XD) を担当する教授陣が公開編集会議を行うという内容だった。ゲストスピーカーには「辛口評価をしてもらうために招いた」という『WIRED』日本版編集長・若林恵氏が登壇し、XDや未来のメディアの姿についての議論がされた。

登壇した4人 登壇した4人

パネリスト(写真左から順に)

  • 中西泰人 環境情報学部教授
  • 水野大二郎 環境情報学部准教授
  • 若林恵 『WIRED』日本版編集長
  • 田中浩也 環境情報学部教授

 XDesignとは

アメリカの認知科学者、ドナルド・A・ノーマンが提唱したDesign X。その目的は「最適化ではなく満足化を目指すこと」であり、複雑なものをどうやって紐解くかを考えることなのだ、と水野大二郎環境情報学部准教授は話した。

SFCの「X Design プログラム」では企画と設計、科学的理性と芸術的感性、伝統技術と先端技術というように20世紀型の古い尺度や方法論のなかでは分断されていた要素を再び包摂・統合し、既存の型にはまらない、未知なるデザイン領域(=X)の「開拓」にチャレンジする制作・研究を行っている。こう行った試みは、国公立でも美大でも見られない、切り込んだXDesign研究となっているという。

XDesignの学生と教授が、一緒に「批評的な」本を作ったら

この会議は「公開編集会議」と題し、本を出版するにあたって教授から学生へ伝えたい意義や目的、またXD全体で取り組んでいきたい課題などについて話がされた。大学教授という比較的アカデミックな立場にいる教授陣と、プロフェッショナル・ビジネスな立ち位置でメディアについて考える若林氏。その2つの立場から見るXDにはどちらからも”新しい風”が感じ取れた。

メディアのプロフェッショナルからも意見を聞く メディアのプロフェッショナルからも意見を聞く

"なにか言いたい"のX-portを

田中浩也環境情報学部教授はXDをテーマにした本の出版において「"学生"が何か言いたいことがある、何か書きたいことがあると感じる気持ちがとても大切である」と語った。そして、学生が本を作ることで、自分が生で体験していることや悩んで絞り出すプロセスを言語化したり、教員の言説を相対化して、自分の考えとの"距離"を構成できるとし、加えてそれを第三者である読者に読んでもらうことで新しい意義を見つけられる場合があると語った。「X-portと名のついた展覧会が来年3月に開かれる予定だがまさにその通りで、インポートしたものを自分で咀嚼して新たな形で出すことが今とても大事。福沢諭吉先生は日本語の造語を数多く作ったが、現代では言いたい気持ちをうまく言語化できない人が増えている。こういった"x-port"を学生・教員共にできるものがいいのではないか。」と自身の考えを提示した。

X-portには目的を

水野教授は「自分たちが読み手側に何を見せたいか」「どう見せたいか」の目的をしっかりと持ち、それに合った手段を選択することが必要であると話した。例えば、本には開けて見える順に権威構造があるが、Web上のものではハイパーリンクの存在がありその構造にはならないという違いがある。それぞれの違いを理解した上でメディアを選ばなければならない。

若林氏は長年にわたり編集職を経験する中で、出版の位置付けに疑問を感じているという。出版とは印刷・製紙を含めた様々な出版環境が揃わないとできないものだが、その絶対性を信じて疑わない人や、書籍を出すにあたり決定権を全て出版社に委ねることに何も疑問を感じない人が多いのだそうだ。そのため、XDesignというコンテンツによって新しい課題解決ができていても、メディアに書籍を選ぶことは読み手への届き方が結局これまでと変わらないため、手段の選択の甘さがあると指摘した。

"ああでもない、こうでもない"のプロセスを見せること

水野教授は、変わり続けるプロセスの1点を出すことにリアリティがあると述べ、その例として「Wired.jp」のメディア形態が記事にタグを追加してメニューバーが変動することを前提とするものに変わったということを挙げた。「絶対にこうすれば成功する」というものを10年続けるのではなく、常に変わり続けようと決心することに「心中だなぁ」とも感じたという。

"問題に永遠に寄り添い続ける姿勢に心中を感じた" "問題に永遠に寄り添い続ける姿勢に心中を感じた"

若林氏は自身の編集業の中で、"風を感じたい"という無意識の意識を持つ読者のためのコンテンツを模索していると語った。イギリス・グラスゴー出身のアーティストが完全体ではなくアイディアのままの曲をCDにしてリリースしたことや、編集者が取材の中でだんだん知識をつけていく様子を特集記事にするケースがあることなどを挙げ、コンテンツ面でもプロセスを見せていくことが大きな意味を持つようになってきていると述べた。

田中教授は、学生がものを書く場面において 自分をかっこよく見せる化粧をしたような本が多いと話し、実は本当にパワーを持つのは「悩みを書いた本」なのではないかと意見した。前述の「自分の気持ちをうまく言語化できない現代人」の話と合わせて、もっと感情を出していくこと、自分の中で煮詰まっていることとその経緯を見える化し、自浄するために本を書いてみることも必要なのではないかとプロセスの言語化の意義について話した。

"解なき問い"を問い続ける仲間

上記のプロセスを見せることに加えて、仲間を交えて問いをさらに深掘りするプロセスも必要なのではないかという意見も出た。これに対しては、水野准教授が「定期的に仲間で集まって、ある1つのテーマについて問いを投げかけ合う。それが解決したらまた集まって次の問いに進む。そうすることによってそのテーマは進化を続け、新しい風を取り入れ続けられるのではないか」と答えた。

時には創造的な飛躍を

理性的に考えに考えを重ね、悩みに悩むアカデミズム的なプロセスを大切にするという意見と同時に"創造的な飛躍"がうまくいくことがあるという話も出た。若林氏は大ヒットした小説である『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(通称「もしドラ」)を例に挙げ、「ドラッカーに興味がある人はいても"女子高生がわかりやすくドラッカーについて説明してくれる本が欲しい"と思っている人はいない。しかし出版後には"まさにこういう本が読みたかったんだ!"と多くの人に思わせた」と説明。誰も考えたことのなかったような創造的で意外なアイデアを形にしてリリースしてしまうことによって、結果的にいい着地ができることがあると語った。

これからのメディアとSFC

トークセッションの最後の質問コーナーでは、ある学生から「SFCには二枚舌問題があると感じる。何か1つに決断して進むのか、完結しない状態を保ったまま進歩を続けるのか、一体どちらがいいのだろうか」という質問が出た。若林氏はこの質問に「仕事だったりお金をもらうことなのであれば、とにかく1つに決めてやる。だがそうでないのであればバランスが大切である」とプロの編集者らしく答えた。田中教授は「ああでもない、こうでもないと考える二重否定は哲学では重要な概念。だからこそ第三の方法を考え続けるのだ」とどちらかに決めず新しい道を模索するという考えを提示した。

総括として中西教授は、「物事に向かうプロセスを大事にする"アカデミズム"と、必ず何かしらの決着をつけて目的を遂行する"プロフェッショナル"。その両方を持ち合わせているのがSFCらしいXDesignなのではないだろうか。これがこの先の未来に"新しい風"になっていくのかどうか、これからも続けて見守っていきたい」と語り、公開編集会議を締めくくった。非常に和やかな雰囲気で、自由な意見が飛び交うセッションとなっていた。

アカデミズムとプロフェッショナル、そのどちらの面をも持ち合わせるSFCらしいXDesign。それが導き出す未来は一体どんなものになるだろうか。理性と創造性の間から吹く"新しい風"をぜひ楽しみにしたい。

【2017年12月17日(日)12:00 編集部追記】

一部、文中に事実と異なる表現がございました。お詫びして訂正いたします。

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