バス列はなぜ無くならないのか 測定結果から発覚したキャンパスの欠陥
交通の便が決して良いとは言えないSFC。新学期が始まって2週間、心を躍らせて入学してきた学生や、心機一転して大学に早くから通おうとしていた方の多くは、バスに乗れずに並ぶ人々の長蛇の列に出端をくじかれたのではないだろうか。そこで今回、バス列の長さを長期間にわたって測定し、研究してきた司隆さん(18年環卒)に、バス列の歴史、現状、そして展望について取材した。
バス列に対する今までの取り組み
連節バスのツインライナーが導入されたのは2005年。湘南台駅に相鉄線、横浜市営地下鉄線が乗り入れた1999年から6年後のことだ。この頃にはバスの混雑具合が悪化していたと考えられる。
バス列問題に関する学生による取り組みも多く存在し、中には学生の間である程度普及しているものもある。早いものでは2007年に「ComeKamo計画」という、待ち列の映像配信サービスの計画があった。長くにわたってよく知られているものでは2012年に開発された時刻表の「bustimer」(現在は更新停止)が筆頭株だろう。バス以外の交通機関に活路を見出だすアプローチとしては、タクシーの相乗りを募集するLINE bot「SFCtaxi」が2016年に開発されている。また、有澤誠名誉教授の研究会では、JR東日本と協力してバス列の研究を2007年ごろにしていたが、現在はそのデータが全く残っていないという。
改善への動きはこれに留まらず、より具体的な行動変容に向けた動きもあった。しかし、ライドシェアの試みは考案されたものの特区などではないことが問題となり、実現は難しかった。またタクシー相乗りサービスなども考案されたがタクシー側に十分なメリットを提供できず、これも大掛かりに展開することは出来なかった。シェアサイクルについても検討されたものの、自転車が放置されるという壁に当たってしまい、解決出来ずに頓挫している。
明らかになったキャンパスの欠陥
混雑予測の数値情報が出せれば、大学生が時間をずらして乗車するようになるだろうという仮説のもと、司さんは2015年から2016年にかけて、授業の時間帯にバスを利用する人々の人数を測定した。それを大人数授業の履修者数のデータと照らし合わせると、驚くべき計算結果が出た。それはバスの輸送容量を考えると「SFCは輸送量上1限遅刻者が必ず出る」という内容だった。司さんが自ら取ったデータもこの結果を裏付けるものだったという。
朝礼に向かう中高生の通学時間である7:50-8:24と、1限に向かう学生の通学時間である8:25-9:12とわずかにずれてはいるものの、列は長い時は相鉄線改札まで伸びる。この地点までにはおよそ300人程度が列に並んでいるという。しかし、天候などによって通学時間がずれて、大学生と中高生が同時に並ぶ事態になってしまうと、列は小田急線改札を超えるまで伸びることもある。
全国に偏在する交通弱者
公共交通の混雑の問題は、SFC特有のものではない。それどころか、SFCよりも更に交通が酷く混雑する郊外型キャンパスが全国に存在している。この公共交通の混雑の原因の一つは、駐車場が少ないため学生が車通学できず、車通学する学生が少ないため学校側も駐車場を増やすことはできないという悪循環から、通学手段が公共交通に偏っていることだ、と司さんは分析する。
一筋縄では行かない問題だが、解決の鍵を握っているのはデータを取り、それを公開することにあるという。まず、神奈川中央交通をはじめとする一部のバス会社は紙の定期券しか発行していないため、正確な乗客数が把握できない状況がある。これについては今後、PASMO/Suicaを使った定期券が導入できれば利用者の把握と便の効率化を図れるだろう。
また、時刻表配信がリアルタイムではないため臨時便に対応していない点も問題だ。より多くの人が活用しやすい形式で時刻表などの各種データを配信すれば、アプリ開発に生かすなど、民間企業や行政、そして学生がより有益に活用できる。
そして、大学はバス列の長期にわたる定点観測の許可を行うべきだと指摘する。映像配信が行えると、利用者はリアルタイムでバス列を見て避ける判断ができる。その結果学生が実態を把握し、ピークを避けた時間に通学ができれば、自分も他の人も快適に通学できる。2007年に映像配信は開始されたが大学側の許可が降りず頓挫してしまい、司さんも短期間しか研究することが出来なかった。
また、司さんは研究の過程で収集したデータをネット上で公開している。バス列に日々悩まされている方はこのデータも参考にしつつ、登校する時間や手段を検討してみてはいかがだろうか。
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連絡先
- 司隆連絡先: 14tantan[at]keio.jp