いよいよ来週22日(水)・23日(木)、六本木・東京ミッドタウンにてSFCの研究発表イベント「SFC Open Research Forum 2018」(以下ORF)が開催される。今年度のORFは「次の(次の)社会(After the Next Societies)」をテーマとして、コミュニケーションや場の研究をしている加藤文俊教授が実行委員長を務めている。大きく変化したORFとその背景や、本年のテーマについて加藤教授に詳しく聞いた。

次ではなく「次の次」の社会とは?

ORF実行委員長を務める加藤文俊教授 ORF実行委員長を務める加藤文俊教授

—— 今年度のORFテーマ「After the Next Societies」に込められた意味についてお伺いしたいです。

最近、よく語られるものの一つに「未来論」があるかと思います。僕たちSFCは、未来志向なので、つねに「未来」について、「次の社会」について考えていますね。でもその「次の社会」って、僕らから見ると一世代の距離感、つまりちょうど今教えている学生たちが僕くらいの歳になった時、社会はどうなっているか?について考えるわけです。でも、たとえば僕の孫の世代の事って、想像力が追いつかないし、語ることが難しいと思うんです。

子どもの世代の事なら語ることは出来るけれど、その次の世代、孫の世代の事になると語るのが難しい。果たして、どこまで想像力がおよぶのだろうかということを実行委員会の中で話し合いました。

僕たちの想像力が到底およばないくらいの時間の範囲を想定して、今は脚光を浴びていない、相手にされていない事であっても、次の次まで待てば、何か始まるかもしれない、何かが起こるかもしれない。そのような目線を持ちたかったのです。

—— 加藤先生がORFで気になっている項目はありますか?

まず、Pitchには期待していますね。

Pitchは今年が初めての試みで、色々と意見はあると思いますが、どうなるかわからないという意味でも期待しているんです。回を重ねるごとに、ORFの運営に慣れてきたように感じます。それはもちろん素晴らしい事だけど、出展者の参加形態は多様化した方がいいということが実行委員会で議論になりました。研究調査の成果は、有形・無形含めて多様です。一人ひとりの出展者が、自分に一番ふさわしいと思えるようなスタイルで参加できるように、Pitchという方法を新たな試みとして加えてみることにしました。

現物を見せることのできる展示と違って、Pitchは話している12分間が全て。「TED」ふうではあるけど、違う、SFCならではのPitchという参加形式です。

このPitchを導入するに当たって様々な意見がありました。まず、会場の制約上、Pitchを実施するためにはブースの出展数を抑えなければならず、企画書を審査するという形にしました。

Pitchでは、普段授業で聞いている先生を違った形で見るのも良いし、講義を聞いたことない先生を見るのも良い。新しい発見を期待して見に行くと、面白いと思いますね。

—— Pitchや展示を見にきてくれた高校生や若い世代の方に何を感じ取って欲しいですか?

「研究」っていうとすごく堅苦しく聞こえてしまうかもしれません。高校生はこれから大学に入ろうっていうステージなので、いきなり研究とか、企業との共同研究などに関心を持つことはできなくても、とにかくSFCの学生や教員が楽しくやっているところを見てほしいですね。

面白いことを熱中してやっている人ってかっこいいはずで、年齢性別など問わずに「美しさ」があると僕は思っています。高校生や若い世代の来場者の方がたには、そうした姿を見てもらうのが一番だと思います。もしかしたら、来年は出展する側として参加してみたいとか、憧れを持ってもらえると嬉しいですね。

SFCは元気かどうか? ORFは健康診断のようなもの

—— 続いて、ORFが社会に果たしている役割がありましたら教えていただけますか?

役割ということについては、いくつか考えることができると思っています。

まず、僕たちの調査研究の多くは、「外」との連携をつねに意識しているということ。社会と接点を持ちながら学んでゆく、そのようなSFCの活動の成果を、年に一度報告する機会です。それが実際に、どの程度社会の役に立っているかどうかはともかく、成果を世に問うという使命や責任を感じながら、ORFが続いていることは素晴らしいと思います。

あともう1つ、僕が実行委員会という「中の人」として見ていて、やっぱりSFCって元気だなって感じます。年に1度のORFは、SFCが元気かどうかを確認する健康診断みたいなもので、悩んだりもがいたりしながらも、僕たちの状態をチェックをします。そういった視点で考えてみると、成果を世に問うことだけではなく、僕たちは常に自己チェックをしなければなりません。その点で、マイナーチェンジも含めて、つねに毎年動きを作っていかなくてはいけないです。僕はそう思っているんですよね。

—— SFCが元気であるために、学生や教員に出来ることは何でしょうか?

これは実行委員長という立場で痛感するんだけど、みんなORFに対してすごく思いがあって、時間もエネルギーもすごく投じています。そのことには、本当にただただリスペクトしたいんです。ただ、実行委員会から見ると、やはり2日間全体のまとまりや、ブース同士の関係、セッション同士の関わりも考えざるをえなくなります。

僕自身も、実行委員会にいることで、普段それほど関わりのない同僚や学生たちとも深く関わる事ができます。せっかく2日間あるので、もっと話をしたり意見交換したり、ORFをきっかけに新しく何かが始まると良いと思っています。

より良いORFへ 今年の挑戦

—— 今年のORFを運営するにあたって困難だった事、大変だった事について教えていただきたいです。

一番迷った事は、企画書の審査です。去年までのORFは、出展資格を持っている人は全員OKを出していたのですが、今年は会場の半分をPitchに使う関係で、審査せざるをえなかったのでそこは心苦しかったです。本当は全員に参加してほしいけれど、会場の制約との兼ね合いでこのような形をとりました。

やはり選ぶのは辛いですよね。点数をつけて、どこかで「線」を引かなければならないので、それをやる側としては「いいのかな」って思うしね。でも、もし今年のやり方に不具合があったり、もっといい方法が見つかったりすれば、また変えていけばいいと思います。

—— では今年のORFは挑戦的な面が強いという事ですか?

去年も「実験する精神」というテーマを掲げていました。つねに、「実験」はキーワードとして意識しています。

今年は、エントランスのところには企画書の評価が高かった出展者(グループ)のブースを配置しています。Pitchも含めて、今年は出展のスタイルが多様化したのではないかと思います。

—— 審査は今年が初めてとの事ですが、どのような要素を見て審査をしたのでしょうか?

当然のことながら、審査は僕が1人でやっているわけではなくて、実行委員が分担して査読しています。僕自身は、何より企画のわかりやすさ、広報の計画、什器(イーゼル)をどのように使おうとしているかなど、全体のストーリーやまとまりが感じられるかどうかに着目しました。

カオスの中に自分を放り込む、SFC元気のバロメーター

—— ありがとうございました。最後にORFに来てくださる方や関わっている方にメッセージをお願いします。

まず何よりも、この大掛かりなイベントを20数年も続けてきたということには、素直に喜びたいし、みんなでつくってきたことについては、感謝しかないです。ORFが社会的に認知されてきた事の表れのような気もするんだけど、みんなそれぞれのスタンスで関わっているので、お互いに「頑張ったね」って言えるようなイベントになると嬉しいです。とにかく安全に楽しく過ごしたい、と思います。

ORFの展示は、かなり圧縮されて展示されているので、情報過多になって、どうしても疲れてしまうとかわかりづらいという感覚を覚える人も多いと思います。でも、それにはじつは楽しさもあって(まるで「ドンキ」のように)、圧倒されるほどの情報量の中に自分を放り込んでみることに意味はあると思うんです。余白がたくさんあるわかりやすい展示ではなくて、ある種のカオスかもしれません。だけど、そのこと自体が僕たちの元気のバロメーターになっているのかもしれません。

そういったことも含めて、SFCの「今」の姿が2日間に現れると思います。

—— ありがとうございました。

去年とは大きく形を変える今年のORF。
変化を続けるORF、そして元気なSFCを確かめに足を運んでみてはいかがだろうか。

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