2020年に開催される東京2020オリンピック・パラリンピック。SFCのあるこの藤沢市も、江の島でセーリング競技が実施される予定だ。今回SFC CLIP編集部は、藤沢市役所の東京オリンピック・パラリンピック開催準備室にて、上級主査の谷村朋さん、事務職員の柿元公太さんにお話を伺った。

市民の声を活かす 東京オリンピック・パラリンピック開催準備室とは

藤沢市役所(2018年1月に新庁舎供用開始)にある東京オリンピック・パラリンピック開催準備室 藤沢市役所(2018年1月に新庁舎供用開始)にある東京オリンピック・パラリンピック開催準備室

—— まず率直に、東京オリンピック・パラリンピック開催準備室の皆さんは何をされているのでしょうか?

谷村さん

2020年、藤沢市はオリンピックのセーリング競技会場になります。江の島がセーリング競技会場になるというのは、3年前の6月に決まったんですね。年度が変わった翌年4月にオリパラの担当として準備室を立ち上げました。

私たちは、市役所の一課として、セーリング競技や東京2020大会の盛り上げ、ボランティア等の市民参加の促進、開催に際する課題解決に向けた市民との橋渡しといった役割を担っています。競技運営そのものは組織委員会が取り仕切っているんですよ。

あとは藤沢市民を対象としたオリンピックの盛り上げという部分で、我々が今一番目玉の取り組みとしているのは「藤沢ビッグウェーブ」です。

—— 「藤沢ビッグウェーブ」とはどういった取り組みなのでしょうか?

谷村さん

そもそも、江の島がオリンピック競技会場となっても、市民全員が楽しみにしているかというと、おそらくそうではありません。江の島は藤沢市の南端で、SFCも北にありますけど、特に北の方にお住まいの方は、そこまで大きく関係しない。南の方は南の方で「ただでさえ夏のシーズンは渋滞で混むのに、さらに生活しづらくなるんじゃないの?」といったマイナスの意見もあります。

とはいえ我々市役所としてはオリンピックを盛り上げていきたいということで、まずはビッグウェーブに応援団員登録してもらい、情報発信をしよう、と。あまり知られていませんが準備室を立ち上げてから様々なイベントを開催しています。どんなイベントも周知活動が一番の肝になってくると思うので、ビッグウェーブは重要視して取り組んでいます。

また、ビッグウェーブの中で進めている色んなプロジェクトがあるので、それに参加してもらう、もしくは企画の段階から参加してもらうなど、いろんな形に発展できると考えています。例えばワークショップやアイデアソンを開催して、皆さんに企画を練ってもらって、企画を戦わせるだけではなくその先のステップも良かったらどうぞ、というような形をとりたいなとは思っています。ワークショップは昨年11月にボランティア関連のテーマで実施をしていまして、SFCの学生さんにもご参加頂きました。

画像提供: 藤沢市東京オリンピック・パラリンピック開催準備室 画像提供: 藤沢市東京オリンピック・パラリンピック開催準備室

—— ビッグウェーブに関して、今のところ課題となっている部分はありますか?

柿元さん

現在は主婦層の方々、お年寄りの方々を中心にご参加頂いていますが、先ほど申しました学生の皆さんにもっと参加して頂きたい、というのが今現在課題としている部分ですね。

谷村さん

とにかく今はビッグウェーブの団員を増やそうとしています。現在9000人を超えていまして、それだけでもオリパラを通していろんな輪が広がっていく可能性があると考えています。その上で、ビッグウェーブの枠にとらわれず一緒にやりましょうという取り組みがあれば、すごく画期的なことだと思いますね。オリンピックそのものに関係なくてもオリンピックをきっかけにしていろんな取り組みへの踏み台にできると思うので、そういった意味でこの機会を活用して頂くだけでありがたいです。

藤沢市の顔に 都市ボランティアとは

谷村朋さん(写真右) 谷村朋さん(写真右)

谷村さん

佐々木さんはボランティアに応募したとおっしゃっていましたね。

—— SFC CLIP編集部 佐々木(環1) はい。僕が応募したのは大会ボランティアなのですが、都市ボランティアというのはどういったものなのでしょうか?

谷村さん

大会ボランティアは、皆さんの「オリンピック・パラリンピックのボランティア」のイメージに近いと思います。役割によりますが、オリンピック競技会場の中で、一般の人は入れないセキュリティエリアの中で活動します。一方、都市ボランティアの活動は、駅などの競技会場外でのお出迎え・ご案内など、「大使」「都市の顔」ということになります。実際にロンドン五輪ではアンバサダーという名称を使っていたようです。その街の印象はそのボランティアの人で決まると言われているほどなので、とても重要な役割です。そういう意味で都市ボランティアにはどこの自治体も力を入れていますね。

—— 都市ボランティアに関して、現在どういう課題があるのでしょうか?

谷村さん

ボランティアには規定があります。期間中何日以上やってもらわないといけないとか、1日何時間とか。しかし、例えば大学3,4年生の方は、今応募したってこの先どうなるのかわかりませんよね。1年先、2年先のこと考えて応募しろっていわれてもなかなか難しいところはあると思います。社会人の方も、仕事の予定がわからない、異動するかもしれないなど、なかなかハードルが高いものだと思います。ですので藤沢市では、そういった方々に向け、単発的なボランティアをやりたいなと考えています。

—— 直前に応募できるボランティアは嬉しいですね。

谷村さん

もちろん、すぐに具体的に実現というわけではないんですけど、なるべく多くの方々に関わってもらうべく現在進めています。

また、オリンピックはボランティアそのものの裾野を広げるチャンスでもあります。もともと経験がある方だけでなく、今まで馴染みのなかった人や経験のない人を掘り起こしたい、というのも現在の課題です。

藤沢市だけでなく日本全体の課題として、話が大きくなりますが(笑)。今後、人口減少という大きな問題がある中で、お互いに助け合える、そういう気持ちを持てる社会を構築しなければならないというのは、どの自治体でもおそらく職員全員が認識している課題だと思います。

オリンピックのボランティアはスポーツや観光の分野なので、それがすぐに福祉や自治会・町内会の活動率上昇などに直結する訳ではないと思います。しかし、ボランティアを知る一つのきっかけにはなるはずなので、今後の狙いとして捉えています。

画像提供: 藤沢市東京オリンピック・パラリンピック開催準備室 画像提供: 藤沢市東京オリンピック・パラリンピック開催準備室

それに関連して、藤沢市の計画に「チーム藤沢体制の形成」があります。

ボランティアは、特に東日本大震災以降、世の中に広まりつつあって身近になってきているとは思うんですけど、それを分野間で繋げなければならないという課題があります。というのも、様々な分野でボランティアなどの市民活動が盛んでも、それぞれ組織が別ということもあり、情報が共有化されず、得意分野も偏ってしまう傾向があります。

そこで、ボランティア団体間の情報共有や、分野横断的な活動を誘発するためにも、「チーム藤沢」連絡協議会で各団体が連携できる体制が出来れば、それはレガシーになるのではないでしょうか。

ハードではなくハート 藤沢に残る「レガシー」とは

画像提供: 藤沢市東京オリンピック・パラリンピック開催準備室 画像提供: 藤沢市東京オリンピック・パラリンピック開催準備室

—— 先ほどレガシーというお言葉がありましたが、オリンピックによって藤沢市にどのようなレガシーが残るとお考えでしょうか。

谷村さん

レガシーって非常に大事だし、しっかり残さなければオリンピックの意味がありません。そこで、レガシーをしっかりと残すという方針はかなり早い段階で打ち出しているんです。

「藤沢市支援方針」では、基本的な考え方として「市民参加」と「レガシーを創出する」をあげています。

「市民参加」はとにかく皆さんに参加してもらって、楽しい雰囲気と感動を味わってもらおうということです。そして、もう一つの柱として「レガシーを創出する」と。具体的に何かというと難しくて、今のところは玉虫色の答えしかできないんですけど、もともと色んな分野でやっている市役所の取り組みを、オリンピックを踏み台に全部活性化させましょうよという意気込みで、市長をはじめ我々市役所が進めています。

1964年の時はハード面でのレガシーがメインになったと思うんですね。例えば江の島でいえばヨットハーバーができたり、江の島に渡る橋も、オリンピックのために車道を作ったり。しかし2020年はもう国が成熟していることもあって、どちらかというと気持ちの部分、ハートの部分、の方が大きくなるのではないでしょうか。

もともと色んな取り組みをやっている課にそういう認識を持ってもらって、前に進んでいく。ボランティアをきっかけに人を助ける気持ちが身近になるとか、オリパラを契機に生涯スポーツが普及し、健康寿命を延ばすとか、パラスポーツの取り組みを広めるとか。こうした取り組みがオリンピックをきっかけに活性化すれば、それがレガシーになるんじゃないかなと考えています。

SFC生ならではのアイデアを

—— 最後に読者へのメッセージをお願いします。

谷村さん

ボランティアはもちろんですが、ぜひビッグウェーブを通して色んなイベントなどに企画から参加して、SFC生ならではの企画をぶつけてもらいたいですね。

余談ですが、我々が市役所としてオリンピック以外の仕事をしている時、色んな企業さん自治体さんで「藤沢市ってSFCがあるところですね」と言われることが多いです。藤沢よりSFCの方が有名なんじゃないかというくらい(笑)。それほど知名度もあって、先進的な取り組みをしているSFCの学生さんには、そういう企画の部分で期待することは大きいですね。

普通のいわゆる「役所」の動き方だと、何かやりたいことがあっても、翌年に予算を取って、そのさらに翌年に実施というケースが多いです。しかしオリンピックの場合はそうも言ってられないので、できることは連携してすぐ行動に移しましょう、と。市役所なのでそんなにたくさん予算があるわけじゃないですけど、必要な経費は使いながら何かやりましょうというのは可能性として大いにあるので、何度も言いますが枠にとらわれず、本当に積極的な人はぜひ気軽に声をかけて頂きたいです。

柿元公太さん 柿元公太さん

柿元さん

学生さんも我々も、なかなか行政と学生が連携するのはハードルが高いと感じていると思います。その中で、お互い気軽に連携してイベントや企画を打っていけるような形が取れるというのが理想です。

率直に言うと「意見やアイデア、何かあればお願いします!」ですね。そしてその入り口は広いと思っています。いきなり却下されるようなことはないと思います。市役所に寄せられたメールから始まった事業も実際にあります。ぜひ若い柔軟な発想で、アイデアを出してもらえたらと思います。

—— ありがとうございました。

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