8日(金)に2019年度春学期のシラバスが公開され、開講される科目が明らかになった。その中でも目を引くのが、今学期から新しく開設される「ミネルバの森(SFC30周年卒業生連携科目)」だ。編集部では2月20日に三田キャンパスで行われたミネルバの森委員会に同席取材を行った。委員会には長谷部葉子環境情報学部准教授や鈴木寛総合政策学部教授のほか、SFC三田会(事務局)やSA/TA候補などの学生らが参加した。

「ミネルバの森」のホームがSFC

—— 「ミネルバの森」とはどのような意味なのでしょうか。

鈴木和博さん(塾員・SFC学部1期生)
私たちの卒業式の次の日に、「SFCの本当の卒業式」ということでテイクオフラリーをθ館でやったんですよ。その中で、加藤寛総合政策学部長(当時)が涙ながらに話されたのが「ミネルバの森」です。「人類の知の原点であるギリシャのアテネには、ミネルバという知を司る神がいて、たくさんのフクロウを従えていた。SFCはミネルバの森で、SFC生はフクロウたち。みんなこれから森を飛び立ち世の中を照らしに行くが、翼が疲れたときには還ってきて、この森で英気を養ってまた飛び立ってほしい」というお話で、そのためのホームとしてSFCは常にあり続けるということを話されていました。

長谷部准教授
SFCでのミネルバの森の認識としては、私たち教員や学生がミネルバの森にいる側なんですよ。卒業なさった方々が羽を休めるだけではなく改めて羽に力をつけて飛び立ちます。学生たちはミネルバの森の中に居るので、実際先輩方がどんな方なのかわかっていませんから、客観的に見ることで森から出た先の世界を想像して先輩と一緒に飛び立つ、と、そんな解釈をしています。
ミネルバの森について説明する長谷部准教授 ミネルバの森について説明する長谷部准教授

—— この授業には特にどんな学生に受講してほしいですか?

長谷部准教授
ミネルバの森というものに興味を持って飛び込んでみたい人、「春学期はこれに賭けてみよう」というくらいの気持ちがある方に来てもらいたいです。全員が1から始められることにすごく面白さを感じているので、そういうことをやってみたいという人と学年・経験関係なく、授業を作っていきたいです。

鈴木さん
「これ成績取れるよね?」というような短期的な対価を求めるのは合わないと思う。悩みに悩んで取るというよりは、直感的にこの授業にワクワクしたものを感じて、「あ、なんかチェックしちゃった」くらいの取り方で来てくれる人の方が伸びしろが多いのかなとも思います。

星野尉治さん(塾員・政策・メディア研究科1期生)
SFCには2つのタイプの人がいると私は思っています。中学高校くらいから自分がやりたいことのテーマが決まっている人と、自分が何をやりたいのかを見つけにSFCに来る人です。私はどちらの人にもこの授業を取ってもらいたいと思っています。社会で活躍している人や仲間たちとコラボレーションによって何か一つのものやことを作り上げていく、そのきっかけになってくれればいいなと考えています。

鈴木教授
「受講する」じゃないんだよね。SFCは教授から一方的に知を伝授するという場ではない。先輩に世界の最先端の情報を教える、みたいな。だから、君たちが一番調べてきて考えて、先輩たちに教えてあげる。まさに半学半教っていうのはそういうことで、この授業にくる学生は、「次は先輩に何を教えてあげようか」と、そういう場ときっかけにしていってもらえたらと思う。

講義だけではないプログラム

—— シラバスを見ると、合宿も行うそうですね。

長谷部准教授
2回あります。最初の1泊2日はチームビルディングをしていきます。本音の議論ができるような環境づくりのための合宿ですね。自分の興味分野・専門性を共有しながら、相手にどんな人たちがいるのか知ってもらう下地作りです。2回目は7月の最終プレゼンです。今まで作り上げてきたものを将来的にどんな形で見据えているのか本気でプレゼンして、最終的に青写真を作るための話し合いができる場として用意します。

—— お話を聞いていると、「ミネルバの森」は14回の授業だけでは終わらない印象があります。

長谷部准教授
授業とか特プロとかORFだとかと最初から固定しておくのではなく、それらが自然につながってきて意思が生まれていく、という方が自然で良いと思っています。

—— ということは3・4年生というよりは1・2年生向けの授業なのでしょうか。

八木進さん(環4)
必ずしもそういうわけではありません。就職活動を見据えた3・4年生の同期を見ていると、市場価値がどうとかキャリアがどうとかがという話を多くしているんですが、就職の論点ってそういう所じゃないよね、という思いがあり、もう一度SFCの考え方をインストールする機会が必要なのかなと思っています。社会には魅力的な最先端ってあると思うんですが、その意味を取り違えず、SFCの原点を振り返って進路選択をする上で「ミネルバの森」は良いなと思います。
委員会に出席した学生たち。手前から、八木さん(環4)、松岡さん(環4)、白土さん(環2)、斉藤さん(総3)、林さん(総2) 委員会に出席した学生たち。手前から、八木さん(環4)、松岡さん(環4)、白土さん(環2)、斉藤さん(総3)、林さん(総2)

—— この授業にはどんなことを期待されていますか?

鈴木さん
私は学生の変化だけではなく卒業生の変化も気になっています。14回の授業でいろんなインプットをもらった学生たちから刺激を受けて変容する卒業生たちがすごく楽しみです。最後には学生が「卒業生にもの申す」みたいなことをいろいろな形でできれば良いなと思いますし、卒業生がさらに「若い者には負けないよ」という話をしだす、そういう形の相互作用が生まれると良いなとイメージしていますね。

星野さん
現役の学生と全国・全世界にいる卒業生がつながり、気兼ねなく気軽にコラボをするとか、ちゃんと敬語使えているかなとか気にしすぎずに、ざっくばらんに問題意識を共有するとか、先輩後輩という境界線のようなものを取り払ってそういうことができる関係性を築くきっかけになってほしいです。

—— 実際に外部の卒業生の方にもゲストスピーカーとして来ていただくそうですね。

鈴木教授
「外部」の方に来ていただくわけではありません。SFCファミリーの、卒業生の方々ですから「内部」の方です。

長谷部准教授
ゲストスピーカーとしては6人の方に来ていただく予定です。具体的にどんな方がいらっしゃるかは「乞うご期待」です。

—— 最後に「ミネルバの森」の概念が授業という形で実現されるにあたっての気持ちをきかせてください。

八木さん
この授業に関わることで「卒業するという感じがしない」という印象です。これからもSFCと強く繋がり、物理的にSFCに行く機会にもなるので嬉しく思います。ゆくゆくはプロフェッショナルとして仕事を語れるようになりたいです。

鈴木さん
卒業してからSFCと関わるのはすごく面白いのだけど、仕事にドライブがかかってくるとだんだん時間がとれなくなるんですよね。しかし、直接的に授業という場面を通じて関わりができるのは新しいチャレンジの領域にもなるし面白いと思っています。

鈴木教授
ミネルバの森には、まさに半学半教で、世代を超えて新しい時代を作るきっかけになって欲しいと思うし、そう信じています。「新しい時代を作りたい人、来たれ」ということですね。
楽しそうに「ミネルバの森」を語る星野さん(左奥)、鈴木さん(左中)、鈴木教授(右中)、長谷部准教授 楽しそうに「ミネルバの森」を語る星野さん(左奥)、鈴木さん(左中)、鈴木教授(右中)、長谷部准教授

学生だけではなくSFC全体で作る「ミネルバの森」。授業だけでは収まらないその取り組みに今後も注目していきたい。

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