24日(月)夜、塾生代表選挙の候補者討論会が三田キャンパス南校舎で開かれ、立候補している3人と来場した塾生らが意見を交わした。選挙管理委員会主催のこの会は18時37分に開始。各候補者の自己紹介と公約紹介からはじまり、3つのテーマについてパネルトークが行われた。

なお、各候補者の発言はそれぞれの発言を基に記述しており、SFC CLIP編集部ではすべての事実確認は行っていない。

予算・時間と公約の達成

一つめのテーマは「全塾協議会の予算と大学当局の予算」。前田稔候補(商4)からの「大学の予算が大きく動く公約は実現できないのではないか」という質問に関して、全塾協議会予算の活用方法について議論がなされた。

前田候補「公約どう実現するのか」

まず前田候補は、過去2代の塾生代表の公約は達成されなかったものが多いと指摘。その上で若林卓実候補(総3)と椎木里佳候補(文4)に対し、どのように1年ないし半年で公約を達成するのかという疑問が投げられた。

前田候補が過去の公約実現状況を説明 前田候補が過去の公約実現状況を説明

若林候補「他キャンパスにもSFCと同じ環境を」

若林候補は、他の候補とは違い自らが3年生であることから、「半年ではなく1年かけて公約を達成する」と述べた。その上で、SFCでのCNSプリンターの提供とSFCの残留制度を挙げて、「他キャンパスではプリンターの使用に毎回料金がかかったり、一夜漬けなどをする学生の環境が作られていなかったりする」と指摘。「インフラや学んだことを復習する環境を整えたい」と公約を確認した。

質疑では「プリンターの使用を無料化した分学費が上がるのではないか」「予算のあてはあるのか」といった懸念が挙がったが、若林候補は「自治会費の750円の内訳を活用したい。その大部分を持っていっても良いかと思う」「自治会費自体にも疑問があり、時代に合わせて自治会費を増やすというやり方もあるかと思う」と回答した。また、前田候補からは「日吉キャンパスには『タダコピ』といって、裏紙を使えば無料でコピーができる仕組みもある」という指摘があった。

椎木候補「履修登録画面を安価に改修」

椎木候補は、「自らが運営する会社のホームページが20万円程度で作成できた。履修登録画面の改修も安価に抑えられる」と自らの経験をもとに述べた。また、過去の塾生代表の公約については「とても大きな公約だった。1年で学生にできることは限られているので、何代にもわたって継承することが必要だ」とし、「過去の塾生代表の公約も継続していきたい」と語った。

塾生からは「20万円に抑えられたのは静的ページだったからではないか」「特定の外部企業に委託することに反発が起きるのではないか」という質疑があった。これらに対し椎木候補は「企業側には『慶應のホームページを改修した』という事実を与えられるため、20万円でなくとも交渉次第で安く改修できる」「現状のページ制作が全く外部の企業によるものかか塾員が関係しているのかは分からないが、完全に外部委託したからといって反発はそこまで起きないと考えている」と回答した。

塾生代表は必要?

二つめのテーマは「塾生代表の立ち位置と選挙」。椎木候補から前田候補に対し「塾生代表はそもそも必要なのか、選挙費用はカットすべきものなのか」という疑問が投げかけられた。

前田候補「塾生代表と全塾協議会は絶対に必要 選挙は指名制に」

前田候補は疑問に対し、「全塾協議会は必要な組織だが、塾生代表を直接投票で選ぶ必要はない」と回答。以下の3つの理由を述べた。

  1. 塾生代表自体の歴史が浅く、役職ができる前は塾生代表なしで全塾協議会が機能していた。
  2. 今回の選挙コストが約250万円かかっている。一方、前回の選挙でははがきを送らなかったため約20万円しかかっていない。塾生全員に通知する方法はkeio.jpポータルなどいくらでもある。
  3. 投票率が低すぎる。国政選挙でも35%あるのに塾生代表選挙の平均投票率は10%弱。全塾協議会と塾生代表に力がないから、多くの人は興味がない。力がない理由に自治会費が低いことが挙げられるが、高すぎると権力を持ちすぎるため今の状況は悪くないと思う。しかし、その中から選挙に250万円かけるのは良くない。

指名制を提案する前田候補 指名制を提案する前田候補

その上で、選挙の代わりに塾生代表を指名制に移行することを提案した。具体的には、

  1. 上部七団体から毎年交代制で選ぶことで、政策の偏りを減らす。
  2. 塾生代表のリコール発動条件を緩和し、全体の10%の署名を集めるだけで解任できるなどのシステムを作ると予算配分などで平等性を心がけるようになる。

という提案だった。

若林・椎木両候補からも質問

この指名制の提案に対し、若林候補からは「仮に今後の塾生代表の出身団体が不祥事を起こし制裁を与える状況になったら、その団体に有利になる気がする」と疑問があったが、前田候補は「それを言ったら今回の選挙でも何かしらの組織出身の候補者がいる」と現状を説明。また、自らが経済新人会のメンバーであることに触れ「自分が塾生代表になったら、疑惑の目をカットするため経済新人会を辞める」と発言した。

椎木候補からは「例えば體育會から塾生代表を出す年には早慶戦関連の政策のみ進めるなど、団体によって偏りが出そうだ」との声があったが、前田候補は「そのためにリコールを緩和する」と反論。同じく「上部七団体に所属しないと塾生代表になれないのは民主主義的ではない。それは単なる上部七団体の代表選で、みんなから信用されたわけではない」という意見には「確かにそのようなシステムになる」と認めた上で「逆に言うと、学生団体に入るモチベーションになる」と別の視点を示した。

前田候補の提案に椎木候補も質疑する 前田候補の提案に椎木候補も質疑する

また、選挙の方法に関して、若林候補から「現状の投票は任意だが、メールで何度も催促したり、全員に投票を義務づける方が慶應について考えるきっかけになるのではないか。自分が塾生代表になったらそういったことを推し進めたい」という意見が出たが、前田候補は「限られた予算でどうするのか」と反論。若林候補は「まだ考えられていないが、広く多くの方に関心を持ってもらうきっかけになると思う」と述べた。

塾生自治の意義

最後のテーマは「選挙のあり方と全塾協議会の意義」。まず若林候補が自分を含めた候補者3人に対し選挙活動の感想を求めた。

前田候補は「3週間かけて各キャンパスで計11回の演説をした上、全キャンパスを巡る60kmマラソンを勝手に敢行した。その中で、喫煙所縮小や食べる場所がないといった、ミクロだが全キャンパス共通の課題を発見した」と述べ、「喫煙所縮小に関しては、学事への依頼となるが、個室喫煙所を設ける提案をしたい。食べる場所は、特にSFCでは夕方以降サブウェイしか開いていない問題がある。食堂は人員を割くのでコストがかかってしまう」と見解を示した。

若林候補は「現地に赴いて現地の声を聴くことを大事にした。自分は應援指導部に所属しているため、塾生からの意見もきいてきた」と今までを振り返り、塾生代表就任後は「公約の目安箱を通じて広く意見をきいて、それを解決したい」と述べた。

幼稚舎から慶應義塾に通う椎木候補は「各キャンパスに行ってみて、『慶應って自分が知っているのと違う』と実感した。日吉キャンパスでの性犯罪対策のシンポジウムにも行ったが、思っているより深刻だと感じた。大学にまかせたり野放しにしたりしていたら慶應の名誉に関わると思い『大学間でコミュニケーションをとるなど、いろんな大学を巻き込んで根本から変えたい』と発言した」と話した。

若林候補「全塾協議会の意義を伝えるには?」

次に若林候補から、「全塾協議会の意義を伝えるにはどうすれば良いか」という問いがなされた。

前田・椎木両候補に議論を促す若林候補 前田・椎木両候補に議論を促す若林候補

椎木候補は「SNSしかない」と主張。「討論会で直接話すのも大事だが、その場で終わってしまう。毎年新しいツールが出てきているので、それらを使ったり、拡散力のある塾生から力を借りたりしたい」とした。
前田候補は「SNSはたしかに強力だが、SNSを使っている塾生の意見しか届かなくなるのではないか」と懸念を示したが、これについては「全員ではないが、ほとんどの学生は使っており、一番お金も労力もかからず周知できるのはSNSだ」と強調した。また、「全員に知ってもらう必要もない。個人の自由だから、興味のない人がいても良いし、興味のある人はSNSから情報をとればいいと思う」との考えを示した。

最終的に前田候補は「いろんな人が関わるのが大事。いろんな方が選挙に出ているから、いろんな関心のある方が選挙に関心を持ってくれる。その手段としてSNSは大事だと思う」と、SNSの利用に賛成の立場を表した。

白熱の質疑 塾生から多くの疑問

パネルトークのあとは約30分間の質疑が行われた。質問は来場した塾生からだけでなく、選挙管理委員会が行ったネット中継のコメント機能からも行われた。

塾生の不祥事 全塾協議会ではどう対処

塾生から寄せられた「塾生の不祥事に対して全塾協議会ではどのように対処するのか」という質問に対し、各候補者は考えを述べた。

前田候補は「大学は不祥事があると張り紙を張り出しているが、全塾協議会では行っていない。張り出しならばコストがそれほどかからないし、『塾生も不祥事を良くないと思っている』という意思表示を全塾協議会主導で行うことは重要だ」と張り紙を提案。

若林候補は「あまり知られていないかもしれないが、塾生代表の承認で不祥事を起こした団体を処分することができる。塾生代表として厳正に対処していくことが重要だ」と塾生代表の立場を利用した前例を引き合いに出した。

塾生からの質疑に答える若林候補 塾生からの質疑に答える若林候補

椎木候補は「雑誌の編集者に『慶應にはどういう不祥事が起きてどう対処したかを公開するサイトがあったのに、なぜなくしたのか』ときかれ驚いたことがある。大学はメディアの記者に拾われるのを避けているんだと思う。自分が塾生代表になったらSNS等で経過報告を行いたい」と現状の体制に疑義を唱えた。

性犯罪対策本部 意義と法務面の整備

議論は不祥事から椎木候補の公約である性犯罪対策本部に移り、前田候補から「事実確認能力の不足や、恣意的な運用による冤罪・訴訟の可能性も考えられ、法務面の整備を継続的に行うのは難しいのではないか」という意見があった。

それに対し椎木候補は「学生団体だけでは確かに無理だ」とした上で「外部の方は既に窓口を持っており、プロとして法務面の整備を行っている。そうした方を迎え入れるので心配はない」と対策を提示した。

また、塾生から外部団体に経費をかけてまで対策本部を立てる意味をきかれた椎木候補は「慶應は内部にしがらみがあるし、そもそも大学は学生がレイプされるのをどうでも良いと思っている。実際に不祥事に関するサイトを消して事実を隠蔽している」と先ほどの疑義を持ちだし、「例えば教授にセクハラされたあとに教員がやっているハラスメント防止委員会に相談できるかという不信感があると思う。内部の学生と外部のプロの意見を合わせた組織を考えている」と回答した。

アカハラ(アカデミックハラスメント)やアルハラ(アルコールハラスメント)ではなくセクハラに特化した理由に関しても、椎木候補は「慶應のオリエンテーションではアカハラもアルハラも扱うが性犯罪については扱わない。早稲田や他の大学では扱っている。大学は性犯罪を軽く見ているが、人権に関わる問題だと思う」と大学の現状を指摘し、「レイプや痴漢は犯罪で、そうした被害者はハラスメント防止委員会になかなか行けない。対策本部で相談窓口としての役割を持つべきだ」と、自らの公約の固有性を主張した。

椎木候補は公約の重要性を説明する 椎木候補は公約の重要性を説明する

不祥事から塾生を守る党 不祥事が前提?

塾生からは前田候補に対し「不祥事から塾生を守る党の『不祥事をトリガーとし』という表現が、不祥事を起こす前提に聞こえる。また、それだけでは根本的な対策にはならないと思う」という声が挙がった。

これに対し前田候補は「不祥事を防ぐ方法はない。誰かがやらかしてしまうんだから止められない」と根本的な対策がないことに同意。「しかし、起きたときの対策は改善できる。『あいつは不祥事を起こしたかもしれないが、他の塾生は違う』と言って社会貢献をすることで、ブランドイメージの低下を避ける」と守る党の意義を主張した。

結局塾生代表の存在意義は?

議論の終盤には塾生から「長期的政策が足りていないのではないか。ここまで議論したが、結局塾生代表の存在意義が分からない」という意見が出た。

前田候補は「啓蒙活動、予算を浮かす活動、予算を配る活動という半年で確実にできる現実的な公約を出した。長期的視点は就任後に伝えたい」と自身の公約を振り返った。

若林候補は「公約は短期的ではなく長期的なものを想定している。塾員になってから『慶應で良かった』と思える慶應への結びつきを深くしたいと思っている。もし自分が塾生代表に選ばれなくても、他の二人にそういう視点を忘れてほしくないし、塾生代表に受け継いでいってほしい」と慶應愛をみせた。

椎木候補は「前に立つ人間として毎日サンドバッグのように打たれている。これは塾生代表になったら誰もが経験すると思う。そうやって意見を受け止めつつ真摯に変えていけたらいいと思う。選挙で選ばれなかった二人のことも、慶應のことを考えてくれた人だと思ってほしい」と候補者同士の結びつきを見せた。

最後に各候補からあいさつがあり、候補者討論会は20時31分に終了した。

閉会後は3人そろって撮影に応じ、仲の良さをアピールした 閉会後は3人そろって撮影に応じ、仲の良さをアピールした

投票は28日(金)まで 変更も可能

今回の候補者討論会では各候補から新たな視点や意見が提示された。これによって塾生同士での議論も活発になるだろう。

塾生代表選挙の投票は電子投票所及び各キャンパスの投票所で行われ、電子投票所での期限は28日(金)23時59分、各キャンパス投票所での期限は同日16時30分となっている。また、一度投票したあとでも投票内容を変更することができる。

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