秋祭1日目の10月10日(土)、書籍や映画でヒットした「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」(著: 坪田信貴、発行: 株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス)のモデルとなったことで知られる小林さやかさん(10年総卒)が母校SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)で受験生向けのトークショーをおこなった。SFC CLIP編集部はトークショー後、小林さんに独占インタビュー。第2部では「ビリギャル」こと小林さやかさんと受験勉強への原動力について取り上げる。

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「父への憎しみがいつか感謝になる」と坪田氏

大学受験への原動力は?

大学受験の勉強は長期間にわたるもので、しばしば息切れしやすい。さらに「ビリギャル」の小林さんは中2以降、高2までほとんど勉強をしていなかった。そのため、受験レベルに学力を持っていくまでモチベーションを保つのは簡単ではないことが容易に想像つく。小林さんのモチベーションを最後まで保ったものは何だったのか。…それは意外なものだった。
そのモチベーションは 「父への憎しみと母への感謝だった」と小林さんは語る。小林さんの両親は仲の良い夫婦とは言えなかった。特に子どもたちへの教育方針には大きな溝があった。

高校まで野球をしていたという小林さんの父親。弟をプロ野球選手にすることを目指していた。さやかさんや妹にはあまり関心を持たず、弟には野球コーチとしてひたすら厳しく指導し続けた。やりたいことをやらせるべきという考え方の母親とは全く合わなかった。

「慶應に入れるなんて言う塾は詐欺だ」と父親

両親の不和に加えて、ギャルのような格好や髪の色を父親に怒られるのも嫌で小林さんはなかなか家に帰らなくなった。父親と顔を会わせれば必ずけんかをした。小林さんは「父親をくそじじいと呼んでいた。最近、結婚式の父親への挨拶のなかでやっと謝罪できた」という。

坪田氏が講師をする塾に通い始めるときも、父親には「不良のおまえが慶應に入れるなんていう詐欺師みたいな塾に払う金は1円もない」とまで言われ、強く通塾を反対されたという。小林さんは坪田氏にいつも父親について愚痴をこぼしていた。その愚痴に対し坪田氏は、「君は結果的に今憎んでいるお父さんに感謝をするようになるだろうね」という意外なことを口にした。
人間の感情で最も大きなものは憎しみで、その悔しさこそが力になると坪田氏は言ったという。坪田氏は小林さんのマイナスの感情をうまくプラスに変えたのだった。

悔しさこそが原動力

このような父親の言葉に限らず、小林さんが慶應合格を目指していることに対しては冷たい言葉が多々かけられたという。高校の体育教諭には「おまえのようなバカが慶應に受かるわけがない。もし受かったら校庭で裸になって逆立ちしてやる」とまで言われた。結局、慶應合格後もその体育教諭はごまかして実際に逆立ちすることはなかったというが。

小林さんはトークショーのなかで「私のほうがビリギャルよりすごい困難を乗り越えてきた、と言ってくる人がやたら多い。私に言われても困るけど」と言った。会場が笑いに包まれたあと、小林さんはこう言う―「そういうことを言える人って、私と同じ悔しい思いをしているっていうところが一緒なんですよね」と。

実際に学年最下位から慶應に合格するという「ビリギャル」のケースはSFCではそんなに珍しくない。「なぜあの『ビリギャル』程度の話が話題になったのかよくわからない」という声までキャンパスでは聞かれるほどだ。

高校の授業に一度も出たことがないという人ならよくいるし、小学校からグレていたという人も普通にいる。実際に筆者も高校を卒業していない。SFCは、例えば「英語・小論文」「数学・小論文」という少ない科目で受験できるなど、慶應義塾の他学部と入試傾向があまりに違うために、さまざまなキャリアを辿ってきた人がいるのだ。しかし、彼らの誰しもがどこかで悔しい思いをしているからこそ、SFCという場にたどり着いたと言える。

「そういう人たちこそ、絶対に見返してやるという思いを持ち続けてほしい」と小林さん。数々の悔しい思いを持ちながらも、最終的に慶應合格という目標を達成した経験から「人間は何かしら悔しい思いをしているから頑張れる」と。小林さん自身の場合も慶應合格が絶対無理だと言ってくれた人に結果的には感謝しているそうだ。

第2部では父親への憎しみと受験への原動力について取り上げた。第3部では母親への感謝について取り上げる。

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