ORF2日目のセッション「モノづくりと知の融合:デザインの将来」では、主にメディアアートを研究する環境情報学部の教授・講師陣が集結。パネリストらは今までの自らの活動からデザインの将来を語った。


■ パネリスト
筧康明環境情報学部専任講師
中西泰人環境情報学部准教授
増井俊之環境情報学部教授
司会:加藤文俊環境情報学部准教授

縛られない環境

大学という場所に縛られず、自由に研究・発表など行うパネリストたち。自分の居場所や枠組みを、自分にとって好ましい場所に移し仕事をしている。まずパネリストらが今まで何をしてきたのか、SFCにおいて学生とともに何をしたいのかが語られた。
・筧康明講師
 実世界情報環境デザインの研究が主な仕事。実世界とデジタルのかけ橋となるようなインターフェースを生み出すことや、そこに生まれるインタラクションのデザインというものに興味持ち、それを可能にするデジタルメディアの開発を行っている。
 実世界とデジタル世界はコンピュータの発展とともに両者の間の垣根がなくなってきて、新しい世界が生まれている。そこでリアルとヴァーチャルを一つのものとして捉え、新しい世界をデザインするという考え方のもと、研究している。今までには見る方向によって違った情報を見せることのできる「ルミサイトテーブル」などを開発してきた。特別な機器を持たずとも、情報環境にアクセスできるようにしていきたい。
・増井俊之教授
 ユーザーインターフェースのデザインをしている。特にWebサービスでの開発が主で、本棚.orgやGyazoなどを開発してきた。Webサービスでの開発を主にしているのは、インストール不要でどこでも利用可能と利便性が高く、また実運用でのユーザテストが可能で情報を一元化できるなど、数々の理由があるからだ。今後はGoogleにできないもの、例えば自宅の戸締りの遠隔化などといったものを開発し、Webサービスとユビキタスコンピューティングの融合をしていきたいと考えている。
・中西泰人准教授
 主にインタラクションデザインをしており、色んなメディアを作ったり、そのメディアを作るための設計支援システムの開発を行っている。全世界プログラミングをしてきた中で、カメラを使うことが多い。テクニカルな面においては、メジャーになりつつあるデジタルサイネージの走りとも言える研究だが、人がどこを見ているのかをカメラを使って動的にトラッキングして情報を提示する、といったものを作ったりしている。
 メディアアートの面においては、見知らぬ人同士でお互いの位置情報を知らせ合う「見知らぬカゾク」を作った。見知らぬ人同士が位置情報を共有することによって生まれる、インタラクションとは何なのだろうか? というテーマに焦点を当てたアート作品である。「見知らぬカゾク」のほか、「時空間ポエマー」や「City Compiler」といった様々なモノを生み出している。

自分の居場所の確立

続いてセッションはパネリストたちの共通項に焦点が当てられ、研究の実用性や世間に対する問題提起、そして自由であることが挙げられた。いずれも自分のやりたいことをやり、その結果として今の評価や職場といった「居場所」を得ているパネリストら。「自分の居場所」を見つけた時の感覚や、迷いについて語られた。
・筧康明講師
 自分自身の居場所と、研究分野としての居場所の二つの考え方がある。自分自身の居場所については、他の人とのコラボレーションによって自分自身がどのような存在なのかを理解でき、周りと関わることが出来る。そんな今のポジションは良いと思っている。
 
 研究分野としての居場所については、メディアアートともインタラクションデザインとも言える曖昧なところ。そこに自分がいるという感覚を常に持っている。自分のやっていることに言葉をつけることがいいのか。メディアアートという曖昧なもののままにするという考えもあるが、定義づけることによって次に進めるという考えもある。今の自分はその中間地点にいる。だが、ここ数年は自分のやってきたことをまとめたい、定義づけたいという局面に来ている。
・増井俊之教授
 偶然が大事だと考えているし、今までにも偶然が多かった。偶然に自分の居場所を見つけたという感覚。コンピュータを始めた理由はハード面の興味から。結局なりゆきでソフトウェア開発をやることになった。シャープに就職した時など、友人に連れていかれて見学に行ったのに、自分だけがそのまま就職。そこでウィンドウシステムの開発に携わったことからソフトウェア開発に専念するようになった。これも偶然、流されてだった。偶然に、流されて、そんな風に自分の居場所を見つけるのも良いのでは。
・中西泰人准教授
 筧さん、増井さんの2人に似ている。色んなコラボレーションをするときにも、相手の領域についても勉強しようと考えている。気づいたらその分野の本が書けるぐらいに。そうしているうちに気づいたら自分の領域がすごい広くなっている。
 インタラクションデザインもかなり範囲が広い。言葉で定義づけないと次にいけない。定義することによってインタラクションデザインという分野を具体的なものにし、分野としての居場所を見つけられ、次へ繋げられる。そして、自分のターニングポイントも偶然訪れたもの。もしかしたら僕はマイクロマシンを研究していたかもしれない。そんな偶然によって自分が広がっていった。なので、コラボした人の領域を勉強したい。そうった部分があるから、自分は自由に見えるのかもしれない。