革新的な取り組みが多く見られるORF2014。SFCのまちづくり研究を担う飯盛義徳研究会の多彩なプロジェクトの展示を取材した。

 飯盛義徳研究会(以下、飯盛研)は地域を元気にする具体策を探求するために、レクチャー、ケースメソッドを取り入れたディスカッションや地域でのフィールドワークなどを組み合わせた教育研究活動に取り組んでいる。50人以上のメンバーが在籍しており、現在は自治体、NPO、企業と協力しながら10以上の研究プロジェクトを擁している。

飯盛研究会

今年のORFでは「地域がキャンパス!」と題し、地域と大学の連携に主力を注いだ研究発表を展開する。今年度新たに発足した「金沢市元気プロジェクト」をはじめ、2009年から進化を続ける「上五島元気プロジェクト」など多彩なプロジェクトの研究成果が展示されている。所属するSFC生に各プロジェクトについて話を聞き、飯盛義徳総合政策学部教授にセッションなどとのつながりを聞いた。
 

地域に新しいつながりを―生まれたての「金沢市元気プロジェクト」

「金沢市元気プロジェクト」は今年9月から10月にかけて新しく発足した、できたてほやほやのプロジェクトだ。石川県の学都である金沢市と慶應義塾大学が連携し、地域に新しいつながりを生み出すというコンセプトで生まれた。塾生と金沢市政に加え、現地の学生団体らが主体となり、大学生の力で地域を変えていく。夏に行われた飯盛研の合宿では、金沢市でフィールドワークを行い、地域の課題を発見、市政に政策提言を行った。現在実行が検討されているプロジェクトはふたつ。ひとつは政策提言において最優秀賞を獲得した「カナジョプロジェクト」。これは金沢市の女子学生の目線で金沢の魅力を再発見し、商品開発やプロモーションにつなげていくというものである。ふたつめは「相席プロジェクト」と呼ばれ、社会人と学生が相席をすることで、まちのなかでのつながりを形成していく仕組みをつくることを目標としている。どちらのプロジェクトも現在進行形で始動に向かって進められているところであり、まさに域学連携の始まりを見ることができる展示となっている。

地域住民が地元を発信―進化し続ける「上五島元気プロジェクト」

2009年に始まった「上五島プロジェクト」は、長崎県五島列島の新上五島町を主なフィールドとして活動している。五島列島は、地元出身の漫画家ヨシノサツキが描く漫画『ばらかもん』(スクウェア・エニックス、2008年-)の舞台で有名だ。このプロジェクトの特徴は、初期から現在に至るまで様々な進化を続けながら地域活性化に取り組んでいる点である。初期は、地域住民が主体となって、地元のあらゆる情報をデジタル機器とインターネットを用いて発信すること目指し、映像を用いた地域情報発信の講習やフォトコンテストを開催。昨年からは、新たに首都圏の大学生を誘致するための情報発信を行う活動も開始した。
 ブースでは、上五島の美しい写真や多数のおみやげも展示。ORFを通じて新上五島町の良さを知ってもらうきっかけづくりに努めている。

上五島元気プロジェクト おみやげ

まちづくりは「ひとづくり」―高校生と地域活性化を考える「VITA+」

飯盛研では、ケースメソッドと呼ばれる実際の事例を取り上げてディスカッションを行い、自ら問題を発見し解決する能力を養う手法を取り入れている。この手法を応用し、地域の高校生への教育活動に取り組んでいるプロジェクトが「VITA+」だ。
 「VITA+」という名称は、若い人の元気を表す「Vitamin」と、人とのつながりを表す「プラス」に由来する。まちづくりのためには、その地域の人々が活躍し、つながるための力が必要であるという考えから「ひとづくり」をテーマに掲げて活動している。「VITA+」が高校生向けに編集した教材「ジュニア・ケースメソッド」では、実際に地域活性化で活躍している方を主人公とした事例を扱う。クラスディスカッションとグループディスカッションを通じて、自らの意見を伝える「勇気」、相手の意見を受け入れる「寛容」、相手を尊敬し信頼関係を築く「礼節」の3つを高校生に学んでもらうことを重視している。
 今回のORFでは、実際にジュニア・ケースメソッドが活用されている様子を収めた写真のほか、配布するフライヤーにも力を入れており、メンバーみんなでこれまでの活動とこれからの方針をまとめた。「VITA+」が育てる生き生きとした高校生の姿に注目だ。

京の都にコミュニティビジネスを 「京丹後市元気プロジェクト」

「京丹後市元気プロジェクト」は、京都府京丹後市峰山町南地区を中心に、市と連携してコミュニティビジネスを生み出そうというプロジェクトだ。京丹後市には多くのまちづくりに関わる団体が存在するが、それぞれが独立しており、つながりが少ないという現状がある。そこで、このプロジェクトでは、散在するまちづくり団体を巻き込んだ大きなコミュニティを形成し、互いの枠を越えた活動、ビジネスを生み出すことを目指して活動している。
 今年度メインとなる活動は「マップづくり」だ。例えば「独居老人がどこにいるのか」といった定量的なデータだけではなく、「地域の人々はどの場所に思い入れや愛着があるのか」といった定性的なデータもワークショップなど多様な手法で獲得し、2つのデータを組み合わせてマッピングする。そのマップから、どこにビジネスチャンスがあるのか、どんな地域の強みがあるのかといった価値ある情報を生み出そうとしている。

スポーツでまちづくり―サッカーが地域を変える「Joint」

飯盛研にはスポーツを通じた地域活性化を目指すプロジェクトもある。今年からJリーグに入会した神奈川県相模原市のサッカークラブ「SC相模原」の広報活動などを行うプロジェクト「Joint」だ。地域に密着したスポーツチームは大きな経済的影響力を持っており、地域の結束への鍵を握っている存在でもある。今期は活動の軸をサッカースタジアムの「内」と「外」の2つに定めており、スタジアム内ではイベント開催、スタジアム外では他大学の学生と連携し、相模原市内での地域貢献活動に取り組んでいる。こうした活動を通じて相模原市内にSC相模原を応援する動きを生み出し、地域活性化につなげるのが目的だ。
 他大学をはじめ、外部とのつながりを強化する活動の一環として、ORFの場を活用していきたいという。

有田焼とアートで地域活性化 アーティスト・イン・レジデンス

佐賀県西松浦郡有田町は有田焼で有名な伝統産業のまちだが、現在は産業の衰退などの問題を抱えている。そこで、飯盛研では、芸術家をある地域に一定期間招聘し、創作活動を行う「アーティスト・イン・レジデンス」にも取り組んでいる。有田焼を生産する名窯徳永陶磁器(株式会社幸楽窯)に、SFC生に加え佐賀大学の学生などが滞在し、作品を制作。その過程において、伝統産業と若いアーティストのアイデアが融合した作品が生まれてくる。さらに、実際に地域に飛び込んで多くの活動に携わっていくなかで、地域の内部と外部をつなぐ媒体としての役割も果たすプロジェクトとなっている。アーティストの滞在制作とそれをサポートする態勢が、まちの人々を巻き込み、有田の未来について考えるきっかけとなるような活動を目指しているという。

デザインの力で飯盛研プロジェクトを支援「REGION and DESIGN PROJECT」

飯盛研のなかでも異色と言えるプロジェクトが、ほかのプロジェクトをデザインで支援する「REGION and DESIGN PROJECT」、通称「RDP」だ。
 プロジェクトが地域の人々と関わり信頼を築いていく上で、「見た目」がしっかりしていることが重要なポイントとなる。「RDP」は、各プロジェクトのウェブサイトやロゴ、メンバーの名刺のデザインなどを手がけており、今回のORFでもポスターやフライヤーに加え、展示全体のレイアウトも含めたトータルデザインも一手に引き受けている。ORFに向けて、立ち見するようなポスターは基本的にシンプルで目を引くようにし、詳細情報はフライヤーに記載することで、活動内容をじっくり見てもらえるようにするなど細かい配慮と工夫を凝らしてデザインしたという。目に留まる美しいロゴなども展示の大きな見どころだ。

セッションと連携! 地域の家族経営に着目した「ファミリービジネスプロジェクト」

飯盛研で活躍しているのは地域を直接活性化させるプロジェクトだけではない。ファミリービジネスの研究プロジェクトは、地域の経済やコミュニティに大きな影響力を持つ家族経営の会社に着目。取材を重ね、そうした企業のケース教材を制作するプロジェクトである。でき上がった教材は地域の企業や伝統産業のために活用されるほか、SFCのまちづくり系の授業、ファミリービジネス論、研究会でも使用されている。
 また、今回の展示は、本日行われたセッション「創業100周年、未来を託す兄弟での事業承継~岩渕薬品株式会社~」と連動した内容となっている。同セッションでは、今年、創業100周年を迎えた医薬品卸の岩渕薬品株式会社(千葉県佐倉市・四街道市、大正3年創業)の経営者と事業を引き継ぐ2人の兄弟を招き、事業承継のあり方、今後の取り組みについて議論が進められた。岩渕薬品を取り上げたケース教材はブースに展示されている。ファミリービジネスの研究はSFCが先端を走る分野でもあり、このセッションへの前評判も高かったという。

ORFから新たなつながりを

本日、飯盛教授は2つのセッションに登壇した。上記のファミリービジネスのセッションに加え、「コミュニティづくりと幸せづくり」という、全国のコミュニティづくりの場で活躍する方々をゲストとして招き、コミュニティづくりが社会にもたらす価値について議論を展開した。
 飯盛教授は「飯盛研はORF全員参加が原則。みんなの研究成果の発表会だという強い意識で出展している。いろんな興味を持った方に参加してもらい、交流を深めることで、次の展開、新しい研究プロジェクトにつながるよう、心がけたい」と力強く語った。

あす22日(土)もORFは続く。飯盛研ブースに立ち寄り、多様なプロジェクトとの新たな出会いを探してみてはいかがだろうか。