今年も多くの来場者でにぎわうORF。その展示ブースのひとつに中西泰人研究室(B05)がある。中西研は政策・メディア研究科x-DESIGNプログラム(XD)に所属し、インタラクションデザインを研究している。

「人がいてコンピュータがいて、という閉じたものではなく、人がいてコンピュータがいて、そのまた向こう側にも人がいるようなものをつくっている」と説明する中西泰人環境情報学部教授。「向こう側にも人がいる」とは、一体どのようなものなのか。その多彩な研究内容にせまる。

本当は会えない人と夢のなかで会えたら…? 明晰夢誘発アプリ「DreamDate」

人は、人生のおよそ3分の1の時間を睡眠に割く。それだけの時間を捧げるのなら、いい夢を見ないともったいない。海に行ったあの時のことを思い出そう、好きな人に会おう、本当は会えないあの人に会おう。そんな思いからつくられたのが、スマートフォン向けアプリ「DreamDate」。「明晰夢(=自分で夢だと気づいている夢)」を誘発するアプリだ。開発に取り組むのは樋山理紗さん(環4)。

明晰夢誘発アプリ「DreamDate」

明晰夢誘発アプリ「DreamDate」

人は寝ている間に2種類の睡眠を繰り返す。身体も脳も眠っている「ノンレム睡眠」と、身体は眠っているのに脳は起きている「レム睡眠」だ。樋山さんは、このうちレム睡眠に注目した。レム睡眠はいわゆる“浅い眠り”で、夢を見るのもレム睡眠の間だという。

DreamDateはスマホの加速度センサーを利用して体の動きから睡眠の周期を検知。深い眠りから浅い眠り、つまりノンレム睡眠がレム睡眠に切り替わったタイミングで音声を流す。周囲の音を感知するレム睡眠中であれば、外部からの音の刺激によって夢の内容に影響を与えられるのではないかという試みだ。流す音声は、利用者の見たい夢の内容に合わせて登録することができる。会いたい人の声、映画やドラマのBGM、自然の音など、見たいものを連想させる音なら何でもよい。

「DreamDate」開発者の樋山さん。

「DreamDate」開発者の樋山さん。

“好きな夢が見られる”―とても魅力的なコンセプトだが、一筋縄ではいかないようだ。「遠距離恋愛に悩む友人のために、夢の中でパートナーと会うことができるような通信機を作ろうと思って」と樋山さんはアプリ開発のきっかけを切り出す。彼氏/彼女が夢を見始めた時に、彼女/彼氏に音声メッセージを送る。そうすれば距離や時差で悩むカップルも夢の中でデートができるのではないかと考え、最初は人の声で実験をしていたという。しかし、睡眠中に人の声を聞いたり自分の名前を呼ばれたりすると、目が覚めてしまうことが多かった。樋山さんは「それなら海の音で試してみようかというように、方向転換をしながら実験を進めていった」と開発の難しさを語った。

心拍数の計測や脳波の感知など、さまざまな実験を重ねてようやくレム睡眠を検知できるようになったという。しかし、流す音声の種類、その音量やタイミングなど、さまざまな要素に関して微調整が必要だそうだ。最も効果的な手法を探るべく現在も実験を重ねており、機能の改善を進め、アプリの完成を目指す。

目の前に“ネイティブスピーカー”の自分が!? シャドウイングの強い味方「FaceShadowing」

実際の「FaceShadowing」の画面。利用者とネイティブスピーカーの間に合成された顔が映される。

実際の「FaceShadowing」の画面。利用者とネイティブスピーカーの間に合成された顔が映される。

外国語の発音を習得するための練習法のひとつに、音声を聞きながら後追いで復唱していくシャドウイング(Shadowing)がある。「FaceShadowing」は、このシャドウイングを補助するツールだ。利用者とネイティブスピーカーの顔をリアルタイムで合成し、「もし利用者がネイティブスピーカーだったら」という姿を映し出す。利用者は、耳ではネイティブスピーカーの発音を聞き、目ではネイティブスピーカーの動きをする自分の顔を見ながら、シャドウイング練習を行うことができるというわけだ。

このシャドウイングに対して、中西教授は「日本語と英語では舌の使い方が違うとよく言われるが、実は顔全体の使い方も違うから、そこもマネしなきゃいけない」と課題を見つけた。とはいえ、例えばアメリカ人に「自分の顔のマネをしろ」と言われても、そもそも顔のつくりが違うためよくわからない。そこで、自分の顔を“アメリカ人の動き”で動かせばマネしやすいのではないかという大胆な発想に行き着いた。実際にFaceShadowingを利用するときの発音と利用しないときの発音を10人のアメリカ人に比較してもらったところ、FaceShadowingを利用しているときの発音の方が高く評価されたという。

FaceShadowingは人の顔を認識して動く仕組みになっているため、言語を選ばない。英語だけではなくほかの言語でも利用できるのだ。人種、性別、体格、そして言語という、学習者とネイティブスピーカーのあらゆる違いを乗り越えることができるFaceShadowing。その応用の幅は広い。

目標達成をコンピュータでお助け 「Futuroid」研究とは?

「Futuroid」(フューチャロイド)は中西教授による造語。英語で「未来」を意味する「Future」と、接尾語で「~のようなもの」を意味する「-oid」を掛け合わせた言葉だ。直訳すると「未来のようなもの」。これが近年の中西教授の研究テーマだという。

人は何かを達成しようとするとき、必ず自分の将来像、つまり自分の「未来のようなもの」をイメージしようとする。ただ、目標までの距離が大きいと、それは困難なものになる。この課題に対して、いかにコンピュータを使ってイメージの手助けができるのか、これがFuturoid研究なのだ。何をどれくらい近づければ、人間は自分の将来像をイメージできるようになるのか。「階段があれば崖も上りやすい。その階段、ステップをどう刻んであげるかということ」と中西教授。その“ステップの刻み方”を解明すべく、Futuroidのテーマのもとに研究をシリーズ化し、さまざまな側面からアプローチしている。

実は、今回取り上げたFaceShadowingはこのFuturoid研究の第1弾。第2弾として「TracePlayer」という研究があり、こちらも今回のORFで展示している。FaceShadowingがFuturoid・英会話バージョンだとすると、TracePlayerは何バージョンなのか? 興味がある人は、ぜひ中西研のブース(B05)へ。

コンピュータで人と人の「橋渡し」を

FaceShadowingは「今の自分」と「自分が目指す人」、DreamDateは「自分」と「会いたい人」といったように、中西研の研究は、コンピュータを用いて「人」と「人」をつなぐ、いわば「橋渡し」をするものとなっている。「向こう側にも人がいる」研究とは、こういうことだ。

中西研のブース(B05)では、ほかにも多くの発表を用意している。それらの研究もまた、コンピュータの向こう側にいる人を意識した研究となっている。それがどのような「人」とどのような「人」をつなぐのか。そして、どのようにつなぐのか。ぜひ、実際にブースに足を運んで確かめてみてほしい。

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