ORF2015初日の20日(金)、セッション「Computer 22.0 ~25年目に100年後のコンピュータを考える~」が開かれた。これから100年、コンピュータはどう進化し、どう使われていくかを考えるこのセッション。コンピュータの専門家4人が語る未来予想のテーマとなったのは、意外にも“未来の正義”だった。

集まった専門家4人。いずれも一流のコンピュータ技術者だ。

集まった専門家4人。いずれも一流のコンピュータ技術者だ。

“100年後のコンピュータ”を考えるため、専門家が集結

今年で25周年を迎えるSFC。今年のORFは、「25年目に100年後を考える」というテーマを掲げている。このORF2015で「100年後のコンピュータを考える」というセッションが、パネルディスカッション形式で開催された。パネリストとして集められたのは、いずれもコンピュータ工学の研究者として第一線で活躍する4名の研究者。

■パネリスト

  • 徳田英幸 環境情報学部教授
  • 坂村健 東京大学大学院情報学環教授
  • 追川修一 筑波大学システム情報系准教授
  • バンミーター・ロドニー 環境情報学部准教授

徳田教授はセッションの冒頭に、“100年後のコンピュータ”というテーマを「なかなかお題が物々しいですね」とした上で、この難しいテーマを考えていく各パネリストを紹介した。

追川准教授は慶應理工学部の出身。徳田教授と坂村教授も理工学部が工学部と呼ばれていたころの出身だ。またバンミーター准教授も、米カリフォルニア工科大学で工学と応用科学を学び、現在は環境情報学部でやはりコンピュータ工学を教えている。研究者・技術者としてコンピュータを見つめ続けてきた4名だ。

徳田教授から簡単な紹介があったあと、それぞれのパネリストからポジションステートメントとして短いプレゼンテーションが行われた。

100年後も変わらないものは何か? 徳田英幸教授

徳田教授は、コンピュータができる前の未来予想として、100年前の人々が100年後を予想した記事を紹介。1901年(明治34年)の報知新聞に掲載された『二十世紀の豫言(予言)』では、「無線電話で海外の友人と話ができる」「7日間で世界一周ができる」「相手の顔を見ながら電話ができる」などの“予言”がなされていた。これらの予想は、現在では実用化され、より進歩しているものがほとんどだ。しかし、コンピュータが登場した現在、100年後を予測するのは非常に難しくなっている。

レイ・カーツワイル氏の唱える「シンギュラリティ」(コンピュータの性能が指数関数的に向上することで、人類が技術の進化を予測できなくなる日が来るという仮説)が世界中で議論されているように、急速な進化を続けるコンピュータをはじめとした科学技術の進歩を、技術的に予測するのは非常に難しい。徳田教授は、一方で人間の価値観や文化が変化するスピードはよりゆっくりとしていることを指摘。100年後を考えるために重要なのは具体的な技術の進化ではなく、「人間とは何か」といった道徳的なことであり、倫理的・社会的な枠組みを考えていく必要があると主張した。

100年後の“正義”を考えよう 坂村健教授

「『100年後のコンピュータを考える』と言われてもよくわからないので断ろうと思った」と会場の笑いを誘った坂村教授は、科学技術の進歩を考えるために100年という尺度に意味はないとして、やはり今考えるべきは倫理的・道徳的な問題であると、徳田教授の意見に同調した。

例えば、トロッコ問題という有名な議論がある。要約すれば「5人の命と1人の命のどちらを救うべきか?」というこの問題は、自動運転のような技術を実用化させていくなかで避けては通れない。また生命科学の実験に使われる受精卵が使い捨てにされることの倫理的問題に関連して、近年では人間が開発した人工知能を人間が使い捨てていいのだろうかという議論も行われている。坂村教授はこうした例を紹介し、100年後のコンピュータを考えるためには技術よりも“正義”を議論すべきだという考えを示した。こういった議論は欧米の方が進んでいるとし、日本でも人工知能の研究倫理について議論し始めていかなければならないと唱えた。

コンピュータは“人間の外部記憶装置” 追川修一准教授

オペレーティングシステム(OS)やストレージ(記憶装置)を専門に研究する追川准教授は、「未来を考える前にまず少し戻ってみよう」と1995年と現在のストレージ技術を比較。追川准教授には革命的に感じられたと語る当時のハードディスクは、容量が1.8GBで重さは1kg、価格は20万円。今ではその数十倍の容量が指先に乗ってしまう大きさに収まっているが、当時は「なんて安くて大容量なんだ」と驚いたという。一方、現在最新のSSD(ソリッドステートドライブ)は容量が6TB、重さは100g。20年で容量が3000倍、重量は10分の1になった。追川准教授はストレージの進化を振り返り、自身が研究しているような最新技術を含め、今後10年はこうした進化が続くだろうという考えを示した。

一方で100年後の未来については「やっぱりわからない」と笑いつつ、人間とコンピュータの関わり方はすでに変わり始めていると語った。重要なことはすべてパソコンのノートに記録しているという追川准教授は、コンピュータが人間の“外部記憶装置”になりつつあることを指摘。コンピュータが人間の記憶や感情を補助しそれにもとづいて行動することで、人間とコンピュータの関係はより密接なものになっていくと予想した。

2115年から100年前のコンピュータを考える!? バンミーター・ロドニー准教授

追川准教授に続きプレゼンテーションを始めたバンミーター准教授は、自身を「2115年のアイザック・アシモフ大学から来た計算機考古学者」とユーモアたっぷりに紹介。もちろん「アイザック・アシモフ大学」は、SF界の巨匠の名を冠した架空の大学だ。「2115年の計算機歴史研究会へようこそ」と、会場までもタイムスリップさせてしまった。

バンミーター准教授は、人類の使っていた計算機技術は20世紀までは「野蛮なものだった」と表現。20世紀半ばにトランジスタが発明されたことで、人類の情報技術はようやく進化の時代に入ったと評した。そして2015年以降、より膨大な計算量への需要から量子コンピューターの必要性が高まっていき、20世紀的なコンピュータから量子コンピュータへの移行が進んでいったと“歴史”を振り返った。

100年後のライフスタイルはどう変わっている?

100年後のコンピュータというテーマに対する各パネリストからの意見が出揃ったところで、徳田教授から3名に対する最初の質問として「100年後のライフスタイルはどう変わっているか?」という問いかけがなされた。

坂村教授は100年後の未来では人間の平均寿命が長くなることで、人間はお金よりも個人の尊厳や人のために何かをすることを重視するようになると予想。「人生が短いから人は遊びたがる」とした上で、寿命が150年、200年と伸びていけば人間はより文化や科学に興味を持ち勉強するようになると予想した。それに対し追川准教授は、「150年生きられるからといって生きたいかというと別の問題」との思いを述べた。

またバンミーター准教授は、人間の肌に数マイクロメートルのセンサーチップを埋め込み診断や治療に用いる医療技術を紹介。こうした医療のための技術が格段に進化した未来では、怪我や病気をすることが大きなリスクではなくなり、スカイダイビングやロッククライミングなど、冒険的なことに挑戦する人が増えると予想した。

ロボットに“人権”は与えるべきか?

続いて徳田教授は、これからの技術的進化を想定した社会的枠組みをつくっていく上で考えなければならない諸問題のうち、ロボットや人工知能に人間と同じような人権や市民権を与えるべきかという議論に注目。パネリストらに、そういった権利を与えるべきか否か、そして与えるならいつ与えるべきかと問いかけた。

バンミーター准教授は「ぜひ与えるべき」としながら、ロボットのできることが今後どんどんと人間に近づいていけば、ロボットがする仕事と人間の仕事の境界線が変わっていき、社会の仕組みが大きく変革するだろうと予想。どういった経緯を経て市民権が与えられていくかを想像するのは難しいと答えた。

また、追川准教授も同じく未来ではロボットに権利は与えられているだろうと回答。その上で、ロボットが市民権を持った場合、ロボットに対する社会保障というものを考える必要が生まれることを指摘した。人間に対して認められている「生きる権利」や、そこにもとづいて与えられる社会保障が、人工物であるロボットや人工知能に対してどういう形で認められていくのか、という疑問を投げかけた。

続く坂村教授は、ロボットに対して人権を「ただちに」認めるべきだと主張。将来的にシンギュラリティのような瞬間が訪れ、高度な人工知能が人類を超越する可能性を考えれば、今から人類はロボットに対して権利を認めたほうが結果的に人類自身のためになるのではないか、という考えを示した。

ユーモアを交えながら、熱い議論が交わされた

ユーモアを交えながら、熱い議論が交わされた

「100年後まで生きて、考えてほしい」

セッションの最後には、各パネリストから締めくくりのコメントが述べられた。徳田教授から「最後にこれだけは言いたい、ということがあれば」と話を振られた坂村教授は、「言い足りないことはないです」と返し、「とにかくSFを読んだほうがいい、大学でくだらない授業を聞くくらいだったらSFを読め」と再び会場の笑いを誘った。

追川准教授は、「僕の外部記憶のデータには残念ながらまだ人権がないので」と前置きし、自分のデータを100年後も読み出せるようにどうやって残していくかを考えていかなければならないと、自身の研究に絡めて今後の展望を述べた。

バンミーター准教授は、100年後と言わず今後10年の間にも大きな技術的革新は訪れるだろうと予測。量子コンピュータやナノバイオテクノロジーといった変革を前にして、そういった技術の社会的な影響を含めて考えることもSFCの大きな仕事の一つであると、SFCの役割を再確認した。

最後に徳田教授は、「問題発見・問題解決型」の教育をしてきたSFCにおいて、今後は自律したロボットや人工知能と協力して問題解決に取り組んでいくのかもしれないと予想。SFCでは「人と人とのコラボレーション」が重視されるが、もしかしたらそれは「人と機械とのコラボレーション」のための準備運動かもしれないと今後の可能性に期待を示した。また道徳や倫理が議論の中心にあったことを振り返り、社会にとって何が大事かを常に考えていかなければならないと指摘。「ぜひ皆さんには100年後まで生きていただいて、人間にとって幸せな社会とは何かを考え続けてほしい」と締めくくった。

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