ORF2016の2日目・19日(土)、セッション「Adobe Education Exchange Kick Off Meeting: 高等学校の教育現場におけるコンピュータの利活用とその展望」が行われた。近年、インターネットや情報端末の急速な発展に伴って、教育現場でもICTをどう活用するかが議論されるようになっている。今回のこのセッションでは、ICTの活用について、教育現場の視点からさまざまな意見やエピソードが飛び交った。

■パネリスト

  • 増渕賢一郎 アドビシステムズ株式会社マーケティング本部教育市場部
  • 大林誠 東京都教育庁指導部高校教育改革担当課長
  • 讃井康智 ライフイズテック株式会社取締役
  • 鹿野利春 国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官
  • 水野大二郎 環境情報学部准教授

ICTを活用した次世代の学び

新しい学びのあり方について語る水野准教授

新しい学びのあり方について語る水野准教授

これからの教育で求められる、ICTを活用した学びとはなんだろうか。水野大二郎環境情報学部准教授は、「情報化だけのICTの利活用から脱却しよう」と語る。「複雑な社会技術システムに向けて、多様な利害関係の合意を形成し問題発見・問題解決を行うには、ICTを用いた素早い試作の反復が必要であり、その力が求められている」と水野准教授は訴える。

現在の複雑化した社会では、デザインする分野を一つに限定できない。グラフィックデザイン・システムデザインというように一つ一つの分野で独立したデザインをするのではなく、広く社会全体を見渡し総合的にデザインすることが求められる。俯瞰的に社会全体をデザインするには、ただ単にグラフィックデザインの分野でICTを導入するといったICTの利活用だけでは不十分だ。単にICTを利活用する発想から脱却した新しい研究の仕方、教育の方法を開発することが必要なのだ。

ICTを利用した学びにおいてキーワードとなるのが「アクティブラーニング」である。アクティブラーニングとは、生徒による能動的な学びを取り入れた教育方法のことだ。現在の学校では教員が生徒に知識を与えるといった受動的な学習が一般的だが、知識を一方的に教授するだけの学びは活用力に欠けており、生徒の主体性を阻害してしまう。ICTを利用した未来の学びは、そういった学びの方法そのものを変えていく可能性を秘めている。

具体的には、このような例が考えられる-まず、教員が生徒に知識を教授するのではなく、生徒自身がタブレットPCなどの情報端末を利用して、学ぶべき知識を調べる。そして、生徒は調べた知識について発表し、生徒全体で共有する。また、それに対して疑問に思ったことを調べて共有する-このように、生徒と教員がお互いにコミュニケーションをとりながら、より実践的で創造的な学びを行うことができる。

ICTを利用した実例

ICTを利用した教育の実例について説明する松下征悟教諭

ICTを利用した教育の実例について説明する松下征悟教諭

実際に行なわれている、ICTを利用した問題発見・解決型の教育についての事例の紹介も行われた。奈良県のある商業高校では、AR技術を生かしたスマートフォンアプリケーションの開発が行われている。具体的には、景観保存の観点から案内の札が立てられない庭園でスマートフォンを景色にかざすと、画面上に説明書きが景色と合成されるというものだ。景観を守るために説明書きを立てることができないという地元ならではの問題を、ICTを利活用して解決したのだ。

他にも、生徒たちがAdobe製のソフトウェアを使い、ムービーやポスターの作成を行い奈良の魅力をアピールするといったことが行われている。奈良県立磯城野高校の松下征悟教諭によると、この活動を通して、初めはデザイン関係に興味があり、デザイン関係の有名大学に合格したこともあったそうだ。

ICTを利用した学びには課題もある。現在、全国の高等学校でICT環境を整備しようという動きが広がっているが、地域や学校によって差があるのが現実だ。1人1台のPCが整備されている学校もあれば、5人に1台程度と、整備が追いついていない学校もある。これらの格差をなくし全国の学校へICTを普及することが求められている。

教員がICTを活用できるか

教員の課題について説明する大林誠高校教育改革担当課長

教員の課題について説明する大林誠高校教育改革担当課長

「教育にICTを生かすには、単にICT環境を整えるだけでなく、それを教員が十分に活用できるスキルが必要だ」と語るのは東京都教育庁の大林誠高校教育改革担当課長だ。都立の高等学校では昭和60年代にはすでに高等学校にコンピュータ室を設けるなど、ICT環境の充実が推し進めてきた。しかし、それらの設備が一度も使われていなかったり、「なぜ多額の費用をかけてまで導入したのか」と現場の教員から反発があるなど、教員側のICTへの理解とそれを活用するスキルが必要であることが浮き彫りになった。ICTを活用した教育は今までの教え方そのものを変える必要があり、生徒に知識を教え込むという考えそのものから離れる必要がる。

創造性を大事にLife is Techの試み

Life is Techの学びについて語る讃井康智氏

Life is Techの学びについて語る讃井康智氏

Life is Techは中高生にプログラミングなどを教えている団体で、スマートフォンアプリの開発からAdobeのソフトウェアを利用したコンテンツ作成まで幅広く手がけている。同団体で取締役を務める讃井康智氏は「まず、何を作りたいかを考え、それを作るというように主体的にものを作るのが特徴だ」と話す。「プログラミングであれば、規則に縛られてコーディングをするのではなく、デザインにこだわりたいならデザインにこだわり、途中でプロモーションビデオを作りたくなったらAdobeのソフトでPVを作る」というように、生徒が主体となり必要なことを自ら学ぶ、アクティブラーニングを行なっている。

Life is Techが行なっているプログラミングキャンプでは多くの子ども達が参加するが、取り組む姿は皆真剣だ。自らが自らの知りたいことを勉強し、自分が作りたいものを作れるようにする。そんなICTを使った未来の学び「アクティブラーニング」のお手本を示しているのかもしれない。

ICT環境が急速に発達し、社会が目まぐるしく変化する現代において、教育の根本を見直す時期に来たのかもしれない。今後、より創造的なICTを活用したアクティブラーニングが活発に行われることを期待したい。

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