大学の4年間は、長いようで短く、短いようで長い。そんな学生生活には、みんなそれぞれの過ごし方があり、人の数だけストーリーがある。大学生活に決まった過ごし方なんてないのだから、みんなそれぞれ、自分の信念にしたがって、自分の道を進めばいいと思う。事実、僕も、そうしてきた。
 しかしながら、全て自分自身でゼロから考えて決断してきたかというと、そうではないと思う。いろんな人の生き方を聞いたりすることで、刺激を受けたり、よいところを取り入れたり、また反面教師として学んだりすることができたことが、自分の進むべき道を探る上で、大きなヒントになった。
 だから、今度は僕が、自分のストーリーを書いてみたいと思う。

将来何をしたいのだろう

小学校・中学校・高校を通して、僕は、学校での勉強がすきだったと思う。新しい教科書を見ると、ワクワクした。いろんな分野に興味があったから、高校のとき、文系と理系に分けられることに納得がいかなかった。両方やりたかったのだ。だから、最初は理系をしていて、途中から文系にした。
 あっという間に大学受験。満遍なく学習するのがすきだったこともあって、試験や成績は大丈夫だったのだけど、僕は、ものすごく大きな問題にぶつかった。大学に行く意味が分からなくなってしまったのだ。
 僕は、学校で学ぶことがすきで、それに没頭してきたけど、将来どういう道に進みたいかということについて、その頃、あまり考える機会をもっていなかった。だから、大学受験という時流に合わせて大学一覧表を見たとき、専門分野に分かれた学部というものを見て、とてもショックを受けた。もっといろいろ学びたいのに、大学に入るときに、どの専門にするかを選ばなければならないの?
 これがきっかけとなって、自分は将来何をしたいのだろう?ということを改めて考え始めた。しかし、考え始めてすぐに答えの出るものでもなかった。受験ムードが高まる中で、僕は、なぜか人生について考える青年に…。目標が定まらないことには、受験勉強など無為であると思うまでになっていった。
 苦し紛れに出した結論は「とりあえず日本で一番すごい人が集まる大学に行こう」というもの。それだけの理由で、最も偏差値の高い国立大学を選んだ。しかし、このような目標設定があまりに浅はかに思えて、どうにも勉強に身が入らなくなってしまった。初めて味わう脱力感。受験は半ば放棄状態となった。

行動してみなければ分からない

高校を卒業した後、将来何をしたいのだろうと考えていた。先行きが見えなくて、結構苦しんだような気がする。目指したい大きな方向性は小さい頃からもっていたのだけど、机上の受験勉強の中で、自分の本当の気もちは何なのか、次第に見えなくなってしまっていたのだ。
 しかし、あるとき、ふと思った。「自分には、まだ、将来何をやりたいかを決められるような、人生の経験が全然足りてない。僕は、18歳。いろんなことを現実世界で実際に体験してから決めてもいいんじゃないか。」
 こうなったら話は早かった。だったら、一つの専門分野だけじゃなくて、いろんなことを学ぶことができる環境に身をおこう。そういう視点で改めて大学を探してみたら、見事にあった。それが、SFCだった。
 分野横断・複合領域・実践型… 僕にとってはキャッチーすぎるコピーで、すぐさま説明会に出向いた。このとき、AO入試という怪しげな入学方法を知り、僕は、早速挑戦してみることにした。
 AO 入試の志望理由書を書いていると、なんだか楽しくなってきた。それまでの活動成果と共に今後のビジョンをまとめて受験。その趣旨は、「僕は、将来、世界を舞台に活躍するグローバルリーダーになる。そのためには、多様な経験が必要なのだ。」というもの。でかい。でかすぎる。しかし、僕の心の奥底にあった大きな夢を、正直に言語化していた。
 そのとき、僕の面接官は、現・竹中大臣。厳しい質問もされたけど、当時の僕が考えていたことにしたがって、正直に答えた。受験結果は、合格だった。

とりあえず何でもやってみる

大学に入ったら、とりあえず、何でもやってみよう。僕の目標は、あまりに大きく、しかし、明快だった。この目標のおかげで、大学生活は初めからものすごいことになった。
 初の一人暮らし、気に入ったサークルに5つくらい所属して全てにフル出席、授業は20単位申請でグルワー付き、アルバイトを5つかけもち…。寝るには寝ていたのだが、とにかくよくやった。この状態が、約2年続いた。これまでの人生で抑えていた自己実現欲求が爆発したかのようだった。楽しかった。
 旅をした。もののけ姫を見た後に行きたくなって本当に行ってしまった屋久島。親友と共に初飛行機・初海外旅行で無謀にも挑戦したインド。僕にとって最愛の人と一緒に行ったイタリア。新しい世界に、僕は、感動した。
 様々な仕事を体験した。特派員・コンビニ深夜従業員・家庭教師・塾講師・ウェブデザイナー・ライター・プランナー・映像ディレクター・DJ・MC・ナレーター・イベントプロデューサー・リサーチャー・モデル・ビラ配り…。新しい仕事に挑戦することに、僕は、ワクワクした。
 そして、本当に貴重な人との出会いを経験した。それは、僕の人生を大きく変えた。よきライバル、人生の先輩、そして、僕がすきになった人。一つ一つの新しい出会いに、僕は、多大なる影響を受けていった。
 こんな感じで、僕の大学1・2年は、とにかく何でもやってみるということに集約される日々に。高校までの机上学習から180度転換して、いつの間にか徹底的な実践主義になっていた。当然ながら浮き沈みもあったが、総じて、生命力のみなぎる日々を送っていたと思う。

すきなことを追求するなかで思い出す

とりあえず何でもやってみるという目標にしたがって、僕は大胆に行動を展開していった。僕にとってのSFCは、言わば「好奇心のショッピングモール」。多様な人・講義・サークル… SFCにある全てが、自分のすきなことを探り、それを実体験へと結びつけるきっかけとなった。
 この流れは、3年生になっても一向にとまらなかった。ただ、以前と少し異なっていたのは、いろんな経験を重ねるうちに、自分のすきなこと・得意なこと・意外な能力などを、自分自身で認識するようになっていたことである。僕は、それをもっと追求してみたいと思うようになった。
 なかでも、音像工房での活動経験がきっかけとなって夢中になっていたラジオのDJは、ZIP-FMのDJオーディションでグランプリ3人中の1人に選ばれ、その後、DJ事務所に所属してプロとして仕事をするようになった。SFCの情報処理の授業がきっかけとなって始めたウェブデザインは、ベンチャー企業に勤めてウェブのディレクターやデザイナーをするまでになった。
 こうしてすきなことを追求していくうちに、僕は、自分の魂が本当に求めているものを、次第に“思い出して”いった。― 僕は、自分のすきなことに挑戦して、毎日活き活きと過ごしていくのがすき。そして、いつか、みんなが活き活きと過ごせるような、楽しみながら人間的成長を遂げられる世界をつくる力になりたい。

将来ビジョンをつくりたい

今度は、これまでの実体験を体系化しながら、将来ビジョンを構築していきたいと強く思うようになった。僕自身の人生マップをつくりたかったのだ。僕の魂が求めていることを実現していくには、どういう道を進むのがよいのかについて、じっくり考えたいと思った。
 3 年生の終盤ともなると、周りは就職活動ムードになっていたが、僕は、自分のペースで進みたいと思っていた。大学生活の中で得た経験から、自分の能力を活かせる仕事環境の輪郭は見えてきていたけど、そのときの僕にとっては、目先の就職よりも、生涯にわたる大きなビジョンを構築することが重要に思えた。そして、それをやるなら今だと直感していた。
 一方、社会で活躍していくためには、自分独自の武器となる専門スキルが必要だということを、それまでの実体験から学んでいた。今の僕なら、自分がどんな分野の専門スキルを身に付けたいのか分かる。これをやるなら、同じく、今だと感じていた。
 ちょうどその頃、友人が、大学院のパンフレットを見ていた。僕も何気なく見たところ、「プロフェッショナルスクール」「高度な職業人の養成」という言葉が目に入ってきた。即決。僕は、大学院という環境に身をおくことを選択した。
 SFC の大学院受験には、研究計画書を提出する。僕は、それまでの活動成果と共に2年間のビジョンをまとめて受験した。推薦書は、勤務先企業でお世話になっていた上司の方々に書いて頂いた。正直なところ、僕の計画書は全く学問的アプローチを採っておらず、実践重視のものだったのだが、勢いで通過したと思われる。
 こうして、4年生の残り半分は、大学院への進学を前にして、新たな目標に向かう第一歩を踏み出した。波乱万丈の4年間だけあって、卒業に必要な単位取得に最後まで四苦八苦したものの、気付いてみれば、僕は、AO入試の志望理由書に掲げたビジョンにしたがった学生生活を送っていたような気がする。
 いろいろ失敗もしたし、たくさん周り道もした。だけど、この4年間は、僕の人生の中で最高のひとときであったことに変わりはない。

僕からのメッセージ

【道は無限にある】みんなそれぞれの生き方がある。だから、大学生活はこうでなければならないなんていうルールはないと思う。僕は、僕の道を進んだ。それが、ここに書いたストーリー。こんな過ごし方もあれば、あんな過ごし方もある。道は無限にある。
【バイオリズム】人には、調子のいいときと、そうでないときがある。だから、やりたいことがなくなるときだってある。確かに、いつもやりたいことを追っていたいと強く思う。でも、何もやりたいことがなくなることも、人間の一部で、とても自然なことだと思うようになった。
【身近なヒント】自分のやりたいことが分からないとき、考えこんでも分からないときがある。そういうときは、とりあえず、ちょっとでもおもしろいな、すきだな、と思ったことをたどっていくと、案外、忘れていたことを思い出すことが多いような気がする。実は、身近な小さなことにヒントが多い。
【自分に正直になる】結局のところ、自分の中の奥深くにある本当の願望にしたがうのが、いちばん気もちいいと思う。そのためには、自分に正直になることが必要になってくる。簡単なようで難しく、難しいようで簡単。充実した日々を送るためのマスターキーだと思う。
【変化とともに生きる】この世の中で不変なものは何かと聞かれたら、変わり続けることだと答えると思う。全て変化している。ときには、その変化に身をまかせ、またときには、その変化に立ち向かうことも必要だと思う。

あとがき

いろいろ考えた結果、この「未来からの留学生の“今”」では、僕の大学4年間のストーリーを綴ることにした。これは、過去を回想して記述することにより、“今”の僕の視点や考え方を伝えることもできると考えたからである。
 それに、僕が学部在学中に最も知りたかったことの一つが、いろんなSFC生の生き方だった。大学生活の中で、SFC生が、何を考え、どう行動し、どのような進路に向かうことになったのか、そういうストーリーを知りたかった。だから、僕と同じような気もちを抱く人がどのくらいいるのか分からないけれど、僕のストーリーを書くことが、何かの参考になるかもしれないと思ったわけである。
 大学4年間を経た後、僕のストーリーには、また新たに何章も加わっている。今回は、学部時代にスポットをあてるため、それは割愛した。しかし、その後の僕のストーリーも、いずれ何かしらの手段で伝えたいと思っている。また、そのときまで。ご拝読ありがとうございました!May the force be with you!!