今学期より、メディアセンター1階に3Dプリンタが4台設置された。これは、田中浩也環境情報学部准教授の提案で実現したもので、現在のところSFC生は無料で使用できる。今回、SFC CLIP編集部では、田中准教授にインタビューを行い、設置の意図と今後の展開についてお話を伺った。

3Dプリンタとは…?


 これまではプリンタと言えば、原稿データに基づいて、紙などの平面に液体インクで印刷するものが一般的であった。一方、この3Dプリンタは、3Dで入力されたデータをそのまま立体として造形することが可能なデバイスである。
 数年前までは大変高価だったこともあり、企業や研究室などが導入することはあっても、個人で購入・利用することはできなかった。しかし、近年では5-15万円ほどで個人でも購入可能な3Dプリンタが登場。マスメディアなどでも盛んに取り上げられるようになり、現在注目を集めている。



 今回、メディアセンターに設置された3Dプリンターは、3D Systems社のCube。熱で溶かした合成樹脂を、少しずつ積み重ねていくことで立体を造形する仕組みだ。
 これまで3Dプリンタは、デザイン系の研究室に設置されたことはあっても、メディアセンターのように多くの学生が訪れる場所に設置されることはなかった。今回、3Dプリンタが設置されたのはどのような経緯があったのか。提案者の田中浩也准教授に、その意図を伺った。

(無題)



–メディアセンターに3Dプリンタを設置した理由とは何なのでしょうか。


 私自身は、2009年頃から自宅に3Dプリンタを持っており、日頃から研究で使用していました。去年から値段が下がったこともあってか、頻繁にマスメディアに取り上げられるようになりました。
 3Dプリンタは、「商品を作るための製造機械」というよりも、新しい想像力を獲得するためのメディアだと、私は考えています。これまで、デザイン系の研究室に3Dプリンタを設置することはありました。しかし、むしろ総合政策系の学生にこそ、この3Dプリンタというメディアから、新しいインスピレーションを持ってほしいと考えています。

–なぜ、ものづくり工房のようなデザイン系の研究室ではなく、メディアセンターに3Dプリンタを設置したのでしょうか。


 メディアセンターは表現のための資料やコンテンツを作ることができる場所ですよね。パワーポイントを作ったり、映像を編集したり…。それと同じ感覚で、3Dプリンタに触れてほしいんです。3Dプリンタを使うのが当然、という文化が生まれればと思っています。

 また、日用品をちょっと作ったり、壊れたものを修理したりすることもできます。これを家に持ち帰ると、家族が驚いて喜んでくれるわけです。コミュニケーションの新しい形ですよね。それも凄く良い文化だなと思っています。
 こんなふうに、些細なレベルでも良いので、3Dプリンタを利用した新しい文化ができればと思いますね。

(無題)



–ただ、いきなり3Dプリンタだけを見ても敷居が高いように感じる学生も多いと思うのですが、そういった学生は興味を持ってくれるでしょうか?


 例えば映像編集は、いまや多くのSFC生が当然のようにやっていますね。でも、ムービー編集やiMovieを使うことなどは、始めは難しくて誰もできないし、やらないだろうって言われていました。もっと時代をさかのぼれば、ワープロが出た当時も誰も文章なんて書かないと言われていた。
 学生には先入観や偏見もないし、また膨大な時間がある。こういう新しいメディアが出てきたときに、その可能性を開拓するのは学生なんですよ。

(無題)



–3Dプリンタに関して、今後の展開などはありますか?



 クックパッドのような、SFC生が作ったものとそのレシピを公開・共有できるようなWebサービスの開発を考えています。また、ワークショップなども並行してやっていくつもりです。
 また、田中研としては、もっと3D制作が行いやすいモデリングツールを開発しようとしています。さらに、3Dプリンタの材料となる樹脂を、ペットボトルなどのゴミから作るリサイクルマシンも制作しています。
 今後、メディアセンターで3Dプリンタの利用者が増えてくれば、もっと問題点も増えてくるだろうし、それに対する解決策の研究も盛り上がってくるはず。田中研以外の人たちも関わり始めてくれると面白いですね。

–ありがとうございます。SFC生が生んだ文化が、10年後全く世の中を変えているかもしれませんね。



 3Dプリンタはまさに今開拓期。田中浩也研究会所属の渡辺仁史さん(環3)は、先日3Dプリンタで三又鉛筆を作成した。これをツイッターにあげたところ、1500を超えるリツイート数を叩き出した。

(無題)一回で三回書ける三又鉛筆



 また、SFC以外の場所からも、3Dプリンタを見にSFCまで訪れる人々もいる。3Dプリンタを見に来た、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)の酒井紀行さん(修2)は、現在celebabyというベビー服のネット宅配サービスの立ち上げに取りかかっている。その際、3Dプリンタを活用できないかと考えSFCを訪れたとのことだ。赤ちゃんが描いた絵を3D化し、3Dプリントするというサービスを現在企画していると言う。
 酒井さんは「どんどん新しい世界を知って、皆が知らないものを、先に経験した者勝ちだと思う」と語った。

 今のSFCで行われる失敗や試行錯誤が、10年後の3Dプリンタの文化を決めるかもしれない。3Dプリンタにこれまで触ったことのない人も、これを機に、挑戦してみてはいかがだろうか。