未来からの留学生に「帰るべき未来」はあるのだろうか。私がSFCで環境問題に取り組む中で常に自分自身に投げかけていた疑問である。現在もっとも深刻な環境問題の一つに地球温暖化があるが、2100年には平均気温が最大5.8度上昇すると言われている。その原因となるのは化石燃料を中心としたエネルギー消費であるが、SFCの面積当たり電力消費は全国の大学中ワースト1という調査結果もある。環境問題を解決するためには、現在の社会経済システムを根本的に見直し、人々の新たな価値観に根ざしたライフスタイル・ビジネススタイルを作り出していくことが求められており、国内での対策のみならず、地球規模での交渉・協力が不可欠である。自分たちの「帰るべき未来」の環境を保全するとともに新たに創出していくというテーマは、今、SFCこそが取り組むべき重要な課題ではないか。


 私は今、環境白書の執筆を終えたところである。ここ霞ヶ関で振り返って感じることは、SFCほど、既成概念に縛られずに新しいことに挑戦できる場はないのではないか、ということだ。幅広い視野を持った総合的かつ実践的な研究には実際の政策形成に活用できるものが多いはずだ。また、多種多様な人材が集うところもSFCの大きな魅力だ。多くの素敵な友人たちとの数多くの出会いを大切にして欲しい。
[平成14年版環境白書のページ]
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/
 

SFC入学まで

私は中学時代に不登校を経験し、高校は通信制課程に入学した。毎週日曜日に高校に通い、後はほとんど独学に近い勉強スタイルを送る中、日々、学ぶことの意味を問い続けた。そして、これからの社会でますます重要になる環境問題を様々な角度から学ぶこと、共通の問題意識を持つ多くの友人たちと出会うことを目指し、SFCに入学した。

SFCでの4年間と仕事への活用

SFCの魅力は、常に新しいことへ挑戦する扉が開かれていることだった。幅広いメニューから興味のある授業を選択し、グループワークなどで議論を重ねることで、自分たちで興味の持つテーマについて掘り下げて勉強を進めていくことができた。省内調整、各省調整の仕事に携る中、政府のあらゆる施策を理解する必要があったが、SFCで法律、経済から、生態学、コンピューターサイエンスまで、幅広いテーマに触れることができたことから、どんなテーマでも抵抗なく取り組むことができた。
 また、多くの友人と出会うことができたことも財産だ。環境白書を執筆するに当たっては、SFC時代に出会った気心の知れた友人に事前に原稿をチェックしてもらい、貴重なコメントをもらうこともできた。仲間とともに秋祭の環境対策を、学内のみならず地域の人や企業の協力を得つつ進める中で、プロジェクトの運営、相手を説得することの難しさなども学ぶことができた。

環境行政・霞ヶ関での仕事の実際

SFCで環境政策を学ぶなかで、政策立案を本来いかなる者が担うべきであるかは別として、現在、その中心にある霞ヶ関、中でも他省庁や経済団体の激しい抵抗のなかで仕事を進めなければならない環境省に自らの身を置いてみようと考え、公務員試験を受験した。
 霞ヶ関というとまだまだ一般の人々にとって敷居が高いようだが、ここでは、環境省、霞ヶ関の一端を紹介したい。
 霞ヶ関での生活の特徴は、何といっても超長時間労働だ。中でも、環境省は、業務の増大に職員の定員が追いつかず、常に多忙で残業時間は全府省一という調査もある。5時には帰れるよ、というと朝の5時だという笑えない冗談もあるが、この点についてはSFC時代の残留経験が生きた、などと強がる必要がないよう戦力の増強を訴えたい。
 環境省の魅力は、風通しが抜群に良い点だ。組織が小さい分、自分の意見をいつでも言えるし、局長室から大臣室まで常に同席し、意思決定のプロセスを自分自身の目で見届けることができる点も、多省庁にはない利点だ。私の官房配属と時を同じくして就任した川口大臣は特に印象深く、若手職員との昼食会にも気さくに応じてくれた。
 環境行政の現場では、「政策過程論」をまさに実地で学ぶ機会に恵まれ、入庁一年目から、愛知万博や三番瀬のアセスメントや環境税の検討の背景に触れることができた。そのほか、総理や大臣の指示の伝達や各省との法令や政策の調整、採用業務なども幅広く担当した。また、NGOの活用等、自分自身で提案も行った。
 一方、この国の政策決定の現実に目を覆いたくなることもしばしばである。最近の事件を例に見るまでもなく、国会と霞ヶ関の関係は深刻であり、責任の所在の明確化、政策プロセスの透明化を強力に進める必要がある。また、深夜に及ぶ国会待機、文書の一字一句を巡っての各省協議などで時間をとられ、本来やるべきことができずに政策に遅れが生じていることに大いなるもどかしさを感じる。
 省庁再編で環境庁は唯一、省に昇格した。総合環境政策局という名前の局もできた。今後は、環境だけでなく、それぞれが経済や社会のスペシャリストとなり、相手の土俵に上がって説得し、政策を進めていかなければならない。そのためには、常に幅広い視野を持って仕事をしていくことが必要である。個人の努力でネットワークを広げていくことも重要であり、私は、企業やNGOの友人とともに、環境若手交流会を立ち上げ、年に数回の交流を持っている。様々な場に身を置く人たちと活発に情報や意見を交換することは大変有益であり、陽に陰に協働を進めていくことが必要だと考えている。
 自分の経験を活かすべく、微力ながら日夜奮闘をする毎日だが、環境行政はなお、抜本的な強化を必要としている。柔軟な発想と積極的な行動力、コミュニケーション能力を持った多くのSFC生が、政策決定の現場に飛び込んでくることを大いに期待したい。また、実際の政策を素材にした政策過程の分析やユニークな代替案の提案などに、既成概念にとらわれず大いに取り組んで欲しい。

SFC生へのメッセージ

私がSFCに入学した7年前は、携帯電話を持つ学生はわずかで、休み時間の公衆電話には列ができており、日本のホームページの半数はSFC生のページだった。今振り返ると時代の変化の激しさを感じるが、今後も同様に様々な変化が訪れるに違いない。
 SFCに集った皆さんは、既成概念にしばられずに、また、大いに欲張りをして、いろいろな物事に手を出して欲しい。さらに、多くの友人たちとの出会いを是非、大切にして欲しい。未来からの留学生が、いつの日か素敵な未来を共に分かち合うために。
<<プロフィール>>
岡崎雄太(おかざき・ゆうた)氏
神奈川県立湘南高等学校通信制過程を経て、95年に総合政策学部に入学。主に環境政策を幅広い観点から研究し、福井弘道ゼミ・清水浩ゼミに所属。SAEI サークルによる秋祭でのDish Return Projectは、全国の学校や町内会に普及。また、COP3(温暖化防止京都会議)に参加し、学生による記者会見等を行う。99年4月に環境庁入庁後、企画調整局企画調整課、大臣官房総務課を経て、現在、総合環境政策局環境計画課に所属。平成14年版環境白書で環境対策の経済効果等について執筆を担当。