SFCは藤沢市遠藤にある。この地域は豚や肉牛の飼育がさかんだ。SFCが出来る前から、この地域に根付いた産業として畜産業は存在していたのである。この特集では、2回にわたり、そのSFCが設立される前から存在した地域の畜産業を紹介すると共に、科学的な裏付けをもとに臭いがどのようなメカニズムで SFCに到達するのかを詳細なデータと共に読者に提供したいと考えている。第1回目の今回は、取材ルポをお送りする。

SFC CLIP編集部とのコラボレーション

SFCと臭い丘の上にある茅北ファーム
 SFCに入学したら誰もが、特有の「臭い」の試練に立ち向かわなければならない。これは誰もが経験しているはずだ。特に5,6月の臭いは強烈だ。この臭いは何に起因するものなのか。我々の周りでは、「あれは豚の臭い」だという人もいれば、「あれは牛の臭いだ」という人もいるだろう。実際、我々学生は、推測に基づいてあれこれ、臭いについて語っているが、本当のところ何が原因なのか、ほとんどのSFC生は知らないのが実情だ。そこでSFC CLIP編集部では、SFCで臭いの調査を実施している福田忠彦研究会所属の菊池浩さん(総合4年)に全面的にご協力いただき、臭いの発生源を調査し、その全容を解明する。
 菊池さんの調査によれば、臭いの発生源になっているのはSFCの西側と南側であるという。特に南側はかなり強烈な臭いの発生源になっているであろうというデータが得られたという。まず、菊池さんと共にSFCの南側、スリーエフ先の、丘の上にある畜産業者、茅北ファームに向かった。

丘の上に牛が500頭もいる!

茅北ファームに向かう道の途中で早くも強烈な臭気を感じる。マスクが無いとほとんどの人は近づくことすら、困難を極めるのではないか。SFCの臭いの何倍も強烈だ。茅北ファームでは、現在、肉牛500頭を飼育している。その他に、肥料を作り、商品として出荷も行っている。取材班は茅北ファームの畜産家、桜井さんの案内のもと、施設を見学させてもらった。
 まず案内してもらったのは肥料を作る工程である。肥料づくりの工程は、牛の糞を集め、屋外に山積みし、それをほぼ、野晒しに近いビニールハウスの中で、藁と混ぜ、晒して乾燥させる。その後、発酵させ、出荷となる。屋外に山積みになっていた糞の山からはSFCで感ずるあの臭いが漂ってきた。まず見せてもらった肥料生産工程は、藁と混ぜ、晒して乾燥させる工程だ。
SFCと臭い糞を藁とまぜ攪拌する作業工程
 そこでは、攪拌する機械が自走して、敷き詰められた牛糞と藁を混ぜる作業をしている最中だった。藁は古い畳を分解して取り出している。この工程では臭いはほとんど感じられない。乾燥しているので、臭気はそんなに発生しないのかもしれない。しかし乾燥させる過程では糞をほぼ野晒しにする。十分に乾いていない糞を晒す工程の初期段階では、相当強烈な臭いを発生するものと思われる。
 次に見学させてもらったのが、発酵過程だ。ちょうどブルドーザーでダンプカーに積み込み、肥料として完成したものを出荷するところだった。ここでの臭いも、まさにあの臭いであった。実に強烈だ。発酵させる場所は雨よけのための屋根があるだけの簡単な建物なので臭いをさえぎる壁がない。臭気は辺り一帯に立ちこめる。筆者は正直、吐き気を催した。発酵させているので、肥料の山の内部は80℃から90℃の温度になっているという。この臭気がどのようなメカニズムでSFCに到達するのかは、第2回目の特集で詳しくお伝えする。ここの畜産業者は糞などを処理するプラントなどを持っていないため、ほぼ野晒しにして糞を肥料として処理するしかないようだ。
SFCと臭い強烈な臭いが立ちこめる発酵工程
 続いて案内してもらったのが、実際に牛を飼育している牛舎である。ここの牛舎では約500頭もの肉牛が飼育されている。桜井さんによれば、肉牛の出荷量は狂牛病騒動の時には出荷量が激減したが、今では、出荷量は狂牛病騒動前の8.9割までに回復しているという。取材した時は、朝の給餌が終わり、作業が一段落した段階である。しかし、我々取材班の突然の訪問に牛は驚いたのか、一斉にこちらを凝視した。正直コワイ。ロープでつながれてはいるのだが、こちらに突進してきそうな殺気が漂っている。
 
  700kgにもなる牛が何頭もいると迫力がある。牛に与える餌はビールの絞り粕、おから、穀物を混ぜたものであるという。
SFCと臭い500頭もの牛が飼育されている様子は圧巻!
案内してくださった桜井さんの口から、生き物を飼っているという重みが取材中なんども感じることができた。500頭の肉牛の給餌は毎日、朝の5時から始まるという。また、1年365日、元旦だろうが、クリスマスだろうが、給餌を休むことはできないという。これは畜産家ならではの苦労だろう。また、牛は病原菌にとても弱いという。最近特に困っているのが、カラスによる被害だという。カラスを媒介にカラスの糞が、たまたま飼料に混ざってしまい、その糞の混ざった飼料を牛が食べてしまって時には病気になることもあるという。実際、昨年はその病気が原因で何頭もの牛が死亡したという。今最も悩んでいるのはカラス対策。牛舎にカラスが入らないようにネットを張ったり、工夫はしているというが、完全に防ぐということまでは至っていないようだ。

整備された処理施設

SFCと臭いいざ、内戻種豚組合へ!
 強烈な臭いによって、かなりの疲弊感が生じたことは否めない。次に我々はSFCの西側にある豚を飼育している内戻種豚組合を訪れた。組合の方に豚舎をはじめ、各施設を案内してもらった。ここで飼育されている豚は約400頭。肉用として出荷されるのは雄豚で、雌豚は繁殖用になるそうだ。
 係の方にまず、豚舎に案内してもらった。豚は病原菌に大変弱いということで、我々取材班は見学の前に白衣と長靴を着用するように指示された。にわか検疫官になった気分である。ここ内戻種豚組合は、「やまゆりポーク」と呼ばれる高品質豚肉を生産するJA神奈川経済連が指定する優良農場である。案内してくださった方によれば、豚は品質管理面などが全てマニュアル化されており、優れた肉質の豚を安定的に供給することができるという。餌には麦を豊富に含んだ配合飼料を使っている。餌に麦を混ぜることで、脂肪が白く、赤味が柔らかい肉ができるという。また、ドリップ(肉から水分が落ちること)することも防ぐことができるということだ。このような努力が実を結び、やまゆりポークは、市場で普通の豚肉よりも2,3割高く取引されているのだそうだ。

豚の出産場面に遭遇!

我々は雌豚が繁殖のために飼育されている豚舎をみせてもらった。そこでは、ちょうど出産直後で、生まれたばかりの子豚をみることができた。この豚舎には乳離れさせる前の子豚と母親の豚が飼育されていた。
SFCと臭い生まれた直後の子豚
 続いて出荷される豚が飼育されている豚舎に案内された。この豚舎の内部の臭いはSFCで感ずる臭いとは全く異なるが、やはり吐き気を催すような臭いである。豚舎の中でお話を伺ったが、正直言って早く外に出たかった。成長した豚は、牛と同様に、迫力がある。豚舎に入るや否や、我々の姿を見た豚は、興奮したのか柵を乗り越えそうになるなど、殺気が感じられた。畜産家の方は慣れているのだろうが、我々にとっては、豚がこちらに向かって突進してきそうな状態はとても恐いものである。
SFCと臭い出荷が近い成長した豚
 これだけの豚が飼育されているところをみると、当然その排泄物の処理はどのようにしているのかは気になるところだ。組合の方に処理施設を見せてもらった。処理の工程は二つある。ひとつは尿を処理する工程。もうひとつは糞を処理する工程だ。
 尿を処理する工程は豚舎から集められた尿を一括してバッキ層に入れ、そのバッキ層プールの活性汚泥微生物(バクテリア)により臭いのもととなる有機物を吸着するというものだ。尿がバッキ層に入った時点で、ほぼ瞬間的に臭いはなくなるという。実際、バッキ層のプールを見せてもらったが無臭であった。このプールでバクテリアの力によって無臭化させ、基準値以下にした水は排水しているという。
SFCと臭い熱を加えて、糞を堆肥にする
 もうひとつの糞を処理する工程だが、ここでは、国や県からの補助金などにより糞を処理するためのプラントが整備されていた。豚が排泄した糞をまずはプラントに集め、熱を加えて、乾燥させる。この工程に強烈な臭気が発生するが、臭気を含んだ蒸気は枯葉や土を集めた脱臭層を通すため、臭気はそれほどひどくない。しかし、見学当日は脱臭するための脱臭層の枯葉が不足していたため、性能が落ちているということだった。近いうちに新しくするというが、さきほどの茅北ファームに比べれば臭気は強くなかった。乾燥させた肥料は製品として出荷できるという。実際ここのプラントで処理された糞は肥料として周辺の農家が有機野菜を栽培するために購入していくという。
SFCと臭い尿を基準値以下の水にして排水
SFCと臭い豚の糞から作った肥料。無臭だ。
以上、見てきたように、この養豚場で、排出されるのは大きく分ければ、水と肥料ということになる。環境にやさしい畜産というものを取材を通じてみることができた。組合の方はSFCへ臭いが到達することに対して、とても気にしていたが、我々が実際取材をした限りでは、それほど強い臭気を放っているようには感じなかった。
 次回は、この臭いがどのようなメカニズムでSFCに到達するのかを菊池さんの協力もと、詳しくお伝えする予定だ。
 尚、この取材は地元畜産家のご協力により実現したものでもある。この場を借りて、深く感謝したい。