一生仕事はしない
 という人以外の全ての人に関係ある話。
 『どうもしっくりこないパイプ椅子』というのがある。
 背もたれがもう少し立ってれば痛くないのに・・・とか
 座面がもう少し前に出てれば足が楽なのに・・・とか。
 なんだかなあと思って姿勢を変えると
 ギッギッと耳障りな音を立てたりする。
 だんだんと苛立ってくる。
 その時、パイプ椅子から伝わってくるメッセージがある。
 :どうせたまに使われるものだし
 :安く量産しなくちゃいけないし
 :こんなもんでいいでしょ
この『こんなもんでいいでしょ』は
僕らの周りにたくさん潜んでいる。
使いにくい、あのハサミに
わかりにくい、あの説明書に
歩きにくい、あの道路に
つまらない、あの映画に
不親切な、あのサービスに
世の中は、すべて誰かの仕事でできている。
僕らの生活は、誰かの仕事の上に成り立っている。
けれど、僕らが受け取っているのは
その直接的な価値だけじゃない。
実は作り手の気持ちも同時に受け取っているんだ。
『こんなもんでいいでしょ』という作り手の気持ちは
その仕事を通して誰かの心を侵蝕していく。
侵蝕された心がまた『こんなもんでいいでしょ』
という仕事をつくる。
そして世の中全体へと広がっていく。
ひょっとすると今はまさにそんな状態なのかもしれない。
だから逆のことも言える。
僕ら一人ひとりが本当に気持ちを込めて仕事をする。
その気持ちが仕事を通して誰かの心を豊かにしていく。
そして世の中全体へと広がっていく。
そんなふうに世の中が良くなっていく方法もあるはずだ。
最近やった仕事をひとつ、思い出してみよう。
大きくても、小さくても
一人でも、仲間とでも、どんなものでもいい。
そこに、あなたは気持ちをどれくらい込めていただろうか。
受け取る人にどんな気持ちを与えただろうか。
ここで考える。
いい仕事をするためにはどうしたらいいか。
それは
その仕事の意味を
その仕事が与える影響を
その仕事に触れる人々を
他人任せじゃなく、自分の頭で
考えて考えて考え抜くことだ。
想像して想像し抜くことだ。
その作業はとても苦しい。辛い。
なんでこんな想いをしなくちゃいけないんだとさえ思う。
どうせなら楽をしたい。実際のところ、
ちょっとサボっても結果は変わらないはずだと思い始める。
そして、『こんなもんでいいでしょ』とつぶやく。
その時もう一度、いやそれじゃだめだ、と
あなたはふんばることができるだろうか。

≪プロフィール≫ 原勇造(はら・ゆうぞう)
株式会社リクルート/広告制作ディレクター
今回のコラムの一部は、
西村佳哲さん(プランニングディレクター)と
以前お話した際に伺った話を参考にしています。
とても共感した内容でしたので、
今回のコラムで書かせていただきました。
ここでお断り申し上げます。
前回のコラムを書いていた枡田一作くんとは
佐藤雅彦ゼミで一緒でした。
紹介どうもありがとうございます。