藤沢市民会館の一室で毎週行なわれてきたコトバノアトリエ、最終回ともなれば全員知った顔ということで、非常にリラックスした雰囲気である。前回のインタビューで話題にのぼった参加者集めのための広報活動が大変という話が嘘のように、皆和気あいあいと会話をし、スタッフとも打ち解けた様子だ。


。「コトバノアトリエは、対話と文章表現のためにあります。個人の創作時間とともに発表と批評の時間を設け、小説で言うところの作家と編集者の仕事を両方担い、他者の世界観を共有することで自己の内面を拡張・濃縮していく」(コトバノアトリエWEBページ:http://web.sfc.keio.ac.jp/~s00179ao/kotolier/about.html より)というコンセプトがこのワークショップには存在している。対話という面に関して言えば、このような参加者の姿を見ると、多くの機会を持つことができたようだ。また文章表現においても、クリスマスの時期にグループに分かれ小説を作り、新潮新人賞に応募したり、10月から一人一人ずっと書き溜めていたエッセイをまとめたアンソロジーを新風舎出版賞に応募するなど、目標に向けての創作活動がしっかり行なわれていた。
 –もちろん第1期ワークショップが最初から最後まで順風満帆だったわけではない。各学校への地道なビラ配りや協力要請によって参加者が集まり、試行錯誤の中で毎回の会を続けてきたのである。最終回のプログラムの中で皆で第1期の感想を発表しあった際、スタッフ側が「最初は年下の人と何かをするのが得意ではなかった」と語る一方、参加者側も「皆と打ち解けられるか心配だった」と述べるなど、お互いに最初は不安も多かったようだ。しかし、どの参加者も終わりには「皆といるときはいっぱい笑えてよかった」「結構面白い人たちばっかりですぐに打ち解けられてびっくりした」「エッセイの書き方なんて分からなくて最初は困ったけれど、皆の文章を見ていてちょっとずつ分かるようになったし、書きたいものがたくさん浮かんでくるようになった」と必ず楽しさや喜びを語り、その姿はやはりコトバノアトリエの成功を感じさせた。
 以下は、山本繁さんに対して行なったインタビューである。

–レギュラー・ワークショップ第1回(10/10)と比べ、どんな風に彼らの表現力が上がっていくのを実感しましたか?

実はわからないんです。「表現力」という言葉の定義がまず曖昧ですし。たぶん「表現力」という言葉を私はワークショップで一度も使わなかったと思います。
 今回のワークショップの成果を別の尺度から見ますと、まず文章を書くことに対して、彼らが自由になっていきました。「ふつう、こんな文章書かないよな」っていう書き方をするようになりました。それが凄く面白かったです。
 「正しさに向かっていく」書き方をさせたくないなあと思っておりました。どこかに「正しい文章」というものがあって、できるだけそれに近づけることが優れているとされる雰囲気にしたくありませんでした。あらゆる表現の現場で共通することだと思いますが、「正しさ」以外の価値観を持ててはじめて表現というものは生成され得るのではないでしょうか。もちろん、規制を知ることや技術を身につけるも重要なことなのですが、上手いだけの文章なんて、クソ、だと思いますし、この方針と成果は間違ったものでなかったと考えております。
 あとは作品の質が安定するようになりました。

–運営していて、ここが良かった/ここが苦労した、を両方お教え下さい。

二月のことなのですが、私立の中高一貫校に通う中三の女の子が、「もっちー、わたしね、四月からフリースクールに通うことになったの。」ってワークショップの後に言いに来まして、その時はずいぶん悩みました。自分から自主的に言いに来たわけなので、きっと言いたかったのですね。誰かに伝えたかったのでしょう。でも、伝えられても、何もしてあげられないわけです。で、人に相談もしながら、毎日頭を抱えておりました。
 良かった点は、ぜんぶ面白がってやっているので、「ここが」というのは特にありません。

–レギュラー・ワークショップの第2期が約1月後に始まりますが、そこでの目標などはありますか?

スタッフが八人だとしたら、その八人の関係性から生まれるものを信じたいと考えて、第一期もやってまいりました。ですので、はじめに目標を立てるのではなく、その時のメンバーで、じゃあオレたちにいったい何ができるんだろう? というところから、第二期、もう一度ゼロから作っていきたいと考えております。

–今後のコトバノアトリエ活動に関して、何か特筆すべき情報などあればお教え下さい。

第一期、みんなでエッセイ集を作り、新風舎出版賞というものに応募いたしました。イラクで戦争が始まった日にできた、でも戦争の影響を受けていない、とても幸福なエッセイです。けっこう本気で賞狙いなので(笑)、もし受賞したら、みんなで沖縄にでも行きたいなと思っております。受賞したらまた取材に来てください。
 最終回のワークショップには演劇に興味を持つ荒木恵さん(総1)のように、見学に来るSFC生も見られた。中高生の自分を表現する力を伸ばすことに興味を持っている、という荒木さん。彼女のような学生によって、今後もコトバノアトリエは続いていくことだろう。
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