満員電車というのは日本の世界に誇れる文化だと思っていたし、電車での痴漢というのも日本独特なものだと思っていた。ところが、インドネシアにも通勤、通学の満員電車はあったし、痴漢もあった。おとといまでの3週間、インドネシアに滞在して気が付いた交通を特に首都ジャカルタについて取り上げたい。


 ジャカルタは人口およそ1000万人、急増する人口の抑制に加え、貧困、衛生、交通渋滞という多くの東南アジア諸国と同様の問題を抱えている。僕は今回個人的な用事でジャカルタに3週間滞在し、インドネシア人の家庭にお邪魔して、気分的にはなんちゃってインドネシア人という日々を過ごしてきた。今回は旅行とは少し事情が違って、旅行者が見ることのないような企業の内側や、インドネシア人の会社の人と過ごすことが多かった。
【1家族車5台】
 大都市ではタイの首都バンコクの大渋滞をサイクルKのWEBコラムでも紹介してきたけれど、ジャカルタの渋滞もすごい。完全に止まってしまうことは少ないものの、のろりのろりといつまでも渋滞が続く。渋滞の原因は交差点に信号があってもなくても無理に割り込む車が道を塞いでいたり、路上駐車で道が狭くなっていることがほとんどで、交差点と車の多さが原因という点ではあまり日本とは変らない。ジャカルタの中上流家庭では一家で4、5台の車を持っていることも珍しくないという。それでも自動車保険の加入は1割。
【暗黙了解マナー】
 ただ、交通マナーについては大きく違う。日本では100%不可能と思うような片側一車線で対向車が来ているような状況でも車の追い越しをするし、渋滞時の車線変更もぶつかるかどうかというとこまで車の先を突っ込んで相手の様子を見る。譲ってもらうのを待っていたら日が暮れてしまう。僕が空港から乗ったタクシーは豪雨の中、時速140kmで走り前の車に追いつくと2mくらいまで近寄ってバッシングするので手から1リットルくらい冷汗をかいた。もちろん事故は多いもののそこまででもないのは一見日本人からは無謀に思える運転もインドネシア人にとってはルールがあって運転しているからで、片側一車線の道路で、対向車を認めながらも追い越しができるというのは対向車と追い越される車のドライバーが暗黙の了解でお互いに道の端に避けて、場合によっては減速してくれることを前提にしていて、そこに命を掛けるのだからお互いに絶大の信頼なしにはできない。車の運転をするときは相手の目を見ろ、と言われた。動きが気になる車には運転者の顔を見て意思疎通をする。近眼はどうすればいいんだ…。
【古いバスと新しいバス】
 ジャカルタ市民にとって欠かせないのは市内を縦横に走るバスで、およそ5種類の大きさのバスが非常に多く走っている。このバスは扉を閉めずに走り、乗客が手を上げると減速し、乗客が飛び乗り、降りるときは「キリ(左)」と言うか壁や天井を叩いて運転手に知らせる。バス路線は政府によって指定されていて数字で表示されているので「605」とかバスに書いてあるけれど、知らない人には分からないし、バスマップなんてものはない。ただ、路線の新設や廃止はラジオやTVで知らされるので特に問題はないらしい。なぜかこのバスには新しい車両はなくて運転席のギアはカバーが剥がれてただの鉄棒になっていることが多い。
 ジャカルタ交通でこの1ヶ月での大きな話題といえばBusWayの開通がある。これは渋滞が激しいThamrin、Sundirmanと言ったビジネス街の目抜き通りに設けられた専用レーンを電車のような仕様の特別バスが走るもので冷房が効き快適だ。料金は他のバスの2倍だけれど、それでも着実に乗客が増えている。お金と時間の選択をジャカルタ市民も迫られている。現在56台ある特別バスは日野自動車とメルセデスが半分ずつなのだけれど、運行開始数週間にも関わらずメルセデスはドアが壊れていたりするのが多くて、くだらないことで日本製万歳と心の中で思ってみた。
【タクシーは薄利多乗】
 僕のジャカルタ滞在中に2月14日が来た。そう、バレンタインデー。東南アジア最大のイスラム国にも関わらず、ブランドやレストラン、遊戯施設が入るショッピングモールは10代の若者で深夜まで賑わい、おい何歳?!という子供が高級車を運転していたりする。インドネシア人の友達に聞いた話では、法律的には17歳からだけれど、お金次第でそれ以下でも免許がとれるらしい。そんな…。
 ショッピングモールに隣接するクラブエクゼクティブで優雅な時間を過ごした僕は(実はただの50mプール)雨季特有の強い雨が降る中、タクシー乗り場に並んだ。ただここはバレンタインデーの夜。運転手はメータを使わずに料金交渉で乗せようとする。稼ぎ時だけに運転手も必死なので、あきらめて道に出て流しのタクシーに乗った。じつはインドネシアではタクシーはポピュラーな交通手段で、日本の高く、空車で走ってばかりいるタクシーとは違い、安いので空車を見つけることが難しい。1時間乗ってもだいたい500円程度だ。ただ海外でタクシーというのは密室で事件も多いのでいいタクシーを探すテクニックがいる。それは新しい車両と大手の会社だと言える。車種はトヨタが多いのだけど日本向けとは作りが違い、スピードメータの針がユラユラ揺れたり、故障しているのが多い。
【3輪とバイクタクシー、電車】
 都心部ではバジャイという電動の三輪タクシーがある。短距離の移動には渋滞の影響も少なく便利だけれど、これは正直なところ土地勘と料金を知らなければ乗らないほうがいい。ドライバーは目的地を実は知らなくても走りつづけるし、タクシー以上の料金を吹っかけてきたりすると地元の人は言う。
 Ojet というバイクタクシーもある、タイでのモトサイという路地の近距離に比べてジャカルタのオジェはかなりの距離も走ってくれる。渋滞に関係ないので便利だけれど、タイでは乗客にもヘルメット貸してくれるのに、ジャカルタでは運転手だけしかヘルメットがない。まあ早いからいいか。
 ジャカルタは電車網は乏しいもののボゴールといった近郊都市からの通勤通学に電車がある。普通列車は扉が閉まらない上にラッシュ時には京浜東北線顔負けの状態となる。でも扉は空いている。それにどんなに混んでいても物売りの人たちは来る。水に始まり、果物、文具、ソーイングセットなど次々と来る、ただキーワードは1000RP(14円)らしく、なるほどスリの多い電車の中でもポケットに入っている金額ということでガッテン。
最後にサイクルKなので、自転車を。
 東南アジアで自転車はあまり活躍していないのが現状だ。ジャカルタでは最近マウンテンバイクが流行っていて乗っている人はいるものの道路の状態や移動距離という点で需要は少なく車社会というのが現実だ。ただ年々悪化する環境に、BusWayを初めとした交通を変えようという、新しい動きはある。
 3回目、合計2ヶ月近くインドネシアにいたけれど、インドネシアの多様さと奥の深さは計り知れない。多くの民族、言語、文化。いろいろな国に行って多くの人々と話すと、自分が信じていたものがいとも簡単に覆されることがある。事実は一つでも真実は一つではないし、他人の真実を否定する権利はない。善なる発展とは何か。繁栄とモラルは共存しているか。“Unity in the Diversity”という国家標語のもと、アジア通貨危機から再起しつつあるインドネシアに現在の世界の問題を見た気がした。
(文責:環境情報学部4年 松本賢二郎)
 サイクルKは現在、湘南台駐輪場改善プロジェクト、SFC生向けにレンタサイクル、看護医療学部と本館側間のサイクルシェアリングなどを進めています。
詳しくはサイクルKウェブサイト(http://www.rentalcycle.com/)をご覧ください。皆さんのご協力も大歓迎です
「自転車を、SFCを、もっと楽しく」 サイクルK
o
  ,
|<,_  http://www.rentalcycle.com/
  ()/() [email protected]