みなさん,はじめまして。今回,「未来からの留学生の“今”」を担当することになった,吉野次郎です。現在,大手新聞社系の出版社で雑誌記者をしています。ネットで社名を出すときの社内手続きが煩雑でして,今回は「某出版社」ということで失礼します。もっともパソコンや通信,ビジネス関連の専門誌が多い,某経済新聞社系の出版社といえば,想像がつく人もいると思いますが。


 その出版社の入社試験で書かされた小論文のテーマが,卒論で書いたものと同じでした。そんな幸運にも恵まれ,某出版社にはSFCを卒業した1996年から勤めています。入学はというと,SFCが設立された90年である。つまり入学は1期生で,卒業はなぜか3期生ということになる。
–頭はくたくた
 入社から5年半は,通信関連の専門誌でNTTやDDI,KDD,日本テレコムなどの経営企画部門を中心に取材した。その間,NTTは分割され,DDIとKDDIは合併,日本テレコムも株主がめまぐるしく入れ替わるなど,90年代後半の通信業界はとにかくダイナミックに変化した。
 仕事のイメージはというと,SFCでレポートを同時に4,5本抱えているという状況だろうか。大学のレポートと異なるのは,情報収集の仕方。授業や図書館で情報を得る代わりに,当事者を訪ねて聞き出す。そのうち話を聞きながらメモを取って,同時に次の質問を考えるなどとというスキルが身に付く。ただ,こうしたインタビューを1日に3回以上やると,もう頭はくたくたである。
 記者会見も重要な情報収集の手段の一つである。最初に開催者から発表があって,次に質問タイムに移る。入社してすぐはなれないもので,質問するのに緊張した。ちょうど,大学の講義で,みんなの前で手を挙げるのに勇気がいるのと同じような感覚である。
 取材の次は執筆となる。売り物になるレベルの記事が要求されるわけで,最初うちは「デスク」と呼ばれる添削係(?)に何度も書き直しを命じられるから大変である。こんなことを繰り返していると,数年もすれば,すんなりデスクをクリアするようになる。
 ここ3年あまりは通信と放送関連の専門誌で,放送業界を担当している。地上波放送のデジタル化がメインテーマ。NHKや民放キー局,地方局の経営企画部門などを取材している。
–おごりは禁物
 入社して,間もなく10年目に突入しようとしている。今回このコラムを書くに当たって,社会人になってから身につけた知識やスキルの多さに改めて気付かされる。
 「未来からの留学生」という言葉には魅力があり,ときに「自分は他人より進んでいる」という,気持にさせる。だがいざ就職してみると,“留学中”に教えてもらえなかったことがたくさんあることを知ることになるだろう。
 入社試験のテーマが卒論と同じだったなど,学生の時に学んだことももちろん役に立っている。だが,仕事現場もまた,学舎である。実は,大学の勉強よりはるかに面白かったりする。
略歴 吉野次郎
1996年環境情報学部を卒業後,某経済新聞社系の出版社に入社。マウンテンバイクで町中を走り回っています。