遠隔教育特集の第2回は、SFC GLOBAL CAMPUS(以下、GC)を取り上げる。2002年のスタートから既に3年が経過し、年々GCに対応する授業が増加している。授業に出席できない際に、大いに重宝できるおなじみのシステムは、既に成熟した印象があるが、一方で新しい動きも見せている。高大連携の仕組み作りの他、2006年度からはGCを利用して、学外の学生でも学部・大学院の単位を取得できる、e科目等履修制度の運用を始める。


 今回は、日ごろGCを利用して思っていることや、GCの今後の見通しなどについて、School Of Internet(以下、SOI)代表の政策・メディア研究科大川恵子助教授に話を伺った。
SOIとはどのような団体でしょうか?
 SOIとは、地域・国境・時間を越えて、学びたい人が学びたい時に、最高の教育に出会える、そんな環境を作る団体です。個人、団体、大学、いろいろな視点でやっていますが、基本的には、グローバルシェアリングというコンセプトです。97年の秋にスタートしました。

SOI代表 大川恵子政策・メディア研究科助教授
SOIと、GCとの関係はどのようになっているのでしょうか?
 SOIは、個人がインターネット上でどのように学んでいけるかという実証実験を続けていたのですが、そのシステムを、慶應・SFCが正式採用しました。SOIはシステムを提供して、GCは「慶應として」インターネット上での学ぶ場所というのを作っていくというものです。
GCはサービスなのでしょうか、実験なのでしょうか? 学生側がどの程度信用を置いてよいか、わかりません
 GCは学部長が正式に推進しているものです。GCのページに、「GCとは」、という説明が詳しくあればとは思うのですが、まだ出来ておりません。結構ご心配されている学生さんもいるようですが、基本的にはまだ実験段階です。ただいつまで実験なのか、という点では、SFC的にはずっと実験なのかもしれないのですが、運用面ではしっかりしていますので、ご安心ください。
 GCはSOIのシステムを使って、SFCがやりたいことを実験としてやっています。やりたいことの一つは、大学がもつ教育資源を、グローバルにシェアして、学びたい人に役立ててもらいたいという点です。
 もう一つはその学習スタイルを使って、履修の単位を取って行く、ということを将来的に見通しています。今年春学期から、e科目等履修制度のモニター学生の募集を始めて、2006年からの運用のリハーサルを行っています。今後は学費を取って、慶應が単位を出していくという方向です。
 単位ごとに学費を取って慶應の授業を受ける、「科目等履修制度」というのは既にあるので、その受講部分がインターネットになるという仕組みです。事務処理、振込みの確認という手続きを経て、受講できます。特に、インターネット課金などは考えていません。
GCがあると、通常の科目等履修制度の利益が奪われる、という意見もありますが
 それは問題を混同しています。学内でも理解をしていただくのが難しいのですが、大学側がポリシーをもって、教育をグローバルに共有することで社会貢献をしていく側面と、授業の単位を出していくのは、全く違う活動でありサービスです。たまたま使うシステムが同じだったわけです。
 大学のポリシーとして、社会貢献をしていくことは、お金は取れないかもしれませんが、それはそれで仕方がないですよね。そのあたり、どのように三田と政治的にやっていくかは私には分からないのですが(笑)、私は両方とも大学の役割として重要だと思っています。
GCが始まって3年目ですが、現状はどのような体制で行っていますか?
 収録・エンコードなどは「School on Internet 株式会社」という所に委託してやっています。システム開発の部分は実験を含めていますし、先生たちがフィードバックしたものを実装していかなければならないので、それはSOIの研究グループがやっていって、GCにも反映させています。

撮影スタッフの作業場であるο410

この他にも、今まで撮り貯めたDVテープがいたるところに保存されている
昨年のことですが、どうも授業ビデオのアップロードの時間が遅い気がしましたが
 先生からの資料が届かないなどの原因があるようです。公式には、2ワーキングデーでアップロードできるようになっています。つまり大体明後日にはアップロードするようになっていますが、資料が届かない場合にかなり遅れる場合があるようです。
 今学期から、3日過ぎても資料がこなかったら、ビデオだけアップロードするようにしています。
GCでビデオを見たころには、課題の提出期限が過ぎていた、などの問題もありますが
 先生によって、GCの利用にいくつかのパターンがあり、復習用にしか認めない、という先生もいるし、基本的には社会貢献や外部の学生のため、という人もいます。一方で、自分の授業に深く組み込んで使っている先生もいますので、一概には言えないと思います。
でも使い方を明言してくれないこともあります
 そうですね。その授業の第一回に、その先生がGCをどう使うつもりかということは、生徒に言ってあげたほうがいいですね。
後ろにビデオがあって、「ラッキー」と思う生徒もいそうですね
 そうですね(笑)。でも学生が注意した方がいいのは、今学期に撮影するが、必ずしも今学期GCが開講しない可能性があるという点です。カメラがあっても油断してはいけません(笑)。
 その点など、確かに学生さんから見たら、運用に不透明な部分があると思うので、改善していきたいと思います。

普段使用するカメラ
今までGCで、問題が発生したことはありますか? 「俺の顔を映すな」など
 「俺の顔を載せるな」という苦情は案外来ません。カメラは後ろから撮って、顔を見えないようにして、危ない発言の部分はカットしていますので、学生側からそういったクレームは一度もありません。
 一方で、先生からはカットの依頼はよくあります。授業の内容によっては思想的な部分もありますので、編集は難しいのですが、カットだけは先生の権利なので、どんどんお受けしています。
その他、学生・教授側からの反応はありますか?
 外部の学生さんからは、「ありがたい」、「勉強できて非常にうれしい」という意見は、よくあります。特に社会人の方で、それを既に専門にされている人が、「こういう話を聞きたかった」という感じで意見をくれます。また、キーワード検索でGCがヒットして、慶應大学がそのようなことをやっててうれしい、という話はありますね
 あとは塾内オンリーの素材に、外部から見たいというリクエストがありました。使う資料が公開に適さないので、公開できなかったものです。実際には学外に対する貢献にはなっていないのですが、貴重な教育資源なので、いずれ役に立つだろうということで、塾内という条件でお受けしています。
 先生達が心配されるのは、授業の中で使っているものの著作権の問題です。教育利用の範囲内で使用しているものを公開していたものに対して、オーナーから問い合わせがあったということは一件ありました。
対応授業が段々と増えていますが、今後増える予定はありますか?
 やりたくない先生は、最初から断られますが、一度やった先生は、割と慣れていることが多いですね。学部長としては、すべての授業をGCで取り上げて欲しいというリクエストがあります。ただ私としては、社会貢献という観点からすると、SFCが誇りを持って出していく、という位置づけのほうが、合っているのではないかと思います。授業は、SFC-SFSの中から、好評なものを選んでいきました。
生徒がGCに頼りすぎて、学校に来なくなった結果、授業が成り立たなくなることはないでしょうか?
 システムがスタイルを決めてはいけないと思うので、なるべく先生にも学生にも自由があっていいと思います。「どうやって学びたいのか」というのは学生の権利だと思っていて、学生が「先生にも会わなくてもいいや」と思っていれば、それはそれでいいと思うし、先生が「議論をしない学生に単位を出してもいいや」と思っていれば、それはそれでよいと思います。確かに、GCをやると生徒は若干少なくなるそうですが(笑)、それを想定した、様々な授業形式があっても良いのではないでしょうか。現に工夫されている先生も沢山おります。
 まったく学校に行かなくてよい、などの学習スタイルのリプレースは考えていませんが、健康上の問題や就職活動など、本当に授業に来られない人達のために、今までできなかったことが少しできるようになった、ということで、ドーナッツの外側が広がったということを、考えていただければと思います。
GCは画質が悪いという印象があります。特にパワーポイントの字が見づらい気がします
 一応資料はPDFで見られるので、ビデオと並べてみてどこを見ているかくらいの情報に過ぎないと思っていて、資料はダウンロードして、それを見ながら受講してください。
少し面倒くさいですよね
 いろいろ試行錯誤していて、例えばパワーポイントのタイトルだけ入れたりしていた時もあります。
エンコーディングフォーマットに、Real Videoを採用した理由は何ですか?
 当然他のフォーマットを検討しましたが、対応するOSのプラットフォームが広い方がいいな、ということで、Realを選択しました。最近はほとんどの人がWindowsを使っていて、WMVも人気があるのですが、しばらくRealでやっていこうと思います。

編集機材
今年のインターネット概論では、高校と大学の連携の授業をやっているそうですが
 インターネット概論は、割と一年生向きの授業なので、高大連携の授業に向くものであるというのは、前から話していました。2つのアプローチがあって、一つが村井研を卒業した方が高校の教師をやっていて、都立高校で高大連携の取り組みをしたいと申し出があり、有志10人の高校生が大学の授業を聞いて、課題を出していくということを実験しています。
 ただ高大連携は少し微妙な側面があって、「この学校だけ」というのは大学側としても、あまりよくありません。どういう経緯でその高校が選ばれたか、というのが透明になっていないと、大学の公式行事としてしかできません今回も卒業生が実験という形でしかやっていないのですが。将来的には高校が、申し込んできたらできるようになっていたら、面白くなりそうです。
 もう一つが、SFC中高の高校3年生が課外授業として、大学の授業を受けるという高大連携があります。成果がどうなるのか、少し見えないのですが、まだ実験ということですね。
他の大学でも遠隔授業をやり始めたところがありますが、何か気になる点はありますか?
 いろいろ出てきたのは素直にうれしいと思っていて、様々な大学がやってくれれば、いろいろなコースを選ぶことが出来るので、特にネガティブな印象はもっていません。
 ただ、もう少しお互い連携に向けて、話を始めても良いかなとは思います。一度東北大学と、全く別件で話があったときに、すごくライバル視されている、とういことを聞いて驚きました。そのようなものではなく、むしろこちらとしては協調したいですね。
 また、E-learningは、闇雲に標準化という言葉が先走りしがちな分野です。たくさんの国際標準があり、日本の中でも国際標準に従っていこうという動きがあるのですが、特に大学教育の利用に関しては、まだまだ標準化するほど成熟されていないと思います。いろいろなものが出てきて協調しようという時に、それぞれの成長が妨げられない動きが望ましいと思います。
標準化とは、具体的にどのようなものでしょうか?
 私が思うに、標準化が出てきた土壌は企業内ラーニングにおいて、その人がどう学んだかなどの履歴や、A社が開発した教材がいろんなところで使えたらいいだろう、ということで教材の作り方が標準化されていたりしています。ある意味、いい部分もあるが、まだその大学教育のあり方はまだ模索中だと思うので、横目に見ながらやっていこうと思っています。
最後に、今後のSOI、GCの今後の取り組みについて、教えてください
 成長することが、やっている意味なので、まだまだ意見を言ってもらいたいです。大学、SFCでやっているという意味は、サービスという意味ではなく、いろいろなものに成長、チャレンジしていきたいと思っているので、どんどんコメントが欲しいです。また、もし学生をこう巻き込んだらどうか、という提案があればうれしいです。
 あと、国際的に通用するものになっていけば、と思っています。SOIも、研究の中ではアジアと結びついていて、現在11カ国、20大学と協調して、授業を共有しています。そういった意味で、「SFC Global Campus」という名前の通り、グローバルな方にも力をいれていきたいなと思っています。
ありがとうございました