バーにはたいてい、カウンターがあります。


 そしてバーにおいて、カウンターで飲むこととテーブルで飲むことは、全くの別物なんです。たとえばカウンター席は、コンサート会場でいうアリーナ席に例えられたりします。なぜなんでしょうか?
■カウンターはアリーナ席!?
 想像してみてください。バーの扉を開け、カウンターに座りました。カウンターの奥にある棚には、ズラリとお酒の瓶が並んでいます。この棚を「バックバー」と言い、ここにどんなお酒がどんな配置で並んでいるかは、それぞれのお店で違っています。
 そこにはそのお店の特徴やマスターの思い入れがぎゅっと詰まっていて、「こんなお酒にこだわってるんだよ」とか、「この並び、あのカクテルの材料でしょ。うちの看板カクテルだからぜひ飲んでみてね!」といった、そのバーのメッセージが込められています。そんなわけでバックバーは「バーの顔」といわれたりします。
 そしてカウンターには、バーテンダーが常についています。バーテンダーは、bar(酒場)とtender(優しい相談役)から造られた言葉です。バーテンダーはただお酒を作るだけではなく、ゲストにとってその夜のお酒が良きものであるように、専門知識によってゲストが飲むべきお酒の相談に乗り、技量によってそのお酒をおいしく仕上げ、楽しい時には楽しく、辛い時には優しくゲストに接してくれるバーで過ごす、夜のかけがえの無いパートナーなのです。
()お客ひとりひとりに合ったお酒を提供する、そんなバーテンダーは、薬を調合する医者になぞらえて、アメリカで「Doctor!」なんて呼ばれたりもします。
 コンサート会場のアリーナ席では、ステージを目の前に、演奏者とコミュニケーションをとりながらそのパフォーマンスを間近に見ることが出来るように、カウンター席では、カウンターという舞台を目の前に、バックバーを背景に見つつ、バーテンダーとのコミュニケーションを楽しむことが出来るようになっているのです。
 ですから、カウンターで飲むことがバーの醍醐味といっても過言ではありません。
 今日は友達と話がある。飲みたい酒も決まっている。静かな場所で誰にも邪魔されずに話し合いたい。
 それはそれで結構。テーブル席に座ると良いでしょう。バーテンダーはその意図を察して、タイミングを計りながら接客をしてくれるはずです。けれども良いお酒を楽しみつつ、考え込みたい、友達と語らいたい、そんな時には、是非ともカウンター席に座らねばなりませんし、バーテンダーもそれを望んでいます。
■カウンターでのルール
 というわけで、バーでの楽しみにカウンターが欠かせないことがお分かりいただけたと思いますが、ここでちょっとバーについて考え直してみましょう。
 バーはそもそもお酒を飲む場所です。お酒を飲み日常の枠を忘れて楽しむのが、酒場の楽しいところですが、忘れきってしまっては他人に迷惑をかけてしまいます。ですから、バーでゲストの皆さんがおしなべてカタルシス(!)を味わうためには、最低限の節度を持ってバーにおけるマナーを守らなければいけません。
(
)まず、カウンターにおけるマナーとして、大人数で座らないことが挙げられます。
 バーの醍醐味であるカウンターでの楽しみ。しかしバーテンダーも聖徳太子ではないので、一度にたくさんの人の接客は出来ません。必然的にカウンターの席数が限られてきます。
 そんなところで大人数でカウンターに座る。団体だから必然的にバーテンダーとの会話より、連れあい同士での会話が多くなる。盛り上がる。他のお客さんはカウンターに座れない。
……迷惑です。こんなことを続ければ立派な営業妨害です。
ですから一般的にカウンター席に一緒に座るのは、多くてもせいぜい3人までというようになっています。
……では、3人だったらいつでもカウンターに座っても大丈夫?
 そういうわけでもありません。丁度バーに入ったらカウンターが3席空いていたとします。でもそれは、3席しか空いていなかったということです。混んでいます。混んでいるときに3人で押しかけるのは、どうでしょうか。実はその中の1席は常連さんの定位置で、バーテンダーの方や、他の常連さんがわざと残しておいた席かもしれません。
 第一あなた、金曜の22時くらいにそのお店に行ってませんか? バーが混んでいて忙しい時間帯を選んで、3人でバーに行くと、お店の人は慌てるし、混んでいて座れないというお店も多いでしょう。あまりスマートではありません。
 とあれこれ具体的な例を書きましたが、はっきり言って、いの初めからそんなにこまかいところを気にしても、美味しいお酒が楽しめませんね。3席空いているのなら、座ってしまって全くかまわないかもしれません。ただ、世の中にはいろんなバーがあり、バーごとに暗黙のルールが存在していたりするものです。何が迷惑になり、何が迷惑にならないかは、それぞれのバーや時間帯によって様々です。店とつき合うも、人とつき合うも似たようなものです。相手がどういう考え方をして、何を求めているのか、多少なり考えてこそ、うまくやっていけるのでしょう。
(*)ですから、初めて行くバーや、まだあまり雰囲気が掴めていないバーには、まず一人か二人で行ったほうがいいのかもしれませんね。
–平野雄大 略歴–
総合政策学部3年
学内での活動:学生ガイド、クラブ「D」メンバー、KEIO SFC REVIEW編集委員。
・1984年
 長崎県諌早市生まれ 現在20歳。
・2003年
 福岡県 筑紫台高校を卒業。
 卒業記念に友人にコーヒーミルをもらう。コーヒーに凝り始める。
 SFCに進学のため藤沢市に転居。辻堂在住。酒類量販店までチャリで5分。
 藤沢駅周辺のレストランやカフェなどを巡り始める。
・2004年
 ウイスキーに開眼。藤沢駅周辺のバーに通いつめる。
 夏に銀座の某社にてアルバイト。帰り道に東京-横浜周辺ホテルのバーを探索。
 友人にレストランやバーのアドバイスを求められるようになる。
現在、「ウイスキーエキスパート」取得に向け勉強中。