現在、教員によるカリキュラム委員会において、現行のカリキュラムの改定作業が進められている。SFC CLIPは同委員会の委員長をつとめる萩野達也環境情報学部教授にインタビューを行った。


 初回では、改定作業にいたった経緯や教員からあげられている新カリキュラムの案を取りあげた。今回は現行のカリキュラムに対する教員の意見や、実際の改定作業がどのように進められているかについて伺った話をお届けする。
[アンケートから始まった改定作業]
–2004年にSFCの全学生にカリキュラムに関するアンケートが行われましたね。
 はい。現在のカリキュラム改定は、もちろんそれを受けて行っています。
–アンケートの結果は、大方の教職員が予想していた通りの結果だったのでしょうか?
 ある程度予想していたような結果でした。すぐに対応できるような問題には、なるべく迅速に対処しました。すぐに対応できないものについては、カリキュラム改定で参考にしています。
 たとえば、履修時の「抽選」制度については反対の意見が多かったので、即廃止し、現在の「選抜」制度を取り入れました。
[2週間に1度の教員会合「アゴラ」]
–いま、授業の改革を進めて行くにあたって、議論の方法というのはどういった手法をとられているのですか?
 教員会議ですね。その前の議論をする場としては、「カリキュラム委員会」を設置し、改定案を策定しています。教員からの意見はWEBを使い、どういった科目を教えたいのか、調査しました。この結果をもとに研究分野による教員のグループ内で意見を調整し、現在は各学部レベルで調整しております。
–カリキュラム委員会は何人くらいの教員で構成されているんですか?また、それはいろいろな専門領域から、まんべんなく集められている教員ですか?
 一応、まんべんなく。約20人くらいですね。大学院でプログラムで分かれているところからは、各1人ずつは出ていただいています。
–そこではどれくらいの頻度で意見交換などされているんですか?
 忙しい時には、毎週。そうでもないときには、2週間に1回くらい。状況に応じてです。ちょうど今頃は、カリキュラムを決定しなければいけない時期なので、つめの段階です。先週もやったし、今週もやります。土曜日に作業をしたり、分科会をつくってそこで作業したりとか。今は環境情報と総合政策に分けて、ちょっと作業してますから。
–ふだんの研究、授業に加えてそういった作業があるとはお忙しいですね。
 10月に教員会議がありまして、改定案については、そこで最終決定しようとしています。
–では、もうすぐですね。
 その場で決定できなかったら12月の教員会議での決定ということになるんだけれども、それはなるべく避けたい。
 と、言うのも、カリキュラムの変更は、学則の変更を意味しています。学則の変更は、各学部から大学評議会というところにだす。大学評議会というのは、慶応義塾のなかの、学事関係のことをやっている、最高決定機関です。そして、そこから文科省に出す、ということになりますので、時間がかかるんです。なので、10月頃には決定したい。しかし12月頃には、もう来年のSFC GUIDEに書かないといけないので、10月には決まっていないと大変。なので、夏休みが最後の作業時間ですかねぇ……(苦笑)
–教員間でのやり取りは、カリキュラム委員会や年に数回の教員会議などの場に限られているのですか。
 もう一つ、「アゴラ」という月に1回の意見交換会があります。ただし、アゴラは決定機関ではありません。
 大学院では、ほぼ毎月「研究会委員会」を開いていて、決定機関としても機能しています。
–アゴラには全教員が参加するのですか?
 いえ、任意参加になっています。なので、出てくる先生もいれば出てこない先生もいる。ですから、決定や承認はできないようになっているんです。アゴラでは、カリキュラム委員会の委員がみなさんに改定作業の進ちょく状況などをお知らせして、意見などをうかがっています。
[初心にかえり、科目を整理する]
–現在、改定作業の最中とうかがいましたが、最も苦労されている点は何ですか。
 科目の整理ですね。科目は研究と並んで、大学から社会へのメッセージですから。受験生は科目を見て「この学部はこういうのを勉強できるのか」と認識する。それを、わかりやすく、またきれいな形に配置しなければいけない。
 現在は科目が少し多すぎるんです。設立当初のSFC GUIDEを見ると、科目は現在よりもすっきりとまとまっています。コースが3つあり、それぞれのなかで問題発見、問題解決をするような科目が置かれていました。現在のクラスター科目にあたる科目は総環でそれぞれ50個くらいだったでしょうか。理想としては、そこに戻したいんです。
–初心にかえる、ということでしょうか。
 SFC設立の精神を思い出しつつ、現在のVer.2.0を修正する。Ver.2.0を忘れようとしているわけではありません。教員や学生に、あまりにも自由になりすぎたのがVer.2.0でした。科目が細分化しすぎ、学生に正しい判断を求めるのが難しくなっています。
 科目数が少なくなれば、仕方なく自分の興味とは違うものを履修しなければならないでしょう。そういうことは起こっても良いと考えています。私も大学時代、理系でしたが、仕方なく履修した国文学がいちばん面白かった。
 本来、SFCでは、多様な視点から問題にアプローチするということをめざしてきたはずです。現在は科目が細分化しすぎて、よほど意識的にならないとそれができなくなってきています。
–SFCはどういう大学になろうとしているのでしょうか。
 むずかしい質問ですね。
 
 今、カリキュラムを改定しながらSFCの創立時代を思い出しています。SFCはどうしてつくられたのか、教員のなかで再び考え、見直しています。総合政策とは何か、環境情報とは何か、を考えなければカリキュラムはつくれませんからね。
–そういった意味では良い機会になっているんですね。
 そうですね。SFCとは何か、が再び明らかになっています。まだ全教員では共有していませんが、そうなることを期待しています。
 本来、環境系と総合系の両方を学習してもらってから自分の独自の研究を深めることを学生に求めてきました。ところが現在は、非常に狭い分野への専門化、もしくは、全く方針のない科目履修が進行してしまっています。その2つをどうにかして、SFCの理想とするところへ持っていきたい。今回のカリキュラム改定には、そういう目的があります。
 次回は、卒業プロジェクトの必修化にともなう、カリキュラム全般の改定点の意図などについて、インタビューの続編をお届けする。