どんどん変わる「今」の中で「気付きと場」を作りたかった 西田将之さん(12年総卒)インタビュー
SFCの「今」を伝えるプロジェクトがある。我らがSFC CLIPだ。この春、卓越したアイデア力と行動力で、編集部を支え続けてきた1人の編集者がSFCを去る。前・SFC CLIP編集長の西田将之さん(12年総卒)である。彼はどのような思いでSFCの「今」と向き合ってきたのだろうか。お話を伺った。
SFC CLIP編集部は2001年、中島洋政策・メディア研究科教授(当時)の研究会内プロジェクトとして発足した。現在は中島教授が退任し、サークルの形式で運営されているプロジェクトだ。
西田さんは2008年、慶應義塾大学総合政策学部に入学し、SFC CLIP編集部に参加した。その後、2010年7月SFC CLIP編集長に就任。2011年9月まで務めた。
西田さんは編集者として、編集長として、様々な施策を行なってきた。SFC Open Research Forum(ORF)では、多くの来場者が首から下げた「Twitterネームプレート」を発案した。また、新歓実の不正経理が発覚した際は、記事化してSFCに議論を巻き起こした。常に最前線でSFCの「今」と向き合ってきた彼は、卒業した今どのような思いなのだろうか。
西田将之さん(12年総卒)
「慶應に数学と小論文だけで入学できるらしい!」
慶應に数学と小論文だけで入学できる学部があるらしいと知り、愛知県からSFCのことを全く知らないまま受験、入学しました。
SFC CLIP(以下、CLIP)に参加したのは1年生の秋。それまでは特に何もやっておらず、何かしようと思ってCLIPに入りました。反動なのか、同時に七夕祭実行委員会、新入生歓迎の集い実行委員会(以下、新歓実)、八百藤にも入り、もちろん一気にキャパオーバー。2年の春にはCLIPにも顔を出すのがきつい程になり、自分の限界を悟ることになりました。沢山サークルに入っていて大変でしたが、やはりCLIPの活動は楽しかったので、なるべく参加しましたね。
他のサークルにも入っていたので、情報は多く入ってきました。その中でとりわけ、これは記事にしなくてはと思う出来事がありました。これが新歓実の不正経理記事(後述)ですね。とても叩かれもしましたが、周りの先輩にすごく励ましてもらいました。きっと「ポッと出」の私が叩かれて大丈夫か、と心配してくれたんですね。この後、より一層CLIPで頑張っていこうと思うようになりました。
3年生になってからはCLIPの中心として、忙しく活動してきました。3年の途中からは編集長になりました。暇なのが苦手で、動いていると楽しかったですね。
4年生では周りを巻き込んで、大きな規模感のあることをやりたいと思いました。それなりにはできたけど、もうちょっとできたかな、と思う面もありました。
「新歓実の不正経理」記事の真実
2009年の春ですね。私自身が新歓実に身を置いていたので、新歓実のお金が余っていることと、それがよくない方向に使われていることが、切実な問題として感じられました。
そこで、これをCLIPで取り上げようと思ったわけです。何かを変えたいという「使命感」という訳ではありません。ただ、あまりにそのことが知られていないので、まず伝えなければ、という思いで記事を書きました。もちろん、あんなに議論を呼ぶ状態、いわゆる「炎上」するとは思いませんでした。
まず記事のコメント欄で議論が起こり、次に2ちゃんねるのSFCスレッドに転載されました。更に2ちゃんねるの慶應スレッド、ニュー速板にまで転載される始末でした。個人ブログなどでも、転載・言及されてましたね。
書くにあたっては先輩と何度も相談を重ね、かなり慎重に書きました。これは書いてよい、これは書いてはいけないと1つずつ検討をしていったのです。しかし、後から考えてみれば、そもそも問題提起をしているのに、執筆者も利害当事者では公平性がありませんでした。
当時を振り返る西田さん
記事で言及した情報に関しては、一般に公開されているものしか使っていません。確かに私は新歓実内部の人間でしたが、新歓実内部の人間しか知りえない情報を使って、指摘してはいないのです。オープンになっている情報を使って、誰にでも指摘できることを指摘したつもりです。
記事の中で実名を出して指摘したのは、元になった情報に実名が記載されていたからです。記事で名前が伏せられているのに、リンク先の資料では実名が書かれているというのはおかしくありませんか? そこで、記事でも資料でも実名を出すか、記事で実名を出さず資料でも名前を伏せるか、どちらかにしようと考えた結果、実名公表に踏み切りました。
もう1つ、実名公開の時に頭にあったのは「SFC CLIPは学生に向けて発信する学生メディアである」ということです。今でこそ、SNSで拡散されることを前提にしなくてはならない環境になりましたが、2009年当時は違いました。CLIPの大きさが今よりも小さかったこともあり、学内にのみ伝わるという意識が強かったのです。実際はそうではなかったのですが。
炎上した後も後悔しなかったですし、ヘコみもしませんでした。むしろ、周りがヘコんでしまい、申し訳なくなりましたね。
ただ、不自由なこともありました。「炎上」事件以降の2週間程度ですが、1人で歩くことができませんでした。これは人づてに「ある人が西田を襲おうとしている」と聞くことがあったからです。メディアに行くにも誰かと一緒。生協に行くにも友達と。これだけが大変でした。
この事件から感じたこと、それは「文章は絶対に筆者が考えているようには伝わらない」ということです。だからこそ伝える努力を怠ってはならない。私はそう思います。
「Twitterネームプレート」誕生秘話
ORFでは「Twitterネームプレート」を企画しました。ORFはそれぞれの研究会が発表する場。しかし、CLIPはメディアである以上、何かを発表することができないのです。取材した内容を発表しても、それは取材を受けてくれた人の功績でしかありません。だから、別の形でORFに貢献できないかなと思いました。
「Twitterネームプレート」
そこで、Twitterに目を付けました。SFC生の多くが利用しているTwitter。しかし、アイコンでしかその人のことを知らず、フォローしあっているのにORF会場ですれ違っている人たちが多くいます。だからそのすれ違いをなくそうと思ったのです。
すれ違わずに出会いになれば、そこに「場」が出来る。そして場が出来ればプロジェクトが動き出すと思ったのです。
私たちメディアはプロジェクトの成果を取材することだけを行ってきましたが、プロジェクトの演出、人と人との間を取り持って、新たなプロジェクトの契機を作ることもできるのではないかと考えたのです。そのためのツールが「Twitterネームプレート」です。この「Twitterネームプレート」がきっかけで1つでもプロジェクトが生まれてくれたらという思いがありました。
お金を取っていないため、完全な赤字ですが、CLIPというメディアを知ってもらうきっかけにもなります。2年間続けてみて、ORFのスタンダードになりつつあり、貢献できていることを嬉しく思います。
ORFで「Twitterネームプレート」を説明
自由に公開「CLIP記者のあたまんなか」
記事の面では新コーナー「CLIP記者のあたまんなか」を創設しました。「CLIP記者のあたまんなか」は、CLIPの記者たちが、自分で発見したニュースや感じたことを、自由に公開していくスペースです。なぜこのようなスペースを作ったかというと、記事をより面白くするためです。
「CLIP記者のあたまんなか」
私は、読者が面白いと思ってくれる記事は、記者が書いていて面白い記事だと思います。なぜなら、記者が面白いと思えば、詳しく調べ、より工夫して書こうとするからです。記者が受動的にやらされて書く記事は、読んでいてもつまらないです。
私がCLIPの編集長になった時、CLIPは若干影響力が大きくなりすぎて、自由に記事を書くにはためらわれる、という状況がありました。だから、サイトの端に記者が自由に書けるスペースを用意したのです。面白いから書こう、と進んで書いた記事は面白い。そして、そうやって記事を書いているうちに記者の力量は上がるのです。最終的に読者の皆さんに面白いと思ってもらえる、魅力のある記事を書ける記者が成長すると思います。
小川克彦環境情報学部教授のインタビューに臨む
また、このSNS全盛の時代にあって、CLIPがSNSに負けるのではないか、という恐怖心もきっかけになりました。週に1回の配信ではFacebookなどのSNSの速報性には勝てない。だから、CLIPにもSNSのように扱えるページを作ってしまえと思ったのです。こうして速報性をもたせ、逆にSNS全盛の時代を逆手にとって、CLIPの記者にはもっとSNS上で拡散するようなコンテンツを作って欲しいと思っています。
まだこの施策は種を蒔いた段階で、成果は見られないかもしれません。しかし、いつの日か実を結び、CLIPの記事の質が上がってくれることを期待しています。
学生メディアのあるべき姿とは
学生メディアは「記者が面白く書けて、読者も面白い」状態であるべきだと思います。そのためには「記事が面白い」という要素が不可欠なのです。
面白い記事の条件はいくつかあると思います。
1つ目は記者がどれだけ楽しんで記事を書けるかということです。前述の通り、記者が面白いと思わなければ、記事は面白くないと感じます。記者が書きたいと思う記事こそ面白い記事なのです。
2つ目は読者が必要としている情報が含まれているか、ということです。これが無いと「筆者は面白いけど、読者は面白くない」状態、つまり記事ではなくブログ状態になってしまうのです。
3つ目は記事としての体裁が整っているか、ということです。小見出し、写真、文、表などわかりやすさがあるかということです。
これが揃えばきっと記事が面白くなり、「筆者が面白く書けて、読者も面白い」状態になると思います。
個人的には記事が双方向で展開するともっと面白くなるかな、と思います。今でも、CLIPのTwitterアカウントに向けて、意見やコメントを頂くことがありますが、これをもっとうまく活用できたらいいなと感じています。
SFCの「今」と向き合ってきて
CLIPは「SFCの『今』を伝えるメディア」です。4年間、SFCの「今」と向き合い続けて感じることは、「今」がどんどん動いていく、ということです。私が2008年に入学してきたときは、2012年より活気がなかったと思います。今、SFCが元気になってきたのは、おそらくSNSの影響だと思います。SNSはやはりSFCにマッチしていると感じるのです。
SFCの4年間、本当に楽しかったと語る西田さん
もう1つ感じるのは、SFC生は1年生、2年生、3年生、4年生の人間的な深さが全く違うということです。おそらく、1年生と4年生が議論したら絶対に1年生は勝てない。きっとSFCで生活して、学んで、毎年毎年気付きを得ているからだと思います。そして、メディアであるCLIPはその気付きをサポートすることができるのではないでしょうか。
ちょっとでもその助けができていたら、SFCに何か残せたのかなと、卒業した今思うんです。
“どんどん変わる「今」の中で「気付きと場」を作りたかった 西田将之さん(12年総卒)インタビュー” への2件のフィードバック
こんなイケメンな編集長がいるSFCCLIPはいい集まりですね^^
今の編集長もきっとイケメンなんでしょうね^^
「SFCの4年間が楽しかった」か
まさしく西田さんみたいな人をリア充と呼ぶんでしょうね。
私は4年間非リア充でしたので非常にうらやましいです。嫉妬します。