7日(月)、グリー株式会社代表取締役社長の田中良和氏がSFCに来校した。田中氏は、「ネットワーク産業論」(夏野剛政策・メディア研究科特別招聘教授担当)にてゲストスピーカーとして講演を行った。GREEの誕生に関するエピソードや今後の展開、学生へのメッセージまで、ここでしか聞けない貴重な話に履修者の耳は釘づけとなった。

楽天の成長を見られたのは、大きかった-グリー創設までの道のり

 IT起業家の中には、学生時代に起業したり、卒業直後に起業したりという人も多い。しかし、田中氏はそうではない。サラリーマン経験がある。

 学生時代からインターネットに興味を抱き、新卒で大手のプロバイダーサービス企業に就職。好きな分野の仕事に就くも、「10年ぐらい頑張って、35歳で一人前になるように」という当時の上司の言葉に奮発し、スピード感溢れる職場を求めて退社を決意した。

 その後、設立して間もない楽天株式会社に転職。当時は、まだ社員数が50人以下の小さな会社だったとのことだ。

 ちなみに、楽天に移ったきっかけは、とあるSFC生が外資系コンサルの内定を蹴ってまだベンチャー企業だった楽天への就職を決めたことだったという。彼の紹介で三木谷浩史社長と会い、その熱意や自分と価値観が似ていることに感銘を受け、楽天で働くことを決意した。

 楽天が成功していく様を間近で見られたことは、とても幸運だったという。企業が成長するというのがどういうことなのか、その体験は自身が起業してから大いに役立った。「シリコンバレーにIT起業家が集まる理由は、成功者がすぐ近くにいて、簡単に話を聞きに行けるからなんです。」と田中氏は熱を込めて語った。

 また当時、田中氏は楽天社員として働く傍ら、開発したGREEのサービスを個人で運営していた。利用者は既に、10万人を超えていたそうだ。ある時、利用者からメールで「もし田中さんが亡くなったら、GREEはどうなるんですか?」という質問を受ける。それをきっかけに、個人で運営することに限界を感じ、楽天を退社しGREEを会社として運営していく決心をしたという。

必要なのは、「誰にも理解されない」という覚悟

 起業した当時、オフィスはアパートの1室で、出入りしていたのはたったの6人だった。グリーを経営する中で考えていたのは、昨今の流行を追うのではなく、5年10年先を見据えてサービスを企画・運営するということだと言う。その頃はまだ世間のネットワーク産業に対する理解も浅く、モバイルサービスといえば「着メロ」くらいしか無いような時代だった。「釣りゲーム」の開発をしていると、「なぜGoogleのような検索エンジンを作らないのか?」という叱責を受けたこともあったそうだ。

 新しいことをするために必要なのは、「誰にも理解されない」という覚悟だと、田中氏は言う。なにか新しいことを始めようとすると、必ず周囲からは「それはバカげている」と言われる。なぜなら、新しいものとは、「まだ誰も可能性に気付いていないもの」だからだ。

 そんな逆境の中でもグリーは成長し続け、近年では業績も好調。8年間でここまで成長させたのは日本の株式会社の歴史の中にも類を見ない、と田中氏は胸を張る。そして、「日本の中からまだまだ成長する企業は生み出せる」と力強く語った。将来的には、ユーザー数10億人を誇る、Facebookと肩を並べるサービスにしたいと語った。

今の学生には、世界で競争力のある社会人になってほしい!

 田中氏の講演が終わると、会場では質疑応答の時間が設けられた。ここではいくつか、興味深い質問を抜粋して紹介したい。

Q. GREEという名前の由来を教えてください

A. 「Six De”gree”s of Separation」という言葉から来ています。人は誰でも、自分の知り合いを6人辿って行くと世界中の人と繋がりを持っているという仮説です。

Q. 大きな失敗から立ち直るためにはどうすれば良いですか?

A. 起業すると、約8割は倒産すると言われています。大きく成功するのはほんの一握りなので、会社を始めることはある意味失敗の始まりとも言えるかもしれません。私自身、起業したての頃には、成長実感がなく辛い時期もありました。それでも、「勝つまで試合を続行することが大切」と思って頑張りました。
失敗して落ち込む人は、そもそも起業には向いていないのかもしれません。

Q. インターネットをツールとして捉えたとき、将来的にはどういった分野に応用していきたいと考えていますか?

A. 具体的な分野に関してはまだ考えていませんが、インターネットの可能性を更に広げていきたいと、強く思っています。利益には直接結びつかなくとも、社会の役に立つことをGREEとしては応援していきたいです。私達は、日本社会から恩恵を受けているという自覚を持たなければなりません。だからこそ、株式会社として利益を社会に還元することが求められているのでしょう。なかなかお金にならない分野にも、自分たちの収益の一部をつぎ込んでいきたいと考えています。

Q. 学生へのアドバイスを下さい

A. 皆さんの年代には、苦労が多い人生が待っていると思います。最近は少子化の時代なので、大学受験などの場面で以前ほど厳しい競争はありません。ただ、1回社会に出てしまえば、同世代の外国人との競争が待っています。新興国の若者は、今の日本とは逆に、日増しに厳しくなる競争の中を生きています。彼らのハングリー精神は、とてつもないです。これからの時代、日本国内で何番目かというのは、さほど重要ではありません。むしろ、世界の中でのポジションを気にしていって欲しい。ぜひとも、世界で戦える社会人になってください。

 新興IT企業の社長というと、何かギラギラとしたハイテンションな人物像が思い浮かぶ。しかし、田中氏の人柄はそれとは異なるように思えた。「熱い」というよりはむしろ冷静な語り口で、真剣な眼差しが非常に印象的だった。

 最近、グリーに関する報道が多くなされている。グリーという企業を否定的に捉えたものも、中にはある。しかし、今回の講演からは田中氏の誠実さ、グリーの社会貢献意識の強さがはっきりと伝わってきた。学生たちにとっては、いま最も熱い企業を、違った側面から見直す良い機会になったのではないだろうか。

【田中良和氏・略歴】

1977年東京都出身。日本大学法学部を卒業後、ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソネットエンタテイメント)株式会社に入社。2000年2月、楽天株式会社に転職。2004年2月に個人の趣味としてGREEを開発、公開する。同年10月、楽天株式会社を退社。同年12月、グリー株式会社を設立し、代表取締役に就任。