シラバスだけではわからないSFC研究会の実情を、SFC CLIP編集部が実際に研究会へ赴いて調査する「CLIP流研究会シラバス」。前回と今回の2回続けて、清水唯一朗研究会を特集する。第6回の今回は「オーラル・ヒストリー」を取材した。

話すことによって、人間関係まで理解を 「オーラル・ヒストリー」


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 研究会のタイトルにもある「オーラル・ヒストリー」とは、話を聞くことで研究の糸口をつかみ、ひろげていく手法のことだ。
 研究会は、前半にテーマに基づいたディスカッション、後半にメンバーの研究発表というかたちで進められる。前半のディスカッションでは、指定された文献を題材に、清水一朗総合政策学部准教授が出したお題に対するメンバーの解釈から議論が行われる。
 ディスカッションの司会や意見交換の進行は基本的に学生が主体だ。このスタイルは、もう1つの研究会「日本政治外交研究(JPD)」と同様である。

学生が教員を動かして作った研究会


 清水准教授がSFCに着任したのは2007年。日本政治外交を扱う「近代史」と、「ライティング技法ワークショップ」を開講してきたが、2008年に「ライティング技法ワークショップ」にオーラル・ヒストリーを取り入れたところ、参加者から「ぜひ研究会にしてほしい」という声があがり、この研究会を立ち上げることになったという。

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インタビューにおける人間関係


 研究会は、全体の論点整理、論点ごとのグループディスカッション、グループ間の意見共有と全体ディスカッションというかたちで進められる。
この日の研究会は「インタビューにおける人間関係をどう作っていくか」であった。「話し手と聞き手の人間関係」「属性への対応の仕方」「インタビューする以外で相手を知るトレーニング」という3つの論点が挙げられた。

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 議論の内容は、インタビュー相手との関係を意図して作るか、自然に作るか、男性・女性といった社会的な属性をどれだけ踏まえるかといった点に及んだ。これらは研究手法としてではなくても、日常的にコミュニケーションを取る上でも考えさせられるものだった。
 清水准教授は、「研究会を立ち上げた当初は、オーラル・ヒストリーは、研究に使える『事実』を聞き出す方法だと考えていた。しかし、メンバーと議論を重ねるうちに、これは、人と人の関係を作る大きな意味を持つものだと思いなおすようになった」と語った。

オーラル・ヒストリーを軸に繋がる学生


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 個人研究の発表は、1人20-30分程度の時間で行う。研究発表では、自身の研究の概要や進捗を説明し、清水准教授や他のメンバーからのアドバイスが飛び交う。
 この研究会のなによりの特徴は、多用な研究分野の人が集まっているという点だろう。それはこの研究会が内容(コンテンツ)ではなく、手法(ツール)の研究会であることによる。どの学生もオーラル・ヒストリーという手法は用いるが、研究対象はそれぞれ全く異なるからだ。この日の個人研究発表でも、よりよい聴き方、宗教間対話、人の魅力の作り方、伝統と技の継承と、研究会の幅の広さが伺えた。

様々なバックボーンを持った学生がいることは面白い


 2年生の春学期から参加している山本峰華さん(総4)に研究会について話を聞いた。
 「私は高校時代にアナウンスをしていたので、伝えることにはそれなりに経験がありましたが、もう一方の聞く力をもっとつけたいと思って履修しました。『聞くこと』そのものに注目する人、他の研究会で研究していて手法として『聞くこと』が必要になった人など、メンバーの目的はさまざまです。でも、そうやって多様なバックボーンを持った学生がいることが面白いです」とこの研究会の持つダイバーシティの意味を語った。

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 清水准教授の指導について伺うと「講義のような指導はなく、議論が主体です。清水准教授は学生個人個人のことを本当に深く理解しているので、研究につまずいた時に必ず適格なアドバイスをくれますよ」と言った。
 学生同士の関係については「プライベートでも一緒というような関係ではありませんが、オーラル・ヒストリーは自分の考え方を伝え、相手の考え方を聞く研究会なので、ただ遊ぶような関係よりももっと深い人間関係が生まれていると感じます」と語った。

 手法(ツール)で繋がるこの研究会には、様々な研究をしている学生が揃う。ここにSFCが目指す学問領域の融合があるように感じた。
 「聞くこと」そして「話すこと」はとても日常的なことである一方で、人間的に深いテーマであり、その追求に向かう研究会のなかに、はかりしれない奥深さを見た。