16日(水)朝、10年に1度と言われる大型台風26号が、東京など関東地方の一部で猛威を振るった。この台風の影響により、SFCでは5限までの講義が休講となった。このような自然災害への対応について、災害科学が専門の大木聖子環境情報学部准教授に話を聞いた。


 大木准教授は、台風が関東に直撃する前日15日(火)の9:00には、2限の「社会安全政策(防災)」の休講を通知していた。大木准教授がいち早く判断をした理由と災害時の対処について聞いた。


命の前では全てドタキャンして良い


大木先生-1大木聖子環境情報学部准教授


–いち早く休講の決定をしたのは、やはり防災の専門家だからですか?


 そう思われる方も多いかもしれません。でも実際に私が休講を決断できたのは、コントロールできない自然現象を前にしたら全てをキャンセルして良いという価値観を持っているからだと思います。命の前では全てドタキャンしても良い。その価値観をスッと引き出せることが他の方と違う点で、決して知識の差ではありません。私は気象学については素人ですし、ニュースを見て台風の情報を得ているという点では、情報や知識の量は他の方と変わりないと思います。

–今回は、結果的にSFCの被害は大きくありませんでした。それでも、休講になりました。


 講義を実施しないという決定をして、実際には何事も起こらなかったとしても、休講という判断を責めるのではなく、何事もなくて良かったと捉えるべきです。たとえば講義ではなく、年に一度の行事だったとしたら、キャンセルの決断をするのはもっと難しくなるでしょう。それでも今回報道されていたような一定のリスクがあることがわかっているのであれば、キャンセルすべきというのが私の考えです。講義も年間行事も取り返せます。でも、命は取り返せません。研究会の学生には「自分の判断でオフ日にしてもいいような台風が来ているということがわかるかな?」と投げかけました。たとえ臆病だとまわりに言われたとしても、命を守るためにそういった行動をするほうがはるかに勇敢だと知っておいてほしい、と伝えました。災害では臆病が命を救います。

大木先生-2「災害では臆病が命を救います」と語る


–命を優先する価値観を持つためにはどうしたら良いでしょうか?


 あらかじめ決まっていたスケジュールにこだわらず、災害時はキャンセルして良いんだという価値観を少しずつ獲得していかなければいけません。私も最初から持ちあわせていたわけではないんです。取り返しのつく学校行事や日々のルーチンワークを優先した結果、取り返しの付かないことになった事例をいくつも見て悔しい思いをしてきました。その中で、だんだん獲得していきました。災害が発生しそうなときにスケジュールを取りやめるという決断を学校や教員が示していくことは、学生たちにこういった価値観を実践的に伝える機会となります。今回講義を休講にしたことは、私が講義で教える予定だった内容よりも、生きてく上ではずっと大事なことを教えるチャンスだったのです。SFCは先端的なキャンパスだからこそ、臆せずに判断を下して、学生にこのような意識や価値観を育んでもらえたら、と思います。

–特にSFC生として意識すべきことはありますか?


 SFC生は卒業しても、社会で特徴的な活躍をみせる人が多いと思います。だとしたらなおのこと、あらかじめ決められていたスケジュールにとらわれずに柔軟な判断ができる人になって欲しいです。例えば、就職してから、災害時に社長が休みにするかどうか悩んでいたら、当然のように「休もう!」と言えるような。そんな、災害多発の時代となる21世紀に対応した人になって欲しいと思います。

 災害による休講は、講義の有る無しという単純な決定ではない。休講は命を守るための措置であるということを今一度認識すべきではないだろうか。