先週行われたORF2013、Dエリア(社会イノベーション)では、新しい社会調査法を実際に体験することができる熊坂賢次研究会(以下熊坂研)「おしゃべりなロングテール」を取材した。

「おしゃべりなロングテール」とは

 熊坂研は、「面白そうな社会文化現象を、面白い社会調査方法で分析する」というテーマで研究を行っている。ネット上の自然言語解析や画像を用いた新しいタイプのアンケートを自主開発し、サブカルチャーなどあまり研究対象にならないような文化現象を分析している。
 過去の「おしゃべりなロングテール」では、デートに使う服装を分析した「恋服」や、アイドルのブログに書かれた記事コメントを分類した上でファンのクラスタリングを行う「ももいろクローバーGT」など、他にはないユニークな研究を発表し注目を集めた。

(無題)熊坂環境情報学部教授(左)と伊藤貴一さん(右)


 熊坂賢次環境情報学部教授のアイディアをもとに、分析ツールを開発してきた伊藤貴一さん(政・メ3)は「ネットを使った社会調査はたくさんあるが、大体は紙のアンケートをwebに載せただけのもの。そういう退屈なものではなく、今の時代に合った、もっと面白い社会調査をやりたい」と語る。
 「おしゃべりなロングテール」におけるロングテールとは、少数派の集まりの事を指す。「インターネットが普及する前は、普通の人々は”サイレント・マジョリティ”という言葉が示す通り、意見を発信する場が無かった。しかし、インターネットが広く普及し、スマートフォンなどのデバイスが一般化してきた今、人々はすごくおしゃべりになっている。一人の人間が複数のソーシャルメディアを使い、複数のコミュニティに所属し、様々な話題に関しておしゃべりをしている。これが、『おしゃべりなロングテール』の意味。そういうおしゃべりを集めてきて、解析すると今までは見えてこなかった社会像が見えてくる」と熊坂教授は解説した。


半沢直樹、平成史2.0、エロいフォント、見所はたくさん

 「おしゃべりなロングテール」の見どころは、研究結果を見るだけでなく、その場で調査に参加し、自分の結果と全体の結果を比べることができるという点にある。研究テーマも来場者の目を引くものばかりで、初日の22日、ブースは大にぎわいだった。
 特に人を集めたのは、ドラマ「半沢直樹」の公式ツイッターのフォロワーをクラスタリングし、各登場人物がどの層に人気なのかを調べた「半沢の呟き」。そして、様々なフォントでいやらしい言葉を表示し、どのフォントが扇情的かを調査する「フォントはエロい」だ。実際に体験した来場者は、その奇抜な研究テーマに驚いていた。
 「フォントはエロい」の結果について、「女性は太くしっかりしたフォントをエロく感じるのに対し、男は、細くやわらかいフォントに興奮することがわかった。少々意外な結果だった。ちなみに、僕は女性の感性に近いという結果だった」と熊坂教授は語った。
 また、自分の平成観を知ることができる「平成史2.0」という展示も行われた。これは、「社会構造分析」の授業と連携したもので、授業内で作成した「自分の平成を語る上で重要なアイテム」を使って、アイテムの「平成らしさ」を評価するというもの。どのアイテムを評価するかによって、その人の平成観がわかる。まだまだ、調査人数が足りないそうなので、熊坂研の社会調査サイト「GoocaBooca」にアクセスして自分の平成観をチェックしてみよう。


データから見る宮崎駿の終着点

(無題)説明を行う吉田晋理さん


 熊坂教授が「一番キレイなデータが取れた」と推すのが、吉田晋理さん(総4)が発表した「ジブリのターミナル」だ。「宮崎駿の終着点(ターミナル)である、映画『風立ちぬ』がどうして賛否両論に別れるのかを知る事が最初の目的でした。しかし、ジブリに関するデータを解析しているうちに、宮崎駿作品の変遷が見えてきました」と吉田さんは語る。吉田さんはまずmixiの宮崎駿監督作品のファンコミュニティ分析を行い、各作品がどのような層に受け入れられたのかを分析。縦の軸として「ジブリ好き/サブカルチャー雑食」、横の軸として「ファンタジー/リアル」をとった四象限を作成し、その中に各作品を位置づけた。
 「時代毎に変遷を追うと、一本の線が見えてきます。最初にファンタジー、サブカル雑食に好まれる作品を作り、それから、リアル、ジブリ好き路線に伸びていき、中期になるとファンタジー、ジブリ好きに評価される作品をつくります。「千と千尋の神隠し」の頃ですね。後期になると、ジブリ好きが望んでいるような作品ではなく、サブカル雑食が好きな作品を作るようになる。そして、それが顕著なのが「風立ちぬ」であり、この作品は右下隅に位置づけられます。こういう極端な作品なので、賛否が別れるわけです」と吉田さんはグラフを説明してくれた。
 宮崎駿作品への批評は多いが、このようにデータの分析から作品を解読する試みは珍しい。とても興味深い発表だった。

(無題)盛況の熊坂研ブース


 熊坂教授は「単なる研究発表だけではつまらないからね。来た人に『変な研究やってる!』って驚いてもらって、そして、参加して楽しんでもらう。それが、重要だと思う」と強調する。ブースに来た人たちの様子を見ると、みな奇抜なテーマの発表を多いに楽しんでいた。熊坂教授の狙いは大成功だったようだ。