シラバスだけではわからない研究会の実情を、SFC CLIP編集部が実際に研究会に赴いて調査する「CLIP流研究会シラバス」。第15回は、本物の「考える」力を養う、堀茂樹研究会(以下、堀研)を取材した。

思考の土台を培う輪読

 堀研では、研究会全体で人文思想についての古典的文献の輪読を行っている。研究会の前半では、各学生が自分に割り当てられた箇所の要約と考察を発表した後、複数人でグループを作り、内容について議論を行う。文献を丁寧にたどり、著者の思考の足跡をなぞっていく形だ。

堀研1輪読の様子


 研究会で扱う文献は西洋哲学の古典書が多いが、これにはいくつかの狙いがある。
 まず、西洋哲学の文献とその著者は、現代日本の我々にとって遠い存在だ。そんな西洋哲学の文献を読むことは、遠い存在である「他者」の思考を理解する良い訓練となる。
 「自分と似た近い思考を持つ人の主張ばかりでなく、遠く離れた『他者』の思考を理解する訓練こそ、若い頃に行うべき」と堀教授は語る。

堀研6堀茂樹総合政策学部教授


 また、「考える」という行為は、実は簡単にできるものではない、とも堀教授は言う。「よく考えた人」である哲学者の思考をたどり、理解しようとすることは、「考える」こと自体の訓練にもなるわけだ。
 ただ文献の内容を知る為に読んでいるのではなく、思考の土台となる部分を広げ鍛えることを、堀研の輪読では目指している。

堀研4輪読の後、内容について議論を行う


 研究会の後半には、個人研究の進捗の報告が行われる。その内容はさまざまで、輪読した文献にとらわれることなく自由に研究を行っている。

堀研2取材に答えてくれた中野愛理さん


 堀研を履修している学生は、どんな思いで参加しているのだろうか。中野愛理さん(総4)は、「もともと宗教学に興味があったのですが、宗教が成り立つために必要な根本的な要素として、哲学があると思うんです。そこから哲学に興味を持ち、この研究会を選びました」と話す。
 また、鈴木邦裕さん(環2)は、堀研の印象について「議論をする時は白熱するけど、先生も含めてみんな優しい研究会です」と語った。

来期からの活動については検討中

 堀教授は、研究会の来期からの活動について、未だ検討中の部分がありつつも、いくつか考えている計画があるという。
 まず、来期より新しく来る若手の先生と合同で、「応用哲学」に取り組むこと。応用哲学とは、過去の哲学者や哲学史について研究・注釈を行うのではなく、現代の問題に哲学的にアプローチする学問だ。他にも、名作の文庫本を百冊読み、ディスカッションをしていく「百読」という試みも考えているそうだ。

堀研5


 堀教授は、「古い文献を丁寧に読んでいくことは、一見面倒に見えるかもしれないが、その内容を理解しようとする中で考える力がつく。そして、その為に時間を使えることは、とても贅沢なこと」と語った。
 SFCは「問題発見・問題解決」型の教育を掲げている。その中で、そもそも何を「問題」とし、何を「解決」とするのかを、考える力を養えるのが堀研なのだと感じた。