SFCの外で活動する人の姿を伝えることで「SFCらしさ」を再発見し、激変する社会におけるSFCの役割を見出す「復刻! CLIP Agora」。第4回は、株式会社GATE(Gifted and Talented Education)、株式会社Wicrep代表取締役である諸澤正樹さん(環4)にインタビューした。

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 諸澤さんは、高校時代、数理科学の研究に没頭していた。数理科学とは、数学の知識を活かして社会問題の解決を図る学問だ。2009年、当時世間を震撼させた新型インフルエンザの感染拡大シミュレーションの研究に取り組み、国内で数々の賞を受賞するなど大きな評価を受けた。その後、アメリカのスタンフォード大学での短期研修などを経験し、世界最高峰の研究環境を肌で感じた。

 大学進学に際し、同級生が理数系大学への進学を目指す中、諸澤さんは彼らとは違うSFCを選択した。SFCであらゆる学問領域に触れ、研究者の道からビジネスという起業家の道へと進路の変更をした。

 最近では、ビジネススクールとビジネスコンテストを融合させた学生起業家輩出プログラムKBB(K-POWERS BUSINESS BRAIN)で審査委員最優秀賞と学生審査最優秀賞の史上初2冠受賞。また、株式会社Wicrepを立ち上げたことで、2013年度SFC STUDENT AWARDを受賞した。ITビジネスに強い関心を持ち、現在2社の会社を経営している。


Morosawa_award2013年度SFC STUDENT AWARD授賞式の様子(提供: NECO Lab.)


「敷かれたレールの上を進みたくない」という思いでSFCへ

— なぜ諸澤さんはSFCへ進学したのですか?

 そのまま理数系大学へ進学して研究者になるという「敷かれたレール」の上を進むのは嫌だなと思ったからです。高校1年生の頃は理数系の大学に進学しようと漠然と思っていました。でも、高校時代に研究にどっぷり漬かっている最中、ふと周りを見たとき、自分が数理科学以外の領域を全然知らないということに気づいたのです。
 当時は、今やっているビジネスやマーケティング、法律のことを一切知りませんでした。SFCに行けば、未知の領域を知ることで自分の世界を広げられる、そしてこのまま数理科学系の研究室に行くだけじゃ満足できないだろうと思い、SFCへの進学を決めました。

— 入学後はどのようなSFC生活でしたか?

 驚きの連続でしたね。SFCには、あらゆる分野で活躍している学生がいます。デザインをやっている人、ITをやっている人、ビジネスをやっている人、そういう人との出会いは、とても新鮮で、刺激的で、そして衝撃的でした。魅力的に感じる先輩にもたくさん知り合うことができました。

— 研究会はどこに所属していますか?

 村井純研究室「インターネットと社会」NECO Lab.の代表を昨年の秋学期から務めています。印南一路研究会のサイバービジネスグループにも所属しています。

「起業は手段にすぎない」教育・ITの2社を経営

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— 会社を2社も経営されていると聞きました。

 教育事業として株式会社GATEを、IT事業として株式会社Wicrepを経営しています。

— 教育事業ですか。

 GATEでは、中高生を対象に東京大学理科Ⅲ類・医学部の学生によるトップレベルの教育を展開しています。もともと、私には既存の教育に対して問題意識がありました。高校時代、海外の最高峰の研究環境を経験し、私は研究者として幸せだなと感じました。しかし、現行の学校教育や塾・予備校では、中高生が世界を見ることはできません。そういった狭く限られた環境に満足していない子たちに最高峰の教育を届けてあげたいというのが私の強い思いです。

— 起業を考えたのはいつ頃からですか?

 最初からビジネスをやりたかったわけではありません。1年生ときのORFの帰りに同級生とSFCでやりたいことについて話が弾み、そこから起業を考え始めたのがきっかけです。そこで実際にやってみようということになり、SFC-IV(慶應藤沢イノベーションビレッジ)のインキュベーションマネージャーさんにゼロから教わり、そしてGATEを設立するに至りました。
 起業は自分のアイデアを実現し、世の中に価値を提供するための手段でしかないと考えています。SFC入学時点の自分からすると、まさか起業して会社を経営しているとは想像できないでしょう。 

— もう1社のWicrepはIT事業ですが、どうしてITなのですか?

 インターネットの全世界に広がる特性に惹かれたからです。ひとつのWebサービスが国境に関係なく何千万人、何億人という人の手にとってもらえるという事実には、大きな可能性を感じています。教育事業の方は首都圏の中高生という狭い範囲にターゲットを絞っています。ですから、その有限性に対して真逆にあるITの無限性というところに惹かれたのです。

日本初、手数料ゼロのクラウドファンディングサービスに社運をかける

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— いま力を入れていることは何ですか?

 4月13日、Wicrepからリリースした日本初、手数料ゼロのクラウドファンディングサービス「moonshot」です。不特定多数の人から資金を調達するという新興ビジネスです。世界銀行のレポートによると2013年には世界で約5000億円の調達額規模があり、2025年には9兆円規模に成長すると言われています。

— なぜクラウドファンディングへの参入を考えたのですか?

 クラウドファンディング市場に一石を投じたいという自分の思いからです。私はまずクラウドファンディングが素晴らしい仕組みだと考えています。そして、その素晴らしさをより多くの人に知ってもらいたい、日本さらには世界のクラウドファンディング市場をもっと活性化したいと思っています。
 世界の5000億円の総調達額に対して、日本はその2%の100億円程度です。利用者もまだまだ少なく、新しい文化としてこれから伸びていくと確信しています。
 また、自分たちのサービスから、社会に良い影響を与える壮大な挑戦が増えてほしいという願いもあります。世の中を変えるような製品を出したりアイデアを実現したりするには、資金面が難点になることが多いので、そのお金の問題を取り払いたいのです。
 moonshotは、支援者にここでしか得られないモノやサービスをリターンとして届ける購入型のクラウドファンディングです。プロジェクトリーダーと支援者の強い関係性を生み出すことにも期待しています。

— 手数料ゼロを目指したのはなぜですか?

 日本における既存のクラウドファンディングサービスは、支援が成立した際に支援額の10-20%を手数料として徴収します。例えば、100万円の目標金額を設定して、結果的に120万円の資金調達に成功したとします。すると、その内の20%が手数料として徴収され、手元には96万円が残ります。私はその手数料24万円を疑問に感じるのです。そこで、支援額をしっかりとプロジェクトリーダーへ届けたいという強い思いから、手数料ゼロでの参入を決めました。

— 手数料を取らないとビジネスにならないのでは?

 確かに、手数料ゼロというのは、既存のビジネスモデルで考えるとダメなのかもしれません。支援額が圧倒的に大きい北米市場では手数料5-10%で成り立っていますが、現在の日本の小さい市場の中で運営していくためには、10-20%の手数料は必要というのが一般的な考えです。
 

— では、どこで利益を出すのですか?

 もっと市場を拡大して多くの利用者を巻き込んだ先のところで利益を上げることができるようにビジネスモデルを一新します。

「やるかやらないか」SFCは選択のキャンパス

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— 諸澤さんのSFC観を聞いていきましょう。SFCはどういうところですか?

 良くも悪くも自由です。広く学ぶことができる分、深く学べるかどうかは、本当に自分次第だなと感じます。例えば、目的がないままになんとなくで授業を取っていたりすると、4年間でこれといったものは何も身につかないのではないでしょうか。
 自分の分野を突き詰める意味で、SFCの良さがあります。ですが、分かれ道がたくさんあるがために選択するのが困難でもあるのです。だから、今まで高校で時間割が全部決められていた人たちから見ると、SFCの自由は一見魅力的に感じるものの、実際は学び得るものが広く浅くなってしまうのではないかと懸念しています。

— やりたいことがない人はどうすれば良いでしょうか?

 いろんなことに挑戦するしかないと思います。私自身、今やっているビジネスやITは、シンプルに面白そうだなという好奇心の気持ちで飛び込んだに過ぎません。そこで、思わぬ出会いや発見という世界の広がりがあって、自分が心からやりたいことに気づくことができました。
 良い経験をするには、選択することがとても大切です。その点では、SFCは選択する場面がたくさんあります。興味があるけど大変そうな授業を取るか取らないかだったら、取る。研究会に入るか入らないかだったら、入る。あらゆる選択で前向きな決断をし、挑戦をしていきましょう。

夢は世界一の起業家「自分のアイデアを世の中に届けたい」

— 諸澤さんの今後の展望を聞かせてください。

 史上最年少上場を目指します。もちろん、これは目的でも夢でもありません。ひとつの通過地点としての目標です。
 大きい夢は、世界一の起業家になることです。目立ちたいわけではなく、自分で考えることが好きで、やりたいことは山のようにあります。そういったアイデアを実現して世の中に届けていきたいのです。

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 諸澤さんは、No. 1にこだわり、常に世界を見て上を目指しています。小さい頃から負けず嫌いな性格で「成功体験がそれ以上の成功、つまり世界一を求めるようになる」とも話していました。諸澤さんの世界を変える新しい挑戦が楽しみです。

 SFC CLIP編集部では、SFCの外で活動するSFC生や卒業生、あるいはSFCについてもの申したい方を募集しています。「そういう人を知っているよ!」「我こそは!」という方、ぜひ教えてください!