新入生を対象に、グループでメディアアート作品・インタラクティブ作品の企画・制作・展示を行うワークショップを行っているArt&Technology(以下A&T)。このA&Tが毎年出展しているコンテスト、アート&テクノロジー東北が今年も6月28日に行われた。


 今回はそのアート&テクノロジー東北2014において、作品「だだもれ」で最優秀賞を受賞したV!CESの小林颯さん(環1) 、田岡菜さん(総1)、浅野嶺さん(総1) 、若杉亮介さん(総1)の4人に話を聞いた。

 A&Tの話題から、「だだもれ」のコンセプト、そしてものづくりの現状へと話は広がりをみせ、収録現場は思わぬ盛り上がりを見せた。

AT4AT5
「だだもれ」、ホースを体に当てて蛇口をひねると、水面に感情を表す漢字が映し出される

V!CESができるまで


—V!CESの結成から、「だだもれ」製作に至までの経緯を教えてください。


若杉:
 A&Tのチーム分けはランダムに、時間割の日程が会う人同士で決まるんです。そうしてチーム分けした後、4月から1ヶ月間アイデア出しを行い、そして5月下旬から大会の前日まで製作を行いました。
田岡:
 チームは全員1年生ということもあり、分からないことがたくさんありました。A&Tでは2年生以上の方がメンターとしてサポートしてくださるので、アイデアや実装のための機材等について先輩によく相談しましたね。それぞれ分野ごとに強い先輩がいて、Facebookで深夜2時に先輩に相談しても4時には返ってくるんです。A&Tはすごく縦のつながりも強いと思います。
浅野:
 V!CES内での主な役割分担としては、小林がプログラミング、田岡が美術・外装、浅野と若杉が回路やセンサー等の機材という分担でしたね。

AT1浅野さん(左)、若杉さん(右)


「だだもれ」とは


—「だだもれ」のコンセプトはどういうものですか。


若杉:
 物事の本質を抽出するおもしろさを表現したかったんです。蛇口ってひねると絞りだされる感覚があるじゃないですか。水道管の中につまっている、せき止められているものが、バーっと出てくる。その様子が普段せき止められている心というものと繋がるんじゃないかというところから「だだもれ」のアイデアが生まれました。

—私も七夕祭のT-ableで「だだもれ」を体験したのですが、なにかテクノロジーが発達すると人間の非言語的なものが可視化できるという話がありますよね。まさにそういうものだなと思いました。


浅野:
 そういう解釈もいいと思います。アートは感じる側の解釈も大切なので。
東北の大会以後も、「だだもれ」は先日行われた七夕祭出展に続き、10月の秋祭、11月のORFでも出展予定です、その間にも改良を重ねていきます。
小林:
 いまの段階だと、蛇口をひねって、ランダムで感情を表す漢字が出てくるだけなんですよ。ランダムに出てくるということは、脳内メーカー等と同じで、体験者と全く関わってこなかった機械から一方的に情報が与えられるわけです。そこがおもしろい。ただ、それを何らかの形で関係づけたいという話をしています。例えば、身体の一部分を検出して、お腹から欲がでる、手から怒りがでる、みたいな形で特定の身体部分に合わせて、特定の漢字がでてくるというような発展性もありえるんじゃないかと思っています。

— 人のことを全く知らない機械が、自分に対してランダムに何かしらの反応を返してくることがおもしろいということですか。人の感情が正確に計れれば良いってものでもないんですね。


若杉:
 体験者の人にそれぞれの反応を、ストーリーづけをしてもらうんです。
田岡:
 体験していだだいた人の中でも、例えば、「疲」って漢字が出たら、
「当たってる~」と喜んでくれる方もいました(笑)。出てくる漢字は現状ではランダムなんですけど、それでも共感してもらえることがあるんです。
浅野:
 そう。でもそれがあまりにランダムすぎるとちょっとおもしろくなくなってきちゃうんで、そこをこれから寄せて、関係づけていく感じですね。

どうしてアートを作っているのか


—みなさんがA&Tに入ってアートを製作されている動機はどのようなものですか。


浅野:
 僕は作ってるなかで自分のスキルがつけば良いと思っていました。もともと、ものづくりは好きなんですけど、それとはまた別に、A&Tが1年生向けのワークショップということもあって、それを通していろんなスキルを身につけたいと思ってA&Tに入りました。
若杉:
 1年生の内にいろんなことやろうと思っていて、政策だったり、ものづくりだったり、自分の興味のあることには積極的にチャレンジして自分がどこまで出来るのかを試してみたくてA&T入りましたね。
田岡:
 私は高校のころからものづくりだったり、美術系のことをやっていて、もともと美大に行こうと思ってたんです。けれど、小論文を勉強していたら小論文が楽しくなってしまって、美大に入ったらこういうことはできないんだなと考えたんです。それで、SFCのものづくりや美術系についてひたすら調べてA&Tを見つけて、「これだ!」と思いました。
小林:
 僕は中学2年のときに、SFCの筧康明環境情報学部准教授の作品をICCというメディアアートの美術館で体験したんです。それに触れて,メディアアートが未来を作ると直感したんです。そのときからSFCに興味を持ちました。その作品を体験したとき、なにか魔法にかけられているような感じがしたんです。もちろん裏ではプログラミングやセンサー等の複雑な技術があるのだけど、僕もそんな魔法みたいなものを作りたいなと思ってこの道に進んでますね。
 なんで僕がアートをやっているかというと、自分の想像を伝えられる手段だったからです。小学校6年生ぐらいの頃から映像を作っているんですけど、それは自分がひっこみ思案で、シャイだったからなんですよ。でも、映像なら突拍子もないことができる。映像にして表現すれば理解してもらえるということが分かって。引っ込み思案なりに、自分の想像の表現の手段がアートだと思うようになりました

メディアアートとは


—そもそもメディアアートとはどのようなものなのでしょうか


小林:
 簡単に言うと、メディアアートは外界の情報を取得してそれが反映される芸術表現のことですね。例えば、匂いや身体の動き、音、等の世界の情報を取り入れて、作品の形が変わってくもの、芸術作品以外の要素に影響されて変化する芸術作品のことですね。

—映像の中だけではなく、実際に現実世界に作用できるのが良いと。


小林:
 はい。しかし、僕はただ体験して楽しいというものではなく、それ以上の感動だったり、その人の価値観を変えてしまうようなものを作りたいです。残念ながら、現在のメディアアートの作品でそのような強烈なメッセージを伝えるという主旨のものは少ないように感じます、
 僕はもともと映像を作っていたので、映像における要素を組み合わせたメディアアートをこれから作っていきたいですね。

AT2田岡さん(左)、小林さん(右)


大学1年生でも作れるメディアアート


—情報技術の発展によって、あらゆるものが双方向性を持つようになり、身の回りにメディアアートっぽいものがどんどん増えてきたように思います。


小林:
 そのようにますます世の中がインタラクティブになっていくというのは受け入れなきゃいけないことだと思っています。例えば、アート系のコンテストの内容等にも流行があるもので、それを受け入れなきゃいけないように。
浅野:
 この文脈でおもしろいのは、大学1年生でメディアアートとかを創れるようになったということですね。それ自体は良いことなんじゃないかな。
小林:
 例えば、プログラミングはコピペ(コピー&ペースト)ができるわけじゃないですか。それに比べてアニメは手書きとかなら消せない、再現性がないわけです。そのことによって、その人の味がでる。一方、僕にとってプログラミングはすごい無機質で、0と1の1bitでできているただのコードじゃないですか。それを書き続けるだけ。それでどうやって個性とか作家性を出せるのかと疑問に思うんです。大学1年生がメディアアートを作れるようになったというのは良い反面、作ることが出来るようになった事自体に危機感も抱かなきゃいけないと思っていて、そうゆうふうに誰にでも作れるようになったからこそ、何を伝えたいかに主眼を置いてものづくりをしなきゃいけないと思います。
浅野:
 簡単に作れるというテクノロジーが出てきたことによって、制作物が画一化されていくことには危機感をもったほうがいいかもしれませんね。

—最後に何か読者に伝えたいことはありますか。


若杉:
 A&Tは今後も有志によるMMM(みなとメディアミュージアム)の出展や、秋祭、ORFへの出展もあるので良かったらチェックして下さい。
田岡:
 A&Tの人達はみんなほんとにいい人です。特にV!CESはみんないい人達(笑)。

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 収録直後、「A&Tの人達はみんなほんとにいい人達なんです」と連呼していた田岡さん。その通りインタビューさせていただいた短い時間でもV!CESの仲の良さがひしひしと伝わってきて、すっかり取材班は全員V!CESのファンになってしまった。今後のV!CESとA&Tの活躍に期待だ!
 また、A&Tに入るには入学式より前に申請しないといけないとのこと。興味がある受験生は公式サイトをチェックする等、早め早めの行動を心がけたい。