メディアセンター1階のFabスペースに並ぶ3Dプリンタやデジタル刺繍ミシンなどFab機器に実際に触れ、ものづくりの楽しさを発信する「Fabってあそぼ!」。今回はインタビュー編をお送りする。語り手は、Fabスペース開設に尽力した一人、水野大二郎環境情報学部専任講師。その前編として、開設のきっかけや狙い、込められた想いを語っていただいた。

水野大二郎講師。カメラを向けると一眼レフカメラで応じられた水野大二郎講師。カメラを向けると一眼レフカメラで応じられた。

メディアセンターは”メディア”を拡張させる場

SFCのメディアセンターは図書館という名前がついていないですよね。メディアセンターは、図書館機能だけではなく、かなり広義のメディアを対象にした教育施設です。なので、書籍以外にも、DVDや映像・音楽編集機材などの映像メディアや音楽メディアは以前から入っています。そんな場所にFabスペースができるというのは至極自然な流れだと思っています。

 例えば、2Dプリンタも3Dプリンタも、データを作成した後は両方とも最終的にすることは「出力」、つまりPCのメニューから「プリント」を選択することです。つまり、2Dも3Dも出力するメディアとしては等価の存在ですよね。作成したデータをなんらかの形で出力をするという発想は一緒ですよね。そうやって僕たちの身の回りにあるメディアが拡張しているという現実があるわけです。それを実際に体験してもらおう、教育に役立ててもらおうということがFabスペースの理念だと思っています。


 そんなわけで、2013年4月、3Dプリンタ「CUBE」(3D Systems社)が導入されました。そして学生が使っていく中で、デジタルファブリケーションはおもしろいぞということが認知され始めました。デジタルファブリケーション(以下、デジファブ)というのは、コンピュータを用いてデジタルデータを作成し、コンピュータ制御の工作機械によって出力をする、ものづくりの在り方のことです。



3Dプリンタだけがデジファブじゃない―多様なものづくり体験を学生へ

ちょうどその頃、2013年8月、田中浩也環境情報学部准教授と筧康明環境情報学部准教授と一緒に、第9回世界ファブラボ代表者会議を開催しました。その中で非常に示唆的だったのは、3Dプリンタに代表されているのがデジファブだけれども、3Dプリンタのように溶かした樹脂を積んでいく積層型のタイプだけがデジファブではないということでした。そこで、メディアセンターでも3Dプリンタに限らずいろんな機器を導入して、広くデジファブを理解してもらいたいと思うようになったんです。



 また、デジタルファブリケーションと同時に、パーソナルファブリケーションという言葉があります。この言葉が指すような、個人的なニーズに即してコンピュータ上でデータを作成し、廉価な工作機械を用いるものづくりの在り方は、プロとしてだけではなくアマチュアとして物を作って楽しむという意味合いもあるはずです。そこで、フィジカルコンピューティングやデザインに興味がある学生だけではなく、いろんな形で学生に体験してもらうような状況を作ったらいいんじゃないかという話になったのです。2014年のはじめに村井純環境情報学部長とお話をし、メディアセンターの皆さんとともに準備をして、2014年5月に現在のFabスペースをオープンさせました。



Fabスペースに刻まれたメッセージ

ガラス張りのFabスペースを外から見るとメッセージが書かれていることにお気づきになるかと思いますが、あれは僕が村井先生と田中先生とやりとりをしながら決めていきました。



「FAB IS FOR EVERYONE」から「メディアはメッセージである」まで

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 一番左に大きくFAB IS FOR EVERYONEってありますよね。当初そこに、The medium is THE Messageをのせようとしていました。これはマーシャル・マクルーハン(カナダの英文学者、文明批評家・1911-1980年)の「メディアはメッセージである」という有名な言葉です。Fab含めて「すべてのメディアはメッセージである」ということを主張しようと思ったのですが、マクルーハンという存在自体をSFCの学生が知らないという問題がありました。

 そのことを村井先生に相談したところ、今のFabを取り巻く状況というのは、かつての村井先生が体験したインターネットの黎明期にすごく似ているという話になりました。みんなに広めるには、格言ではなくてど真ん中ストレートで誰にでもわかるような言葉にする方が伝わるのではないかということになり、Internet for Everyoneという言葉が生まれた、と聞いたんです。そこで、Internet for Everyone並みに分かる言葉にしたらいいんじゃないかということで、Fab is for Everyoneという言葉を一番大きく載せるようにしたんですよ。

ダウンじゃなくてアップを―学び合う・作り合う・共有し合う

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 右から2番目のLEARN, MAKE, SHAREというのは、赤・青・緑でできているFabLab(ファブラボ)のロゴと関係があります。それぞれの色にlearnとmakeとshareという意味合いを込めています。インターネットを介して誰でも物を作れるFab環境の中で、みんなで学んで(learn)、みんなで作って(make)、それを共有して(share)、学びに役立てようという循環を象徴しています。


 それから右から3番目のUPLOAD (ALMOST) ANYTHINGっていうのは、almostが括弧の中に入っているのですが、これはFabLabの創始者であるニール・ガーシェンフェルド教授がマサチューセッツ工科大学で開講している、「How to Make (Almost) Anything」(ほぼ何でも作る方法)という授業名から取りました。Upload (Almost) Anythingにはlearn, make, shareと繋がるところがあります。みんながダウンロードしているだけだったら意味がなくて、結局誰かが作ったものをただ受動的に使うだけでは一般的な消費者とあまり変わらない。ダウンじゃなくてアップをするということをもう少し検討してもいいんじゃないかということから、その言葉を掲げようという話になりました。


 そんな感じで、Fab is for Everyoneというわかりやすいキーワードと、みんなでアップロードしていこうという言葉と、learn, make, shareというFabLabの精神、それからマーシャル・マクルーハンの「メディアはメッセージである」という言葉がここに刻まれているというわけです。


Fabスペースへの反響

デジタル刺繍ミシンに見える多様性―成果を見せ合うレベルの高い環境を

個人的なところでいうと、デジタル刺繍ミシンがどういうふうに使われるのかということに非常に興味があったんです。蓋をあけてみると、非常に多様な学生がいろんな時間帯でデジタル刺繍ミシンを使っているということがわかり、興味深いです。デジタル刺繍ミシンでは、単に生地に模様を刺繍するアパレル的なものだけではなく、導電性の糸を使って生地の上に電子基板やセンサーを作るなど、メディアアート作品を作ることだって可能なわけです。そうやって出てくる成果物をみんなに見てもらえる環境ができたらいいかなと思います。


 デジタル刺繍ミシンの話に限らず、高いレベルで実装された成果というのがもっと広く社会に認知されていく環境が生まれるとおもしろいと思います。Fabスペースのマシンを使ってみる授業はいくつかありますが、授業のレベルというのは所詮まだ体験するだけのものです。そこからステップアップして、もうちょっと高いレベルでモノを作ってみたいなと思っている学生たちが研究から実装までやってみるとおもしろい。そういう学生が出てくるためには、授業や研究会の一環として体験するレベル以上の、当事者性の強いプロジェクトやワークショップなどが生まれる必要があるのではないかと考えています。




 前編、いかがでしたでしょうか。Fabスペースに刻まれたlearn, make, shareというFabLabの理念は、ものづくりへの姿勢だけではなく、そのままSFC生のあるべき姿を示しているように思えます。


 水野大二郎専任講師インタビュー後編では、「Fab」というメディアのこれからの可能性や、Fabスペースの最新情報についてお届けします。お楽しみに!