ORF2016の1日目である18日(金)、プレミアムセッション「みんなでつくろう豊かな高齢社会」が行われた。日本では高齢化や人口減少が深刻な問題になっている。今回のセッションでは、幸せで生きがいのある生き方はどうすれば達成できるのか、実践家から地域住民、行政までの幅広い視点から意見交換がなされ、一人一人の居場所を考えることが、より豊かな高齢社会につながるとの議論がされた。

■パネリスト

  • 加藤忠相 株式会社あおいケア 代表取締役社長
  • 秋山正子 株式会社ケアーズ 代表取締役 白十字訪問看護ステーション 統括所長
  • 小泉圭司 元気スタンド・ぷリズム合同会社代表社員
  • 能勢佳子 鹿児島県肝属郡肝付町役場福祉課参事、肝付町地域包括支援センター 主任介護支援専門員兼保健師

パネリストの面々(左から加藤氏、秋山氏、小泉氏、能勢氏) パネリストの面々(左から加藤氏、秋山氏、小泉氏、能勢氏)

■コーディネーター

  • 太田喜久子 看護医療学部教授

コーディネーターを務めた太田教授 コーディネーターを務めた太田教授

「一人称」で考えた介護の必要性

「今のデイサービスが行っていることは、老人のケアではなく支配や管理である」と語る加藤氏は、実際に介護の現場で働いた際に芽生えた問題意識に基づいて「株式会社あおいケア」を起業した。

認知症を患っても、"快・不快"の感覚は残っている。今のデイサービスのように机と椅子が整然と並んでいるだけの環境でじっとしていなければならないのは、高齢者にとって"不快"である。私たち自身がそのような場所で長時間じっとしていることに耐えられるだろうか。今の高齢者支援では、一人称で介護の場所や環境を考えられていない。より居心地の良い"快適な"環境をつくることが大切なのだ。

また、あおいケアが支えるのは高齢者だけではない。ひきこもりや、うつ病の若者の就労の場にもなっている。認知症、自閉症、うつ病を抱える人々は、社会全体からみればマイノリティーだ。しかし、マイノリティーであっても、集まり協力し合うことでマジョリティーとなり、居心地の良い空間をつくることは可能であるという。あおいケアではそれが実際に証明されていると加藤氏は語る。

予防から看取りまで 最期まで暮らし続けることができる地域をつくる

質問に答える秋山氏 質問に答える秋山氏

新宿のマザーテレサと呼ばれている秋山氏。2001年に有限会社ケアーズを設立し、現在に至るまで、「最期まで暮らし続けることができる地域」をつくることを目指して新宿区を中心に活動を続けてきた。新宿区のように病院が多いところでは、病気になってから病院に行くのが当たり前になっている。しかし、秋山氏は訪問介護を通じて地域全体で病気の予防に取り組むことが重要だと考える。訪問介護が充実することで、自分が暮らす地域で最期を迎えることができるようになるからだ。

秋山氏が行っている活動の中には「暮らしの保健室」というものもある。生活の中でなにか不安があるとき、相談できる場所としての居場所を提供するのだ。他人とも家族とも違う距離感で話をすることで、相談者の精神的負担の軽減に役立てる。他にもがん患者の支援を行うなど、高齢者の生活の支援だけでなく、社会的弱者や悩みを抱えた人々に寄り添った幅広い活動を行っている。

「今日は何をしようかな、と思える環境づくりが重要」

「地域に居場所がない」。定年退職して職場というコミュニティーを失った後、人々の居場所はどこにあるのだろうか。この問題意識をもとに、小泉氏は高齢者にとっての居場所をつくり始めた。大事にしているのは、多種多様な居場所をつくることだ。例えば、「元気スタンド・ぷリズム」というコミュニケーション喫茶を設けたり、出張サロンを開くなど、一人一人が自分の気分に合わせて行きたいところに行けるような選択肢をつくっている。自遊空間「元気スタンド・ぷレイス」の設立も計画中だ。

また、ただ単に居場所をつくるだけでは不十分だと考えている。居場所があることを知ってもらうために無料のパンフレットを作成して配布したり、セニアカーという高齢者向けの移動手段を提供するなど、高齢者のニーズに合わせて実際に地域を訪れてもらうための工夫をしている。

「自分自身で、無理のない範囲で居場所をつくっていくことが大切」 能勢佳子

プレゼンをする能勢氏 プレゼンをする能勢氏

鹿児島県肝付町の役場で働いている能勢氏は、行政の立場から高齢社会を捉えている。人口の高齢化が著しい肝付町は日本の50年後の姿を示すとも言われる。つまり、その肝付町で高齢者の支援策を考えることは、未来の日本における高齢者の支援策を考えることにつながるというわけだ。

能勢氏が重視しているのは一人一人の"ベースキャンプ(居場所)"。活躍の場が生きがいにつながると考えている。肝付町のあるおじいさんは、得意な家電の修理を任されるようになることで活躍の場を得て、生き生きと過ごせるようになったそうだ。ベースキャンプは支援する側が一方的にサービスを提供しても意味がないという。高齢者自身が自主的に無理のない範囲で居場所をつくれるようにすることを大切にしているそうだ。

あなたの居場所は?

パネリストの4人の主張に共通していたのは、一人ひとりにとって心地よい居場所をつくることの重要性である。セッションでは、高齢者から学生まで幅広い年齢層がパネリストの話に耳を傾けた。今の私たちの居場所はどこで、これからの居場所はどこにあるのだろうか。高齢社会においての課題は、高齢者だけの問題ではない。より豊かな高齢社会のために自分たちにできることは何か、一人一人が考えることが大切なのではないだろうか。

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