ORF2017初日の11月22日(水)、「私たちがデザインする大学 ~教員も学生も、キャンパスから学びまで~」と題して、SBC(Student Build Campus)プロジェクトについてのセッションが行われた。学生によるSBCのこれまでの歩みのプレゼンテーションの後、学生、両学部長を含む教員、そして観客をも巻き込んで、これからのSBCのビジョンが議論された。

壇上ではなく観客と同じ高さで議論を行った 壇上ではなく観客と同じ高さで議論を行った

パネリスト

  • 松岡大雅 環境情報学部3年
  • 林睦 総合政策学部1年
  • 佐藤まい 環境情報学部3年
  • 黒田裕樹 環境情報学部 准教授
  • 河添健 総合政策学部 学部長・教授
  • 濱田庸子 環境情報学部 学部長・教授
  • 加藤文俊 環境情報学部 教授
  • 石川初 政策・メディア研究科 教授
  • 小林博人 政策・メディア研究科 教授
  • 長谷部葉子 環境情報学部 准教授
  • 松川昌平 環境情報学部 准教授

松岡さん「キャンパスの未来を自分達で考える」

最初に、松岡大雅さん(環3)がSBCの成り立ちとこれまでの活動についてプレゼンした。2016年3月にEAST地区に建設された滞在棟1ではセッション開催日の時点まででのべ3000人以上が滞在を経験し、遠藤地区の住民と文化や食を共有するFood Jam Fesをはじめ数多くのイベントが開催された。「キャンパスを作って徐々に成長させていき、フィードバックを得て次に繋げていく。その循環を大切にしたい」と、間もなく完成する滞在棟2への熱い思いを語った。1ヶ月後(12月下旬ごろ)にこの棟の運用が開始すると、SBCの収容人数は従来の2倍以上の72人となる。これからSFCの中でSBCはどうしていきたいのか、学生には「自分達のキャンパスの未来を自分達で考える」ことを呼びかけた。

オレンジ色の法被を羽織ってプレゼンする松岡大雅さん(環3) オレンジ色の法被を羽織ってプレゼンする松岡大雅さん(環3)

林睦さん(総1)は授業「SBC入門」で得た学びを紹介した。この授業では、卒業生を呼んで一緒に課題に取り組んだり、泊まりがけで他の学生や教員と寝食を共にするといった講義が行われた。これらは、今までの授業ではない環境で行われた「SFCに未来の滞在型教育研究施設を作ろう」という目標を体現しているものだという。「今までにない質で考え、創造し、学ぶことができる」と、この授業のスタイルの良さをアピールした。林さんが現在取り組んでいるのは、SBCの活用がこの授業に留まらないような、新たなパースペクティブ(分野横断的な授業を1つのテーマで束ねるための履修システム)の設計だ。「すべての学生に参加意識を持ってもらい、SBCでの学びをSFC全体に広げてきたい」と意気込んだ。

河添教授「当初の目標は達成して、概ね順調」

河添健総合政策学部長は、「SBCはハードとソフトの面、つまり物理的な側面と運営の側面の両方で当初の目標を概ね達成しているものの、まだまだ改善点がある」と指摘した。また、資金が集まらない中で始まったSBCで建物が次々と完成していることを賞賛した。その一方で「ドローンで撮った時にカラフルな方がいい」と提案し、笑いを誘う一幕もあった。SBCは「福沢諭吉が適塾で学んだ『昼夜の区別なし』の精神を滞在型で実践する」という目標もあったことを明かし、松岡さんや林さんのプレゼンテーションからそれが実践できていると感じ取れたと話した。しかし、「当初の予定よりもサマースクールの開催や留学生の滞在ができていない」と、外国人の受け入れが遅れている点を問題提起した。

濱田庸子環境情報学部長は、SBCセンターが無くなった今、SBCがどのようにキャンパス内で存在感を出していくかを考察した。「就任して間もない学部長というよりも、一利用者としての目線で」と前置きし、自身の研究会での合宿の体験を語った。「集団で何かをするのはとても刺激的なこと」と感じられたという。一方で、θ館前からEAST地区へのアプローチの整備や、宿泊時以外にも学生が回遊できる仕組みづくりの提案などをした。

若葉マーク付きの学部長ですが、と濱田学部長 若葉マーク付きの学部長ですが、と濱田学部長

SBCプロジェクトが始まる以前から滞在型教育を研究している長谷部葉子研究会は、去年秋学期から1週間にも及ぶ合宿を3回実施している。「合宿をいいものにしようという意識を持ちすぎて、無理をしてしまった。私は終わった日に寝込みました」と喜々として話す長谷部教授に、会場に笑いが溢れた。周辺農家に農作物を譲ってもらえないかと持ちかけたところ、季節の野菜が何箱も届き、全員で真剣勝負のようにまな板に向き合ったエピソードも披露した。そういった合宿を何度も行う中で、生活するための力や協調性が身についたという。

滞在型教育とは対極的に、普段の授業は90分間という短い枠に収まっている。加藤文俊環境情報学部教授は、従来の授業に滞在型のような利点を持ち込む仕組みをカリキュラム設計をしている。義塾全体で2コマ連続授業が導入されたとき、「15週間というスタイルをいかに崩していけるか」を考え、学期後半と休みを合わせて海外に行く授業のカリキュラムを作った。加藤教授は、「学生は午前9時から午後6時くらいまでは授業があるため、滞在型の特徴を活かしきれなかった」という自身のSBCでの経験を語った。「生活の中に学問があって、学問の中に生活がある。SBCだけ頑張ってもだめ」と語り、SFCを「大きなキャンパス」、SBCを「小さなキャンパス」と呼びながら、両方のキャンパスをフルに活用できるカリキュラムの必要性を訴えた。

より外に目を向けたキャンパスづくりを

佐藤まいさん(環3)は、キャンパスづくり、つまりアクションを起こす過程についてプレゼンテーションをした。自身がSFCというキャンパスづくりに参加するために取った、SBC合同研究会で話したり、管財と話したりという、意思決定をするまでの手順が学びになったという。「SFCの専任教員がついていなければ滞在できないし、キャンパスから離れているためにセキュリティの問題もある。必ずしも学生が自由に使える空間にはならないかもしれない」と完成後の管理や運用の難しさも語った。

「両学部長はどんなキャンパスづくりをしていきたいのか」という問いかけに対し、学部長の2人もそれぞれ意見を述べた。河添学部長は「もっとSFCをかき回すくらいの勢いで、我々に迷惑をかけてもいい。目立って、外に発信していってほしい」と言い放った。また、「なんで君たちはそんなにSFCが好きなの?」と、学生がキャンパス改善に向けている情熱に対して感激混じりの疑問も飛び出した。しかし、裏を返せば思考が内向きすぎるということでもある、という指摘もあった。濱田学部長もその点には同意し、キャンパス内だけでも多様な人がいるということで「自分とは違う主義主張、言語の人たちをどうアクションに入れていくかという視点を持ったほうがより深い議論ができる」と分析した。

学部長も驚かせるほどのキャンパス愛をもった学生たち 学部長も驚かせるほどのキャンパス愛をもった学生たち

加藤教授や長谷部教授も、多様性を取り入れていくことが重要であると力強く話した。多くの人々を巻き込むには、キャンパスに対する責任感を持たせるよりも、思わず参加したくなるような学びの活動を自分から実行するべきだという考えを示した。

石川教授「血に『遠藤性』を通わせる」

松川昌平環境情報学部准教授はこれから建設を開始する滞在棟3の「選択肢を用意すること」「失敗した時のリスクを離散化すること」という2つの思想を説明した。今までの、画一的でプライバシーもない滞在棟1、2の居住空間に対して、滞在棟3は1人用の小さな建物が複数建つ形で、それぞれの建物は別々の設計者による別々のデザインを持つのものになる。実験型キャンパスは失敗がつきものだからこそ、1つの建物にかけているコストを低く抑え、多くの選択肢を用意しようとしているということだ。

矢ノ目優総務(管財)担当課長は数年後には140人もの人が泊まる計画の施設の管理が無人でいいのかという警備の問題や、SBCが幅広い使い方ができて、利用者も多岐にわたるために、使いたい人が使いたい時に使えない可能性を危惧しつつ「制限はしたくないとは思っているが、何を中心にやっていくのかを考える時期だ」と次のステップについての洞察を語った。一方で、警備の問題などが解決すれば、教員がついていなければ宿泊ができない現状の問題などは自ずと解決していくだろう、という見通しも話した。

石川初政策・メディア研究科教授は「遠藤を故郷にしてしまうと、参加意識を持っているか否かという話ではなくなって血に遠藤性が通い、遠藤民になる。SBCがそのきっかけとして、やけにご近所に接近してしまっている施設になれば面白い」という夢を語った。

キャンパスの改善は我々教員に任せろ、と宣言する河添学部長 キャンパスの改善は我々教員に任せろ、と宣言する河添学部長

矢ノ目さん「『自分事』の精神で」

観客からも多数の具体的な意見が出た。ある観客は、「SFCで括られてしまうと、社会実験みたいな面白いプロジェクトにも関わらず外部の人が参加できない」と閉塞感を感じていたという。「SBCを皮切りに、SFC全体で大学という社会に開かれた学びの場のあり方そのものを問い直してほしい」とエールを送った。また、「キャンパスの環境を活かして畑を隣に作ったら面白いのではないか」という意見も出た。この意見に対しては、「管財としては、できないことはないと思うので、『自分事』の精神で、利用者自身で作っていってほしい」とのことだった。

今回のセッションでは、SBCに関わる多くの教員や学生が、SBCがこれからキャンパスを変えてゆくであろうという期待を胸に今後の展望を議論しあった。そのためには、SBCだけを見つめるのではなくキャンパス全体を見渡し、周辺住民とコミュニケーションを取り、今までは積極的にSBCを利用することのなかった人々の目線に立つことも大切になってくる。新パースペクティブや滞在棟2が楽しみになるセッションだった。

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