ORF2017の2日目・23日(木)に、株式会社ベネッセコーポレーションをスポンサーとした「アクティブ・ラーニング・パターン《教師編》で進化・深化する授業設計とコミュニケーション」のセッションが開催された。

教育の現場では、生徒同士が対話しながら主体的に学ぶ「アクティブ・ラーニング」が広がりを見せている。今後、アクティブ・ラーニングをより一層取り入れやすくするにはどうしたら良いだろうか? その鍵となるのが、井庭崇研究会が開発した「アクティブ・ラーニングのためのパターン・ランゲージ《教師編》」だ。今回のセッションでは、来場者にアクティブ・ラーニング・パターンに触れてもらうことを目的としたワークショップが行われたほか、アクティブ・ラーニングに携わる4人によりパネルトークが行われた。

パネリスト

  • 井庭崇 総合政策学部准教授
  • 宇都宮嘉宏 株式会社ベネッセコーポレーション 初等中等教育事業本部 アセスメント開発部 育成サービス企画課
  • 米田謙三 関西学院千里国際中等部・高等部教諭、日本アクティブ・ラーニング学会会長
  • 渡辺貴裕 東京学芸大学 大学院教育学研究科准教授

パネルトークの様子 パネルトークの様子

なぜ、今の時代にアクティブ・ラーニングが必要なのか

2030年は、一体どんな世の中になっているのだろうか。ある予測によれば、今の子供たちの65%は現在まだ存在しない職業に就くという。技術革新や社会変動に伴い、私たちに必要とされる能力は目まぐるしく変化していく。そのような状況で求められるのは、「その時々に直面する問題を自ら発見し、人と協働しながら解決する力」、そして、「主体的に学び続ける力」だ。子供たちにもこのような力を養ってもらおうと、大学入試改革をはじめとした様々な教育改革が行われている。政府によるアクティブ・ラーニングの推進もその一環だ。

アクティブ・ラーニングってなに?

米田さんが教育現場における成功例を語る 米田さんが教育現場における成功例を語る

従来型の教育では、講義形式でひたすら教員が話し、生徒が知識を詰め込むことが主流だった。だがアクティブ・ラーニングは、生徒同士の教え合いや複数人での対話を通じた問題解決を基本としており、生徒が学びの主体となる。多様な課題に向き合ううちに、生徒たちはこれまで以上に成長することができる。

ほんとうにできてる? アクティブ・ラーニングと教育現場

アクティブ・ラーニングの効果を期待する声は、ますます大きくなる一方だ。だが実際のところ、全国の学校では実践の仕方に困っている教員も多い。特に、授業の型だけが先行してしまい、本質的な学びから遠ざかってしまうといった声も上がっている。例えば、ペアワークやグループワークはアクティブ・ラーニングの手法として有効だが、生徒たちが意味を理解しないまま使うとただのおしゃべりになってしまう。そのほかにも、教員自身が従来形式の教育しか受けたことがなく、どう実践すればいいのか分からないというケースもある。

このような状況をふまえて誕生したのが、「アクティブ・ラーニング・パターン《教師編》」だ。生徒が学びの主体となりながら成長していくために、教員が実践できるコツを45個にまとめ、言葉とイラストで表現した。アクティブ・ラーナーを生むための本質的なコツを抽出したことで、授業を進めるうえでの具体的な手法というよりは、誰もが使えるような汎用性の高い内容になっていることが特徴的だ。

パターン・ランゲージとは

今回アクティブ・ラーニングのコツをまとめるうえで用いられたのが、パターン・ランゲージという手法だ。パターン・ランゲージとは、対象領域における経験則を言語化したものを指す。噛み砕いて言えば、日常の様々な部分に潜む共通の認識や感覚をパターンとして抽出し体系化したものだといえる。

私たちは、個々人で成功経験を持っていても、それをいちいち言葉にすることは少ない。何か成功体験について語る時も、他の人に伝わるような表現がうまくできなかったり、人によって違う表現をしていたりする。例えば、自転車に乗れるようになっても、その乗り方を言語化する人はほぼいない。さらに、どんな人でも使いやすいよう共通レベルの言語にまで落とし込む人はもっと少ないだろう。だが、その自転車の乗り方のコツに名前を与えてあげると、「こういうときは◯◯(パターン名)をやってみたらうまくいった」「私もそんな体験をした」などと、個々の実践について語り合いやすくなる。

私たちは、言葉があることで何かを語れるようになる。身の回りの多くのモノに名前が付いていることは当たり前で、その名前を使って対象を指し示すことで、会話が成り立ちやすくなっている。しかし実践の秘訣や経験則には名前がなく、過去に誰も名付けてきた人がいなかった。パターン・ランゲージによって、そうした「暗黙のコツ」に名前が付き、人々の対話や、創造活動の種となっていく。

イラスト付きで実践のコツが紹介される イラスト付きで実践のコツが紹介される

井庭研では、それぞれの言葉にわかりやすいビジュアルをつけ、カード化したり冊子にしたりしている。今回の「アクティブ・ラーニング・パターン《教師編》」も、アクティブラーニングの実践体験を語るボキャブラリーとして活用したいところだ。

来場者でワークショップを実践

会場のワークショップでは、約8人のグループになってテーブルに集い、パターン・ランゲージのカードを使った対話を行った。45枚のカードをシャッフルして、そこから1人5枚ずつカードを配る。その5枚から「自分が経験したことがある」「よく実践している」と思うカードを選び、それぞれが自分の経験を語る。経験談を語り合ううち、他の人の経験談から「なるほど、そういう風にやるのか」という発見を得ることができる。語る本人にとっては当たり前で、わざわざ話す価値がないように思えることでも、聞き手にとっては非常に良い情報になることがある。

もしも今回、いきなり「アクティブ・ラーナーの育て方について自由に話し合ってください」と指示されたとしたら、何を話せば良いのか戸惑いがあっただろう。だが、カードを見ながら話をすることで、書かれた言葉やイラストが会話を引き出すためのツールとなり、終始和やかな雰囲気の中で対話が生まれていた。

カフェで話をするような雰囲気で対話がなされた カフェで話をするような雰囲気で対話がなされた

アクティブ・ラーニングを実施するにあたって、何もなしにいきなりゼロから始める、というのは難しいかもしれない。まずは「アクティブ・ラーニング・パターン《教師編》」を手に取ってみよう。そして、身近な人たちと、自分たちの体験について語り合うところから始めてみてはどうだろうか。

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