ORF2017の2日目・11月23日(木)にセッション「AI時代の文化、社会、政治ーアートとサイエンスの再構築」が開催された。 アート=ソフト、サイエンス=ハードと位置付け、それらが辿ってきた歴史を紐解きながら今後のあるべき世界や未来について考えた。第1章では研究会所属の学生によるプレゼンテーションが行われ、第2章ではそれらを踏まえた内容でパネルディスカッションが行われた。

パネリスト

  • 宇都宮健太郎 朝日新聞出版社「朝日新書」編集長
  • 上山信一 総合政策学部教授
  • 歸山和大 (上山研究会卒業生)
  • 上山信一研究会学生

世界はどうなっているのか

「未来を見通す歴史の旅」と題し、まずは過去の地点に立つことからこのセッションは始まった。

最初に登壇した学生が触れたのは「近代国家モデルの限界」。市民革命以降の時代には、民主主義・資本主義は近代国家モデル、つまり"ハード"としてとてもよく機能していた。当時、市民は国家の主体となっており、他より抜きん出ることでブルジョワジーという階級を手にした市民は、連合を組んで市民革命、さらには技術革新を起こした。このように「やる気があれば誰でも稼げる世の中」が実現可能であったことが、民主主義・資本主義が機能した理由として挙げられた。しかし現在、それらは機能しなくなってきており限界に達しているという。

アート:ソフト、サイエンス:ハードの歴史を振り返る アート:ソフト、サイエンス:ハードの歴史を振り返る

続く学生が掲げたテーマは「アートが支えた中世キリスト教モデル」。サイエンスではなくアートが世界を動かしていた時代について振り返った。当時、市民から統治者まで誰もがキリスト教徒であった。日常の生活には常に祈りが共にあり、破門されることは何よりも恐ろしいことだと考えられていた。またその信仰は人々に建国をさせるほどの大きな影響力を持っていた。そしてアートも同等の影響力を持ち、ドイツではナチ文化で国民を統制することさえあった。これらのことから、これから先の時代は、サイエンスだけを強化して解決を試みるのではなく、アートのポテンシャルも発揮し、どちらも掛け合わせることが必要になるのではないかと結論づけた。

今 今"スタイル"を牽引する企業

そして最後に登壇した学生が提示したのは「今後を考える鍵は"スタイル"」というテーマ。アートとサイエンスを掛け合わせる"スタイル"を牽引することができるのは企業なのではないかという切込みからいくつかの企業が紹介された。無印良品・IKEA・Appleといったような"ミニマリズム"スタイル、Airbnb・Uberなどの"シェアリング"スタイル、最後に、Googleのような国家に匹敵するほどの規模の"グローバルプラットフォーム"スタイル。これらはどれも生活に密着した価値観に基づいており、人々の精神的豊かさを支えるものになっている。現代のニーズや価値は、モノを所有することではなく人と繋がることであったり情報を持つことになってきている。そのため、「これからの未来を動かすのは"スタイル"になっていく」と語った。

日本の役割を考える

第1章のプレゼンテーションでは、世界の歴史を振り返りながら未来の姿についてヒントを探った。第2章のパネルディスカッションでは「日本の役割を考える」と題し、日本の過去から未来の姿を考えた。

日本はバブル崩壊後、資本主義経済の衰退をどの国よりも早く経験することになった。また民主主義においても、選挙結果と世論とのずれなど制度の疲弊がある。しかし、"なんとなく感じる安定感"が日本にはあり、実際に、同じく民主主義において疲弊が見られるアメリカに比べると自殺率は減少傾向にある。

一体、何が日本人の"なんとなく大丈夫"という気持ちを支えているのだろうか。その理由として「日本人の多重宗教構造」「文化・芸能・工芸・宮中文化」が挙げられた。日本は古来より豊かな文化や多様な宗教により精神の安定を保っており、もとより民主主義や資本主義に依存してきた国ではなかったのだという。

競争ではなく 競争ではなく"共生"、観察ではなく"対話"といった考え方の「新知性」

そんな日本の未来を考えるにあたり、「新知性」というキーワードが挙げられた。それは近代化において東洋由来のアートと西洋由来のサイエンスがぶつかり合った日本だからこその考え方であり、新型優良企業や老舗企業はこの要素を実際に全て持っているという。これらをもってポスト近代国家モデルとするのが良いのではないかという意見を提示した。

閉塞感の正体

プレゼンテーションのセクションが終わりディスカッションに入ると、ある参加者から「『安定感があるような感じがする』とプレゼンテーションにはあったが、実際に自分は日本で生きていて閉塞感を感じる。一体これはなんなのだろうか、一体どうすれば解決できるのだろうか」という質問が投げかけられた。

この質問に上山教授は「閉塞感があるというのはとても分かる。だがこの閉塞感は"GDPが増えないと絶対にダメだ"とか"少子高齢化でこのままでは労働力が足りなくなる"だとか、政府の財政危機を心配する悩みであって、私たち自身の悩みではないんですよね。悩みだと思わされているが、実はそんなに困らない」と閉塞感の正体について見解を述べた。

また宇都宮氏は、バブルの崩壊を学生時に体験し自分も閉塞感を感じる、と述べたうえで「高度経済成長という一発を引きずり続ける上の世代の人たちによって政策は決定されている。その一方で自分より下の世代の人はYouTuberなんかをやったりして柔軟に楽しそうに生きている。どんな展開を予想してどんな意思決定をするかについて考えることが大事だし、"一発屋"と"Youtuber"に挟まれた世代として知りたいと思った」と話した。

アート×サイエンスで柔軟な発展を

上山研究会OBで既に社会人として働く歸山和大氏は、「僕たちの世代にとってのかっこよさは"自分の価値観を大事にする"こと。日常の会話の中でも、社会や政治経済にとっての価値の話ではなく自分の価値観でいいと思うものについて話す。ミニマリストに憧れたりシェアできるものが好きだったりもする。"スタイル"とは、そんな自分の中での価値観を肯定してあげる存在であると思う」と話した。

アートとサイエンスを掛け合わせた"スタイル"。「"スタイル"が浸透し、個人の価値観が肯定され、結果的に多くの人の精神や生活を豊かにしていく」という上山研究会が考える未来の社会ビジョンは、多くの参加者の心を惹きつけていた。

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