スライドと見る人の関係を逆転させる《授業中のスライドの気持ちになってみる》、ゴミを3Dプリントして制作した《<つくる>ということ》など、SFC内外で多くの作品を発表してきた小林颯さん(環4)。6日(土)から開催されるという個展「チューニング」を前に、なぜ作品制作を続けてきたのか、そしてなぜ今個展を開くのかを聞いた。

小林 颯 Hayate Kobayashi / 1995年北海道出身。/ 慶應義塾大学 環境情報学部 環境情報学科在籍。/ 主な作品に、《<つくる>ということ》(第23回学生CGコンテスト 未来館賞)、《Betweener》(第23回学生CGコンテスト エンターテインメント部門 最終ノミネート)、《少年と映像》(イメージフォーラム ヤング・パースペクティヴ2017 上映)など。 小林 颯 Hayate Kobayashi / 1995年北海道出身。/ 慶應義塾大学 環境情報学部 環境情報学科在籍。/ 主な作品に、《<つくる>ということ》(第23回学生CGコンテスト 未来館賞)、《Betweener》(第23回学生CGコンテスト エンターテインメント部門 最終ノミネート)、《少年と映像》(イメージフォーラム ヤング・パースペクティヴ2017 上映)など。

学内外で展示してきた4年間

—— 小林さんは、これまでSFC内でも多くの作品を展示されてきました。

その時々で、世の中に溢れているものに関心があります。《授業中のスライドの気持ちになってみる》は、授業中に課題のスライドの写真をパシャパシャ撮る学生に違和感を抱いて作りました。スライドと見る人の関係性を逆転させようと思って、ゴミ箱にカメラとキャプションをつけてΩ館に置き、人がその前を通るとシャッター音が鳴るようにしました。

授業中のスライドの気持ちになってみる from Hayate Kobayashi on Vimeo.

大学1年生の時は、当時流行っていた3Dプリンターでゴミをプリントすることにハマってました。メディアセンターのゴミ箱の上に、丸めたティッシュと、それをスキャンして3Dプリントした「何か」を作品として置いておいたんです。ところが、ゴミ箱の下の床にそれを置いておいたら、用務員の人が来て、それを捨てようとしたことがあって。「作品とゴミの違いって何だろう」と考えました。

右が3Dスキャン・プリントされたゴミ。その様子はデイリーポータルZでも紹介されている。 右が3Dスキャン・プリントされたゴミ。その様子はデイリーポータルZでも紹介されている。

そこから、「ゴミのゴミ性」をテーマに作ってみたのが《<つくる>ということ》というインスタレーション*です。これは武蔵野美術大学の芸術祭で展示しました。

(編集部注: 屋内などにオブジェや装置を配置して、その場所全体を作品として成立させる手法)

<つくる>ということ from Hayate Kobayashi on Vimeo.

マイルストーンとしての個展「チューニング」

—— 今回、どのような個展を開催されるのでしょうか。

今回は短編アニメーション作品とインスタレーション作品をそれぞれ1点ずつ展示します。テーマは、「SNSにおける豊かさ」です。Twitterのフォロワー数やInstagramの「いいね!」など、その人の一種の価値が「数」としても表される今、豊かな状態ってどういうものなんだろうと。

個展での出展作品《Betweener》より 個展での出展作品《Betweener》より

—— 個展開催のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

展示のきっかけは、「まずたくさんの人に見てもらいたいから」というのが第一でした。そして、今は自分の大学卒業という1つの区切りになる時期で、「このままだと、これまで考えてきたことがまとまらずに卒業してしまうのではないか」という思いもありました。だから、個展という形で考えを形にしたかったんです。今回の個展のテーマも、これまで作ってきた作品を振り返って生まれてきました。

—— 個展名「チューニング」の由来を教えてください。

チューニング(調律)は正しい音程に合わせる行為ですが、それと今の自分のSNSに対する姿勢が似ているように感じたんです。例えばTwitterでは「○○さんがいいねしました」という表示が出てきます。それを見て、「自分にとって権威がある誰かがいいねしたから、そのツイートをいいねしよう」と考える現象に、狭い視野の中で、自分を1つの限られた方向に合わせているような感覚がありました。

短編アニメーションへのこだわり

—— いつから短編アニメーションを制作されてきたのでしょうか。

12歳の頃からなので、もう9年前くらいです。小学5年生の冬ぐらいの時に、父親がテレビのチャンネルを回していて。そうしたら、NHKの「デジタル・スタジアム」という、自主制作の作品を審査員がジャッジする番組が流れていて。そこで、映像作家・佐竹真紀さんの《インターバル》という作品が流れていたんです。作者のおじいちゃんが撮ったホームビデオを1枚1枚画像化して今の風景と重ね合わせると今と昔の記録と記憶が交差する映像になる、という内容でした。

当時は、くだらない妄想をするのがすごく好きでした。ゴーヤが口から出るとか、みかんが布団の上でサッカーする、みたいな妄想をしていて。なので、それを見て、「この妄想を映像という手段で表せるんだな」と思い、コマ撮りや手描きで映像を作るようになりました。

—— 短編アニメーションにこだわって作ってきた理由はありますか?

抽象性やメッセージ性が大切、というのもあるのですが、もう1つの大きな理由は、動きの面白さみたいなものです。自分の作品だと、新作《Betweener》の映像で「ブレをわざと描く」ことをしています。

個展での出展作品《Betweener》より 個展での出展作品《Betweener》より

ブレを手で描くと、自分が思っていたよりも生々しさや緩急みたいなものが出てきて、そこに面白さを感じています。形の変化、メタモルフォーゼに惹かれているんだと思います。

あと、自分が好きな短編アニメーションに、ラウエンシュタイン兄弟の《Balance》があります。1枚の板の上に5人の男が住んでいて、「バランス」の名の通り、男の立つ位置によって板の均衡が変わるという作品です。途中で音楽が流れる箱を釣り上げ、それを巡って争いが繰り広げられるみたいなストーリーで、結構人間の欲みたいなのが現れています。最終的には1人の男と箱のバランスが釣り合ったというシーンで作品が終わっていて、すごい印象的だなと。

この作品ができたのは1989年のドイツで、ベルリンの壁崩壊があり、そこから想起できることがあると思います。でも、今ならSNSと人の欲の関係に読み替えられる、寓話的なところがあります。そこがいいなと思い、今回作った作品もそのような抽象的な要素を入れました。

—— 短編アニメーションの面白さとはどういうものでしょうか。

「とても個人的」であることです。一目見てもよく分からない。でもそのよく分からなさについていろんな人に意見を聞いてみると、三者三様というか、誰もが違う感じ取り方をしている。人とは違う意見だけど、自分の中ではしっくりきている。それが「とても個人的」であるということで、自分にとって魅力的です。

インタビューを終えて

短編アニメーションは、鑑賞者がその作品と「とても個人的」に向き合う。その一方で、作者が「とても個人的」なことから作品を作っているという側面もある。小林さんはその時代のトレンドから着想を得て、時にユーモアたっぷりに、時にシリアスに作品を生み出してきた。そして、作品にはその作家の見る世界であったり、人となりであったり、あるいはとても個人的な事情がにじみ出ている。

短編アニメーションを含めて、アートの世界は「よく分からない」と言われがちだ。しかし、今生きている同世代の作家の作品だからこそ、各々が「個人的に」感じ取れる機微があるだろう。個展「チューニング」へ、ぜひ足を運んでみてほしい。

展示概要

小林 颯 個展「チューニング」

http://hytk1225.tumblr.com/
Twitterのフォロワー数や、Instagramのいいね!など、社会的地位が数字として過剰消費される現代において、豊かな状態、とは何を指すのか。
現代社会における豊かさをテーマに制作してきた作品群を展示いたします。

日時

2018年1月6日(土)-10日(水) 12:00-19:00

場所

No.12 Gallery

東京都渋谷区上原2-29-13

  • 京王井の頭線 駒場東大前駅 徒歩8分
  • 小田急・地下鉄千代田線 代々木上原駅 徒歩10分
  • 小田急線 東北沢駅 徒歩10分

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