22日(木)-23日(金・祝)の2日間にわたり開催された「SFC Open Research Forum 2018」。今年も例年同様SFCの様々な研究会や活動が六本木・東京ミッドタウンに会し、研究成果を発表した。高校生や大学生、研究関係者など、会場は多くの人で賑わった。

Pitch会場 Pitch会場

初めての「Pitch」どうだった? 現地レポートで紹介

過去のプロジェクトについて説明する上山信一総合政策学部教授 過去のプロジェクトについて説明する上山信一総合政策学部教授

今年のORFは新たな試みとして展示会場、セッション会場のほか、Pitch会場を設置。登壇者は約15分という時間の中で発表を行った。50のPitchのうち、一部ではあるが編集部員によるレポートを開催順に紹介する。

22日(木) 気象学研究会

気象学研究会の宮本佳明環境情報学部専任講師によるPitchは地球温暖化に関しての発表。地球温暖化問題を示す様々なデータを紹介したのち、今年何度も問題となった豪雨や猛暑、台風の発生メカニズムなどを織り交ぜながら解説。次の(次の)社会のための地球温暖化適応策について語った。

22日(木) 安宅研は何を目指すのか?

壇上で話す安宅教授 壇上で話す安宅教授

「安宅研は何を目指すのか?」では、9月から研究会をはじめた安宅和人環境情報学部教授が登壇し、現代において必要とされる能力や鍛えていきたい学生の能力について語った。

安宅教授はテスラやAppleなどの事例を紹介し、人口減少と急激な技術革新期が重なり未来予測ができなくなっている現在では、富を生み出す人の性質が変わってきたことを示した。安宅教授によると、生み出す富の量は市場規模やその中での立ち位置、さらには実際に作った物の価値以上に「未来を変えている感」に影響される時代に突入しているという。そして、そういった時代において価値を生み出す人材には「夢を描く力」や、「その夢をかたちにする力」が必要だとした。また、今後情報の識別や予測などはAIなどに代替されるため、プログラミングのスキルよりも、情報科学を駆使してコンピュータを使いこなし、それを応用させて実課題を解決できる人材を育てたいという。

その解決する課題として、安宅研では地方の集落の問題について議論している。現状として地方の自治体の多くが、外部から大量に資金を投入しないと自治体の運営ができない。そのため、このままでは将来的に都市集中型の未来しか描けないという。しかしこの問題はテクノロジーを利用して解決ができるのではないかと考え、その方法について研究会で議論しているという。研究会を通して一人でも多くいい意味で"アブナイ人"を育てたいという安宅教授。今後の活動に注目が集まる。

23日(金・祝) 参加型センシングによって痴漢情報を可視化するプラットフォームの提案

須田小百合さん(総2)は、研究会での取り組みについて、「参加型センシングによる痴漢情報を可視化するプラットフォームの提案」という題で発表を行った。痴漢は社会問題であるという認識は近年でこそ広まっているが、被害を通報することができず泣き寝入りしてしまう人が92%もいるという。また、被害者に対して学校なども適切な対応をしきれておらず、被害の全容もつかめていない状況だ。

須田小百合さん(総2) 須田小百合さん(総2)

そこで、須田さんは参加型センシングによる痴漢被害情報の可視化を提案した。これは多くの人々にサービスを利用してもらうことでデータを収集し、新しい情報を生み出そうという取り組みだ。その中で須田さんは痴漢被害者が被害情報を共有できるアプリを開発したという。このアプリを使えば被害に遭った人はワンタッチで位置、時刻などの情報を匿名で保存することができる。このデータが蓄積されれば、どのような時に被害が発生しやすいかといった傾向が分析でき、より有効な対策を講じることができる。

最後に、村井教授たちが開発し広めたインターネットによって世の中の当たり前が変わったからこそ、情報の力で世の中の不条理を解決することは可能と信じていると締めくくり、また多くの人たちと痴漢問題などについて議論したいと呼びかけた。

23日(金・祝) 教育に科学的根拠を

中室牧子総合政策学部准教授のPitchでは、今後の日本の教育をどう考えるべきかについて語られた。

まず第一に「個人の体験談は必ずしも全体をあらわさない」と准教授は述べた。この考えは一見当たり前に考えられることだと思われるが、政治家が教育に関して述べる場面の多くでは、経済・財政に基づいた根拠ではなく「私の体験談からは、」と述べられていることが多いようである。自身のこれまでの経験をもとに次世代の教育方針を考えていくことが正しいかは疑問が浮かぶ。

そのため、意味のある教育を提供するには、大量の個人的体験を収集して分析し、「科学的根拠」をまずはみつけなければならない。「厳しい財源と少子化」を理解しているのであれば、「戦略的かつ意味のあるお金の使い方をする必要がある」のではないか、と准教授はまとめた。我々も同様、次の世代の教育に科学的根拠を示すためにも、同じような考え方をするべきではないかと感じた。

23日(金・祝) おしゃべりな創造: JKたちが教えてくれたゆるいイノベーション

若新雄純政策・メディア研究科特任准教授と修士過程の木村紀彦さん2人によるPitch。

「ゆるいコミュニケーション・ラボ」が福井県鯖江市とコラボレーションして設立した「鯖江市役所JK課」の例を挙げ、テーマに対する答えを導き出したり答えを求めたり考え方から逸脱して「何が起こるかわからない」領域での試行錯誤を楽しむという方法を紹介した。木村さんはJKがするおしゃべりを創造システム理論の観点から見て、意味のないように聞こえるおしゃべりがいかに可能性を秘めているかについて語った。

会場には女子学生や高校生が多く集まり、さらっと登場して始められたゆるいトークの2人にリラックスしながら耳を傾けていた。

23日(金・祝) "おかしなこと"はどうやったら変えられるのか -改革屋(Change Agent)の仕事術-

上山信一総合政策学部教授によるPitchでは、上山教授が行ってきた改革の舞台裏が紹介された。

上山教授が今までに行ってきた改革は大企業、政府、国際機関、病院、美術館など多岐に渡るが、その改革の対象とするのは組織の「リーダー」と傘下の人間集団の働き方である。改革という言葉は「戦略」や「イノベーション」を彷彿とさせるが、上山教授は「集団が動きやすい道筋を描くこと」と定義し先導してきた。「改革屋は参謀であり黒子である」と語る上山教授が、「黒子だから照明の当たらない場所にいなきゃいけない」と自身を照らす会場のスポットライトが当たらない場所に移動するといったジョークに、会場は笑いに包まれた。

SFCにも、社会に蔓延る「おかしなこと」を解決すべく勉学に励む学生は多い。上山教授が語る「改革屋」の仕事術も、SFCに受け継がれるDNAの一つとなるだろう。

23日(金・祝) Greetings from SFC TOUCH LAB

仲谷正史環境情報学部准教授によるPitch。触覚についての研究を行う仲谷教授が、SFCで開いたSFC TOUCH LABでSFCの学生と彼らのアイデア・研究との出会い「Greeting」について熱く語った。基礎研究・技術と、多様なキャンパスならではの斬新な発想とを組み合わせることによって、次の(次の)社会の片鱗が見えるかもしれない。

23日(金・祝) カレーキャラバン:わたしたちの〈共〉の場所をとらえなおす

本人曰く「紅白でいう北島三郎か石川さゆりの枠」だというHALL B-2でのトリを飾ったのはORF 2018の実行委員長、加藤文俊環境情報学部教授。

自身が7年間続けている「カレーキャラバン」というプロジェクトのこれまでの経緯や方法を紹介し、そこから見えた公・共・私のうちの「共の場」の在り方について語った。場を和ませるトークでHALL B-2に集まった観客には多く笑顔が見えた。

変化し続けるORF

「SFCが元気かどうかを確認する健康診断みたいなもの」(ORF実行委員長インタビューより)ともいえるORFには、昨年に続き、あえて変化が加えられた。今年は新たな発表方法としてPitchが導入され、盛り上がりをみせた。出展者・来場者としてORFに参加された方々はどのような印象を受けただろうか。