さだまさしさんが、初めてSFCでの特別授業「うたをつくる」を夏季3日間集中で開講。SFCの学生に「うたをつくる」ことの意味、「うたづくり」のプロセスなどを教え、受講生は実際にうたを作って発表した。SFC CLIP編集部では2日目の9日にさだまさしさんへのインタビューを敢行、授業風景も取材した。

慶應初! さだまさしさんの特別授業

シンガーソングライターのさだまさしさんが、初めてSFCでの特別授業「うたをつくる」を開講した。この授業は、さだまさしさんがSFC特別招聘教授として夏季3日間(8月13日・9月9日・9月11日)集中で行ったもので、「うたづくり」について実践を交えながら講義した。

この日はθ館のステージで授業が行われた この日はθ館のステージで授業が行われた

何かに立ち向かっていく姿勢をきちんと伝えたい

SFC CLIP編集部は授業直前のさだまさしさんにお時間をいただき、インタビュー取材を実施。この授業を通して伝えたいことなど、授業に込めた熱意を語ってくれた。

—— 今日はこれから2日目の授業となりますが、初回授業を終えての感想をお聞かせください。

色々詰め込みすぎてね、いっぱいいっぱいだったんじゃないかなぁ。情報が多すぎたね。通常だと8時間ぐらいやるべきものを4時間ぐらいかけてでやっちゃったので、整理するのが大変だったんじゃないかな。

—— SFCの受講生は音楽をメインに学んでいる学生ばかりではないと思います。そのような色々な学生に向けて授業を行うのはいかがでしたか?

音楽学校じゃないので、専門家に話すように話すとわかりにくいところはあるだろうけれど、音楽が好きな人が来てくれているんだなと思ったので、音楽の楽しみ方を教えました。「うたづくり」は誰でもできる作業なんだけど、それをどうやって説明するかが重要でした。

今日はおさらいから入って、もう1回整理しようと思ってます。明後日も授業がありますが、それまでにうたを作るのは大変だろうなと思うんです。ただ、アプローチをする手順だけは残しておきたい。

—— 今後受講生たちがうたを自分で作れるようにということですか?

うたはね、一生作るチャンスがあるので、なにも一週間以内に作らないといけないというわけではないんです。いくらでも可能性はあるんです。

うたを作ることは、自分を作ること

—— この授業を通して得た知識や、うたを作る技術を、今後どのように使っていってほしいですか?

総合的に、うたを作っていくことは、自分を作るっていうことなので、自分の作り方についてお話ししました。

一生をかけて自分を作っていく、その表現方法としてうたもあるし、小説を書く人もいるかもしれないし、あるいはもっと別の形で表現する人がいると思うんだよね。まず、自分をどうやって作るかっていうのが、学生にとっては大きなテーマじゃないのかな。つまり4年間の大学生活の間に勉強なんて終わるわけがないので、そこでどういうフォルダーを作れるかだよね。そのフォルダーに自分の経験で色々なものを放り込むことで熟成されると、教師になる人もいるだろうし、科学者、政治家、音楽家になる人もいるかもしれない。でも、うたを作るっていう志があった方が人生楽しいから。

「言葉」というツールがすごく大事

愛用のギターを紹介するさだまさしさん 愛用のギターを紹介するさだまさしさん

—— さださんはうただけではなく小説など、色々な表現手段を持ってらっしゃいますよね。SFCにも色々なことを広く学んでいこうという理念があります。うたに限らず、様々な表現手段を持つということについてどうお考えですか?

色々なことを広く学ぶっていうのは素晴らしいよね。講義の冒頭で話したことなんだけど、「言葉」というのは人間の特権なので、言葉を大事にすることは非常に重要なことだと思います。表現するにしても説明するにしても、叱るにしても。話す人の内側のキャパシティーが言葉にすべて表れてきますから。ちょっとうっかり言った言葉で自分を見透かされてしまうから、ボキャブラリーは豊富な方がいいし、人と話すときにはわかりやすい方がいいし、言葉も綺麗な方がいい。そういう観点で考えると、うたを作ることは、言葉を扱うっていう非常にナーバスな作業の一つなんで、勉強として良いのかなって思います。

表現する上で俳句にせよ、短歌、小説、エッセイ、あるいは日常の会話にせよ、「言葉」っていうツールはすごく大事なものなんでね。それを大事にしましょうっていう、一番肝心なところを話したんです。僕自身も、もっともっと他に良い表現を捜します。例えば、あんまりやらないと思うけど、パッと目に入ったものを上手く言葉で表現して中継するゲームとかをやると表現力が増える。でも自分の中にない表現力が湧いてくるわけはないから、他の人の小説とか、エッセイとかから、取り込んでいくしかないわけね。でも10取り込んだくらいでは1つも身にならないからね。100ぐらい取り込んで、ようやく1つくらい自分のものになるのかなと思うと、本を読むことは大切だね。

人のために何かをやりたいって思う気持ち、志を伝えたい

—— 最後に、ちょうど先週の金曜日に神戸でのさださんのコンサートに伺ったんですけれども、若者にバトンを受け継ぎたいと話をされていたことを覚えています。今大学生に講義をされているわけですが、大学生やSFC生に何を受け継ぎたいですか?

やっぱり、自分の姿勢、何かに立ち向かっていく態度をきちんと伝えたいなと思います。

僕は國學院大學に入ったんだけど、18歳の時にもしも発心(※)していれば、この歳になるまでに大学の図書館の膨大な本のほとんどを読めていたと思う。ただ、そのときにはそんなことを考えもしなかったから、今からでは棚ひとつも読めないで死んじゃうわけ。つまり、志というのはそういうところにあるので、その志を一番に考えて欲しいなぁと思っていますね。

うたというのは自分の表現のひとつで、それが僕の生業になっているわけですよ。だから、自分の生業であるうたに対して、思想的なこととか、自分の日常的なこととかをきちんとアプローチできているのかっていうことが非常に重要なんですよね。これはうたであれ、小説であれ、何かひとつのことをテーマとしてずっと持っていないと、軸がぶれてしまうということ。軸をぶらさないことが、一番大きな自分の枷かな。もしかしたら、人間だからうろうろしているところがあるかもしれない。けれど、軸足さえぶれていなければいいかなっていうことで、一生懸命自分を律して来たんですよね。

編集部注: 発心 元は仏教用語。思い立ってある物事を始めること。

志を持った若者たちが日本を変えていく

(コンサートで)高校生のボランティアアワードの話をしたでしょ。ボランティアをやっているような高校生ってのは志のある子たち。でも実は、誰でも「誰かのために何かできないかな」って思っているんですよね。だけど、自分のことで精一杯でね、他人のことなんかとても手が回らないってのが正直なところ。一方で自分に手が回らなくても人のことをやってあげたいって人もいるんですよ。そういう、人のために何かをやりたいって思う気持ちはすごく尊いので、この子たちが志さえ捨てなければ日本を変えていくだろうなと思ったんですよ。

ボランティアアワードというのは、ひとつの褒め方です。大事なのは、大人がどうやって褒めていくかですよ。良いことは褒めた方がよいので、ボランティアアワードで全国の高校生たちを集めて褒める。「君たちは素晴らしいことをしている」ってことを伝えられれば、「そうかこれでいいのか」って思う人もいるだろうし、「もっともっと何かできるだろう」って思う子たちもいると思う。それがずっと繋がっていくと十年後、二十年後の小さな町が変わっていくだろうし、市が変わっていき、県が変わっていき、国が変わっていくことになるかなって思う。良い意味でね。

政治家も、経済のことばっかりいうから、お金のことばっかり考えて生きているようだけど、人間は金だけじゃ生きていけないでしょ。まあお金がないと生きていけないけど、この兼ね合いが難しいね(笑)。バランスを取るということが生きるってことなんだよ。その生きるってこと、お金を稼ぐってこととは対極にある自分の思想、志や価値観をどう伝えていくかっていうのがバトンタッチですよね。

うたづくりを通して自分の軸足を見つけて

—— 「うたを作るということは自分を作ること」と最初におっしゃっていましたが、志というのは、うたを作り、自分を作っていく過程で見つけられるということでしょうか?

志がぶれなければ、何をやってもぶれないんだよね。一番重要なところがぶれていなけば、なんでもできるって思うし、何をやってもぶれないでできると思う。中・高・大学っていうのは、一番ぶれる年齢じゃないですか。小学生の頃にはよくわからなくてもね、中学生から思春期に入って青春期になると、ものすごく自分がぶれる。うたづくりってのは、こういう時期の人に、早くぶれない軸足の拠りどころを見つけようよっていう提案だよね。

うたを作っていると、はっきり自分が見えるからね。上手か下手かはこっちに置いておいてですよ。要するに、良いうたかどうかは全然関係なくて、うたを作るためには色んな勉強をしなきゃいけないから、その勉強を通して自分の志の軸を早く見つけた方がいいよっていう提案ですね。

一人ひとりの「うた」にアドバイス

この日は、全3日間の日程で実施された集中授業の2日目。台風15号による影響で受講生の登校遅れが相次ぎ、予定の12時を少し過ぎて授業は始まった。

最初は、「前回詰め込みすぎてしまったので」と初回授業の復習から。本来別の作業である作曲、作詞、歌唱の3つをひとりでこなすシンガーソングライターであるさだまさしさんは、作ったうたを自分自身で歌うことの意義を説明。「うたを通して何かを伝えたいという覚悟がなければ人の胸を打つうたは作れない」と語った。また、伝えたいテーマを表現する音をどのように決めるか、情景をどのように詩で表現するのかといった具体的なうたづくりの方法にまで話は及んだ。

「自分らしいうた、あなたにしか作れないうたを作って」

前回の授業では「祭り」をテーマにうたを作る課題が出され、この日は学生それぞれが自作のうたを持ち寄った。休憩をはさみ、一人ひとりがそのうたを披露。さだまさしさんは発表者と議論を交わして世界観を確認しながら、本当に伝えたかったメッセージを表現できるようにアドバイスしていた。ときには他の受講生から詩の解釈や改善のアイデアが提案され、議論が白熱することも。

さだまさしさんは、「SFCは音楽学校じゃないから、綺麗な曲や上手いうたを求めているわけではない。自分らしいうた、あなたにしか作れないうたを作って欲しい」と何度も強調した。「自分の詩が洗練された」とこのときを振り返るのは、普段は詩人として現代詩を書くという成田凜さん(総1)。「さだまさしさんのプロとしてのコメントが詩人としての自分の発見にも繋がり、勉強になった。議論の中で気づくこともたくさんあった」という。受講生一人ひとりにとって内容の濃い時間になったようだ。

学生が作ったうたに一人ずつアドバイス 学生が作ったうたに一人ずつアドバイス

さだまさしさんが生演奏

授業の後半では、さだまさしさん自身が愛用する複数のギターを見せ、曲調に合わせた使い分けなどが説明された。「前夜(桃花鳥)」と、この曲のために日本的な響きを持つギターを探したという「まほろば」の2曲を演奏。学生たちは氏を囲んで文字通り目の前で堪能した。

学生に囲まれて自身のうたを演奏 学生に囲まれて自身のうたを演奏

授業は20時頃に終了。この日だけで8時間に及ぶ長丁場だったが、受講生らは最後まで目を輝かせて授業に参加していた。

さだまさしさんからのバトンタッチ

今夏、初めてSFCで開講されたさだまさしさんによる特別授業「うたをつくる」。3日間にわたってみっちり講義が行われた。さだまさしさんは、学生にうたづくりを経験し楽しんでもらうことに重点を置き、できたうたの採点はしないように授業を進めたという。氏によると、「うたづくりの楽しさと発表するときのドキドキ感が音楽」だというが、学生たちは3日間を通して存分に味わえたことだろう。

さだまさしさんは、この授業ではうたづくりの技術面だけでなく、うたづくりを通じた自分づくりについても伝えたいとインタビューで語っていた。うたづくりでは自分を客観的に見つめることになり、自分の軸足を見つけることにもつながるという。様々な分野を横断的に学べるSFCに通う学生にとって、うたづくり、文筆ほか様々な表現手段を持つさだまさしさんの生き方には学ぶところが多いのではないだろうか。うたづくりに限らずそれぞれの分野でさだまさしさんの志、バトンを受け継いでいきたい。

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