12日、SFCのグラウンドに黒色のヘリコプターが降り立った。このヘリコプターの飛行は武田圭史研究室の実験の一貫で、大学のグラウンドを使用したヘリコプターの離着陸、周辺空域の飛行を行い、遭難者捜索機器のテストと飛行に伴う騒音の測定が行われた。武田圭史教授によると、SFCでの学生を乗せたヘリコプターの離着陸は初だという。SFC CLIP編集部では実際にヘリコプターに搭乗し、実験の様子を取材した。

なおSFC CLIP編集部は、慶應義塾大学湘南藤沢事務室から適切な感染対策の指示を受けながら、当日は最低限の編集部員のみで現地取材を行った。

武田研究室によるヘリコプターの利活用実験

グラウンドに着陸するヘリコプター グラウンドに着陸するヘリコプター

武田研究室では、「UAV/ドローン、映像メディア/VR/AR/XR等先端技術の実践的応用」を研究している。

今回は、国際災害対策支援機構との共同研究として大学および周辺地域における災害対応、人員および物資の輸送のほか、測量や計測、撮影などへのヘリコプターの利活用の可能性を検証することが実験の目的であるという。

詳細
日時 2020年12月12日(土)
離着陸場所 神奈川県藤沢市遠藤5322 慶應義塾大学 総合グラウンド
飛行範囲 慶應義塾大学より10km程度の範囲の上空300m以上 (離着陸時を除く)
主催 慶應義塾大学武田圭史研究室
共催 国際災害対策支援機構
共同研究機関 愛知産業大学伊藤研究室
協力 匠航空株式会社
AUTHENTIC JAPAN 株式会社

実験に関する説明をする武田教授と国際災害対策支援機構の松尾さん 実験に関する説明をする武田教授と国際災害対策支援機構の松尾さん

SFC CLIP編集部員も搭乗! 体験搭乗レポート

土曜午後、グラウンドに集まる参加者たち

落ち葉を巻き上げながらSFCに到着するヘリコプター 落ち葉を巻き上げながらSFCに到着するヘリコプター

参加者が集まり始めた13時ごろ、予定より少し早くヘリコプターがSFCに到着。この日最初の着陸は、グラウンドの砂や落ち葉を大量に巻き上げた。

武田教授と国際災害対策支援機構の松尾さんから参加者に向け実験前の説明、そしてヘリコプターの飛行を担当する匠航空株式会社からの挨拶があった。

匠航空株式会社 盛岡匠代表取締役 匠航空株式会社 盛岡匠代表取締役

黒く輝くヘリコプター

Bell 505 Jet Ranger X(JA07DR) Bell 505 Jet Ranger X(JA07DR)

今回実験に使用される機体はBell 505 Jet Ranger X(機体番号JA07DR)。黒い塗装が美しい5人乗りのヘリコプターだ。

グラウンドからの離陸

パイロットを除き搭乗できるのは4名であるため、参加者は交代で搭乗しながら、ヘリコプターで5-10分間ほどの体験飛行を何度か繰り返すという。

機体に乗り込むと、まずハーネス式のシートベルトを、リュックサックを背負うように装着。感染対策のため事前に配布されたアルコールシートでヘッドセットを拭き耳につけた。そして、パイロットと他の搭乗者の声が聞こえることを確認した。ドアが閉まり、パイロットは早速離陸の最終準備に取りかかった。

編集部員は後列右側に着席した 編集部員は後列右側に着席した

当日はSFCから約6.5kmの場所に位置する厚木基地での自衛隊機・米軍機の飛行の影響で、離陸を中断し待機する場面があった。離陸が許可され、地上誘導員が合図を出すと、ヘリコプターはふわりと上昇を開始。一気に1,000ft(約300m)以上の高度に達し、目の前にはキャンパス上空からの景色が広がった。

離陸直後の様子 離陸直後の様子

上空から見る新幹線

紅葉がまだ残るキャンパス周辺の景色を眺めながら上昇し、ヘリコプターは相模川方面への飛行を開始した。

途中、東海道新幹線が東京駅方面へと走る姿を確認できた。普段乗る旅客機と異なり地上の様子を手に取るように感じられるのは、ヘリコプターならではの飛行体験といえる。

東京駅方面へと走行する東海道新幹線 東京駅方面へと走行する東海道新幹線

相模川に程近い圏央道寒川北IC・JR相模線宮山駅付近まで西進し、左旋回。ヘリコプターは川沿いを南下。

相模川の河口が近づいてきた 相模川の河口が近づいてきた

江の島を眺めつつ北上 あっという間にSFC

江の島が右奥に見える 江の島が右奥に見える

相模川沿いを相模湾の方向へと下っていき、新湘南バイパス茅ヶ崎西IC付近で左旋回。海岸に沿って東進し、JR茅ヶ崎駅付近で右前方に江の島を見ながら再び左へ旋回した。

SFCキャンパス全景 SFCキャンパス全景

江の島を右後方に見つつ北上すると、前方にSFCが見えてきた。約20kmの経路をあっという間に一周してきたということだ。ヘリコプターの速さを改めて実感した。

グラウンドに機首を向け降下する グラウンドに機首を向け降下する

グラウンドへ向けて下降し、地上誘導員の指示のもとヘリコプターは進入・着陸。大きく揺れることもなくゆっくりと地面に降り立った。

地上では誘導員が離着陸時に合図を出す 地上では誘導員が離着陸時に合図を出す

体験搭乗した参加者の声は

体験搭乗に参加した武田研究室の学生に話を聞いた。

—— ヘリコプターに乗っていかがでしたか?

普段、武田研ではドローンを飛ばし、ドローンから送られてくる映像を見ながら操作しています。ヘリコプターに乗ってみて、上空からの景色が実際はこんな風なんだなと思いました。

キャンパス周辺ではバスでの移動しかしていなかったので、何があるのかわからなかったのですが、空から見るとSFCの周りはこんな感じになっているんだと思いました。江の島もちょろっと見えましたし、新幹線も見えました!

ヘリコプターに乗り込むめいさん ヘリコプターに乗り込むめいさん

同じく体験搭乗に参加した学生で、普段YouTubeに動画を投稿しているめいさんに感想を聞いた。

—— ヘリコプターに乗っていかがでしたか?

飛行機と全然違いました。同じ空を飛ぶ乗り物でもヘリコプターは小型で垂直移動ができる便利な乗り物と聞いていて、その理由がよくわかりました。災害時の有用性という意味でも、結構使えそうだなと思いました。滑走路が必要ない分広いスペースがいらないから、狭いところにも入っていけるのではないかと思いました。

ヘリコプターとめいさん ヘリコプターとめいさん

実験の様子 ドローンとヘリコプターが同時に飛行

SFC上空で飛行するドローン SFC上空で飛行するドローン

体験搭乗後、武田研究室による実験が行われた。ドローンをSFCのグラウンドから離陸させ、上空のヘリコプターの中からドローンがどう見えているかをチェックしたという。

実験時はドローンを探すためキャンパスの真上を飛行するシーンも 実験時はドローンを探すためキャンパスの真上を飛行するシーンも

ヘリコプターとドローンの共存する社会

武田圭史教授 ドローンによる捜索救助の可能性と今後SFCでやりたいこと

—— 今回はどのような経緯でこの実験が実施されたのでしょうか?

武田教授

昨年、僕たちが山梨での女児行方不明事件でドローンでの捜索をしていたことから、「協力しませんか」と国際災害対策支援機構からお声をいただきました。僕たちのように大学でドローンを実践的に活用しているのが珍しいようです。

僕たちは特に捜索救助にドローンの可能性があると考えていますが、実際に災害が起こると一斉にいろんなことが起こるので、それをドローンで全てカバーするのはすごく大変です。だからまずは山での遭難の救助や行方不明者の捜索が最初にできることかな、と。

遭難者の位置が分かる機器ココヘリを操作する武田教授 遭難者の位置が分かる機器ココヘリを操作する武田教授

武田教授

(操縦士が自分の目で確認しながら操縦するヘリコプターに比べ、)ドローンは特に夜に強く、赤外線カメラを使って自動で飛ばすことができます。実際にイノシシなどの動物を夜中に見つけることができ、それと同じ技術で遭難している人や行方不明者を捜せるので、「それをまずはやりましょう」と。

捜索となるとヘリコプターも飛んでくるので、ドローンと調整しながら有効的に活用するという実験です。実際には、(同時飛行が難しいため)ヘリコプターが捜索を行っている間はドローンを全部止めています。しかし、その間にドローンができることはもっとたくさんあるはずなので、今回の実験ではその活用の可能性を模索しています。例えば、ドローンをヘリコプターから落として、その場所でドローンが捜索して、別の場所をヘリコプターが探すとか。また、地上から上空数百メートルの高度はいろんな使い方ができるはずですが、日本ではまだあまり活用が進んでいません。

ドローンが大きくなってヘリコプターに近づいていき、ヘリコプターが小さくなってドローンに近づいていく中で、そういった未来を見据えて、もっと空中をいかに活用していくかをSFCで研究したいと考えています。

一般財団法人国際災害対策支援機構代表理事の松尾悦子さんのお話

一般財団法人国際災害対策支援機構の代表理事 松尾悦子さん 一般財団法人国際災害対策支援機構の代表理事 松尾悦子さん

—— 今回はどのような経緯でこの実験が実施されたのでしょうか?

松尾さん

愛知産業大学の伊藤先生と私たちは、AIを活用した共同研究をしています。その研究の中で空からの支援という形で、災害時にヘリコプターとドローンをうまく活用したシステムを作ろうと考えています。その中でドローンの部分を武田先生の研究室と、災害対策の部分を愛知産業大学の方と共同研究しているということです。

—— 今後災害時において、どのような未来を想像していますか?

松尾さん

今、災害時の陸路からの対応は出来上がっていると思うので、その時にもっと上空からいろいろなサポートをしましょうというのが私たちの取り組みです。将来的には、世界は高域をうまく活用した社会になっていくと思います。ドローンが飛んだり、人を乗せたりする未来に向けて、ヘリコプターとの共存を研究しています。

愛知産業大学スマートデザイン学科の宮澤友和准教授のお話

愛知産業大学スマートデザイン学科の宮澤友和准教授 愛知産業大学スマートデザイン学科の宮澤友和准教授

—— 今回このプロジェクトに参加された経緯をお聞かせ願います。

宮澤准教授

我々のスマートデザイン学科では、AIを使って商品やサービス、ビジネスをどうやって作っていくのかを学生が勉強しています。座学ではなく、学生が一人一人自分たちでテーマを持ってAIを使ったサービスを作り込むということに取り組んでいます。その一貫で、私たちは人の考え方や判断の基準の見える化をAIが行い、説明できるようにするということをやっています。例えば「ここで判断が間違っていたからこういう結果になっちゃった」というように、今まで勘と経験でやっていた部分が「見える」ようになってくる。

国際災害対策支援機構の松尾さんが災害対策へのドローン活用に関して、捜索のシステムを研究しています。遭難した人がタグを持ち、そのタグから発信された電波を上空から探すのを今はヘリコプターがやっていますが、ヘリコプターが飛べない夜間はドローンでやろうとしています。

現状、ドローンで遭難者を探すのは専門家じゃないと難しくてできません。タグからの電波である程度居場所がわかるのですが、実際に探すのは人間です。なので、その人間の操作の部分をAIに変えていくことによって、今まで1人の専門家によって1人に対してのみに行われていた捜索救助が、1対nで助けることができる。つまり災害時にたくさんの遭難者が救えるという世界ができる。僕らはそれを目指して、AIで災害救援の支援をしたいと考えています。これが、今回僕たちがこのプロジェクトに参加している理由です。

たまたまAIの研究をしている中で松尾さんと出会って、松尾さんは災害へのドローン活用で武田先生とお知り合いになって、それが今全部つながっています。そして、実際にはドローンは規制があってまだ自由にできないので、ヘリコプターを飛ばす匠航空の社長さんもいる。それぞれの強みをもとにこういうチームになって研究が発足しました。

左から武田教授、松尾悦子さん、伊藤庸一郎愛知産業大教授 左から武田教授、松尾悦子さん、伊藤庸一郎愛知産業大教授

飛び立っていった教授 ヘリで帰路に

「いろんなご縁が広がっていき、研究がSFCを軸につながっていく。こういう関係を続けていけたらいいなと思っています。どうもありがとうございました。」

参加者への挨拶でこう述べた武田教授。実験終了後、さっそうとヘリコプターに乗り込み、都内方面へと飛び立っていった。

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