シラバスだけではわからない研究会の実情を、実際に研究会に赴いて調査する「CLIP流研究会シラバス」。今回は全国で唯一、警察官僚が教員となり治安や防犯の研究に取り組む四方光研究会(以下、四方研)を取材した。

警察庁から出向している四方光総合政策学部教授は「サイバー防犯ボランティアの実践」と「社会安全政策論」の2つの研究会を持つ。今回は「サイバー犯罪ボランティアの実践」について話を聞いた。
 

大学生による啓発活動 中高生に情報リテラシーを

四方研では、実際に学生が中学校や高校を訪問し、インターネットの安全な使い方を知ってもらうための啓発活動に取り組んでいる。大きな会場での講演をはじめ、クラス単位での授業も特徴的だ。具体的な事例をもとにしたクイズを通して、積極的に考えてもらうケーススタディに力を入れている。
 ネット上での犯罪が社会問題となっている現代、情報リテラシー教育の重要性が指摘されるようになった。しかしインターネットがより進化するなかで、同時にネット犯罪も複雑化・多様化の一途をたどっている。パソコンやスマートフォンで毎日当然のように使っているSNSや通信アプリなどのネットサービスも、世代の異なる学校教員にとっては理解が困難であることが多い。
 そこで中高生に年齢の近い大学生が学校教員に変わって指導を行えばよいのではないか、というアイデアでこの研究会が開講された。今まで7校で啓発活動を実施し、学校側や保護者から好評を博しているという。

四方教授は大学生によるサイバー防犯に期待を寄せる。

警察庁からSFCに出向する教員は四方教授で4人目であるが、このサイバー防犯ボランティアの活動は四方教授が始めた。出向前に警察庁情報技術犯罪対策課長を務めていた四方教授は、取り締まりだけでなく、インターネットユーザーによる防犯活動の必要性を、当時から強く感じていたという。
 開講当初の参加者は6人だったが、現在では23人の学生が活動している。普段は啓発活動の実施に向けた準備を重ねている。「たとえ知識がなくても、やる気がある人、人前で話すことが好きな人であれば歓迎します」と四方教授は積極的な参加を呼びかける。

市民による防犯活動をネットでも

革新的な取り組みに見える四方研の活動だが、実は市民ボランティアにより実社会の治安が改善された例は以前から多くある。開講当初から所属している伊谷陽祐さん(総4)は当時の四方研説明会で、市民参加型の防犯活動をインターネット上でもできるのではないかという話を聞き「ぜひやるべきだ」と参加を決めた。伊谷さんは、「このようなネットと社会の関係を総合的に捉えた活動はSFCだからこそできるのだと思うし、社会から強く求められている」と活動に意欲的な姿勢を見せる。

ネット上での市民ボランティア活動の意義を強調する伊谷さん

15春に教員交代 四方教授「学生との距離が近かった」 法的知識不足の指摘も

四方教授は2013年に警察庁からSFCに出向し、この春2年間の任期を終える。退官を控える四方教授は、SFCで教員を経験して何を感じたのだろうか。
 「私が2年間SFCで教員を勤めて感じたことは、学生と教員の距離が近いこと。学生一人ひとりと親しくなることができて、とても楽しかった」と四方教授は教員生活を振り返る。一方で「社会安全政策や政策立案論などの授業をしていると、学生の法律に関する知識が少し足りないように感じた。確かに、政策を考える上で、法学的なアプローチのみではおもしろくないが、それでもある程度の法的知識はあった方がよい」と実践活動のもとになる基本知識の必要性を指摘した。
 

後任に岡部正勝氏 警察庁でサイバーセキュリティを担当

なお、四方教授は16日付けで警察庁に帰任するが、4月1日からは、2つの研究会は同じく警察庁から出向する岡部正勝総合政策学部教授(有期)に引き継がれる予定だ。岡部教授は、警視長・同庁長官官房参事官としてサイバーセキュリティを担当している。

和やかなインタビューからも学生と教員の親密さがうかがえた。

 ネット犯罪という現代の社会問題に対して、大学生による防犯啓発という形で実践に励む四方研。ネットと社会の関係性を総合的に捉え、まさにSFCの「問題発見・問題解決」という理念を体現しているように感じた。
 

【17日(火) 1:00 編集部追記】
 2015年度春学期、岡部正勝教授が四方教授から引き継ぐ授業・研究会は以下の通り。追記現在、シラバスでは担当教員が「総合 新任A」となっているため、補足する。

2015年度春学期 岡部正勝教授 担当授業・研究会
授業・研究会名 開講時限
情報セキュリティマネジメント 木3
サイバー防犯ボランティア研究会(研究会B) 木4
社会安全政策(治安) 金4
社会安全政策論研究会(研究会B) 金5

【18日(水)15:00 編集部追記】
 四方光教授の後任者情報は4月1日に公式発表されるため、氏名の掲載を控えました。

【26日(木)20:00 編集部追記】
 警察庁より後任者情報の公開が許可されたため、氏名を改めて掲載しました。