民主主義が機能するためには、市民への正確な情報提供がなされていなければならない。今日のメディアはその使命を果たせているだろうか。民主主義にふさわしいメディアの在り方について5名のパネリストが語った。


■パネリスト
・郷原信郎氏(名城大学コンプライアンス研究センター長/教授、弁護士)
・神保哲生氏(日本ビデオニュース株式会社代表取締役)
・堀茂樹総合政策学部教授
・清水唯一朗総合政策学部准教授
・土屋大洋政策・メディア研究科准教授

堀茂樹

セッションは堀教授の問題定義から始まった。現在日本のマスメディアは奇妙な傾向を持っているにも関わらず、ネットメディアも様々な問題点を抱えておりマスメディアを凌駕できてはいない。そんな中、我々は「個人の自由」としての人権の尊重にとどまらず、集団的自己統治でもある民主主義を本気で生きる覚悟があるのか? という問いだ。
 この堀教授の投げかけに対して他の4名のパネリストがそれぞれの視点から問題を考え、意見をプレゼンテーションした。

郷原信郎

最初にプレゼンを行ったのは郷原氏。郷原氏は柳田大臣の辞職問題を例に挙げ、極端に浅く、表面的な報道はもはや捏造に近いと厳しく批判した。今日の報道は大事な部分がごっそり削られてしまっているため、民主主義における重要な役割を果たせていないという。

理想の三角関係

また、メディアが検察と一体化しすぎていると発言。本来メディアと検察、政治はバランスの良い三角関係になければならないのだと警鐘を鳴らした。

神保哲生

次に神保氏は「非公開」という単語をあげた。都合の悪い情報は公開しなければ誰も見ることが出来ないため、非公開にした妥当性が問われないのだ。尖閣諸島のビデオ流出は、本来は非公開にされていたものが公開されたことでパラドクスを抱くことになった。また神保氏は非公開に関するトピックとして、新聞社がテレビ局も持っているというように複数のメディアの持ち主が同じという状態を表した「クロスオーナーシップ」、書籍の値段を定価に限り値下げを認めない「再販制度」、「国民の『知る権利』と密接に関わる」ことを目的とし大手メディアによって構成されている「記者クラブ」の3つをあげ、この3つがメディアを腐らせていると指摘した。これらはメディアにとって不都合な情報であるが故に報道されないのである。

土屋大洋

土屋准教授は最近少しずつメディア内部の問題が表に出てくるようになってきており、次に問題が出てくるのは大学ではないか、と語った。イラン革命におけるカセットテープ、イラン反政府デモにおけるtwitterなどメディアの形は変遷すれども、政治が盛り上がるときには必ず何らかのメディアが出てくる。故に政治は情報を統制しようとする。例を挙げると「ラジオ大統領」の異名を取り、炉辺談話を発表したフランクリン・ルーズベルト。テレビでディベートを実施したケネディとニクソン。元俳優で大統領としても抜群の演技力を見せたレーガン。そしてソーシャルメディアの活用に成功したオバマ。彼らの行動は情報統制の成功例だと語った。

清水唯一朗

最後に清水准教授は日本政治外交史という専門分野を活かし、日露戦争がメディアからマスメディアへと変化したイベントだと語った。マスメディアに変わったことにより考える空間が無くなり、読む側にリテラシーが求められるようになった。戦争中に行われた一県一紙という制度が非常に問題で、これにより各県で当たり障りのない情報があふれ、片方の世論には詳しいがもう片方に関しては全く無知という事態が起きた。また輿論と世論、意見と空気は違うものだと話した。
 一人一人がメディアと民主主義というテーマでプレゼンしたのち、質疑応答という形で議論を深めた。情報を隠しておけなくなった時代であるとともに、情報が誰のものなのか、放送に関する免許を政府が発行していると政府の監視という役割を果たせないのではないか、など議論は多方面に渡った。