プレミアムセッション「高速鉄道とグローバル展開」。日本の高速鉄道を様々な視点から検証し、海外展開への道を探ろうというセッションだ。議論のテーマになったのは主に、技術、サービス、経営などの点。日本の鉄道業界の持つ、様々な強みや弱みが明らかになった。

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■パネリスト
・荒井稔氏(東日本旅客鉄道株式会社執行役員/総合企画本部技術企画部長)
・鈴木学氏(株式会社日立製作所・技監)
・山本貴代氏(女の欲望ラボ・代表)
・上山信一総合政策学部教授
・古谷知之総合政策学部准教授

新幹線を支える技術

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最初に登壇したのは荒井氏。新幹線の速さ、安全性を支える技術面の解説を行った。
 まず、JR東日本の新幹線車両にはいくつか特徴的なものがある。例えば、新幹線・在来線直通タイプの車両。この車両は、新幹線の軌道に加え、一部区間で在来線の軌道上も走れるように開発された。秋田新幹線「こまち」などで使用されているとのこと。また、利用者数増加に応えるため、2階建て車両も使用されている。こちらも高速鉄道としては、世界的にみても珍しいことだという。
 また、集電装置であるパンタグラフの数も、近年の車両ではかなり少なくなってきている。初代新幹線車両の0形では16両編成の車両全体で8基のパンタグラフが装着されていたのだが、2007年に開発されたN700形では16両で2基に減少。パンタグラフ数減少の裏側には集電能力の向上があるそうだが、騒音の改善など大きな恩恵をもたらしているとのこと。
 地震発生時の安全技術も、とても高度なものになっているという。地震の初期微動を感知すると自動的にブレーキが作動する仕組みで、主要動が到達する前に新幹線を安全な速度まで減速させることができる。東日本大震災の際にもこの技術が活躍し、脱線などの事故を防ぐことができたと、荒井氏は誇らしげに語った。
 

日立製作所の英国市場への参入

鈴木氏

続いては、日立製作所鈴木氏の講演。日本の鉄道メーカーによる海外参入の事例を、自社の英国参入のケースを通して解説した。
 2008年、日立製作所が日本のメーカーとしては初めて、英国に鉄道車両を納入した。日本に鉄道がやってきてから約130年、鉄道発祥の国に「恩返し」をした格好だ。
 英国は鉄道発祥の地であり、世界が注目するマーケットでもある。現在イギリス市場のほとんどは欧州の企業によって占められているが、大陸のサプライヤーに対する評価は低い。そこで、高い信頼性を誇る日本企業にも十分にチャンスはあると考えたとのこと。
 ただ、計画が始まった当初は日立に鉄道メーカーとしてのブランド力が無かった。冷蔵庫や洗濯機等が主力商品ということもあり、英国での日立のイメージは完全な家電メーカーだった。そこで、活動は鉄道メーカーとしてのブランドを確立することから始まったとのこと。様々なセミナーに参加するなどして知名度を上げる他、実際の車両をローカル路線でテストし、信頼性を証明した。
 また、大きなプロジェクトを外国企業が受注するということで、国民感情の部分にも配慮した。ビジネスの前面には現地社員を立て「日本クオリティ」にこだわりつつも英国や欧州のサプライヤーから積極的に部品調達を行ったという。
 このように様々な苦悩を経て納入されたのが「Class395」。納期の遅れが当たり前だった英国市場で、契約前に営業運転を開始。取引先だけでなく、イギリス国民全体からの支持を獲得した。通勤電車としての利用の他、ロンドンオリンピックの際の輸送でも活用される予定だという。

鉄道の高速化は、女の欲望をどう変えるか

山本氏

続いての講演者は、女の欲望ラボ代表の山本氏。女性の視点から見た高速鉄道、女性が高速鉄道に求めるものについて解説した。
 まず、女性は普段からいくつもの欲望を持っている。恋愛欲や仕事欲、健康欲など、その種類は様々だが、その中でも「旅欲」というものがかなり大きい。震災後も根強く保たれているようで、世の女性は「旅したい」という気持ちを強く抱いていることが伺える。
 そのような旅好きな女性が高速鉄道に求めるものは、男性とは大きく異なるようだ。男性の多くが「速さ」を最優先で求めているのとは対照的に、女性は「楽しさ」や、なんと「愛」といったものまで求めているとのこと。より具体的な調査では、旅情や楽しい演出、更にはマッサージ室やネイルサロンなどが欲しいと感じている女性が多くいるとのことだった。
 また、「全国各地が高速鉄道によって30分で結ばれたら何がしたい?」、という調査の結果も発表された。「会社帰りに北海道の海の幸を食べに行きたい」や「各県に1人づつ彼氏を作りたい」などといった、女性の率直な意見も会場を驚かせた。

ビジネスの視点から鉄道業界を分析

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続いては、上山教授。ビジネスの視点から、鉄道の輸出、また国内や世界の鉄道市場に関して解説した。
 まず、現在世界の鉄道市場は、毎年数%の成長を続けているとのこと。国ごとに見ていくと、ヨーロッパの市場が大きいのに対して、アメリカは人口や国土の大きさから考えるとかなり市場が小さい。これは、アメリカが車社会であることに起因していると考えられるそうだ。どこに行くのにも車を用いるので、鉄道を利用する機会が少ないのだ。今後はアジア市場の成長がカギになるが、アジアを車社会ではなく鉄道社会にすることがポイントとのこと。人口の多いアジアが車社会になってしまうと、排出されるCo2の多さから環境問題にも重大な影響を及ぼすことになる。
 また、海外展開においても日本企業は大きなアドバンテージを持っている。高速鉄道は、土木や車両、サービスの面まで様々な分野をパッケージングした商品である。複雑な技術を長期間にわたり事故もなく運用してきた経験は、とても大きな財産であることは間違いない。ただ問題なのは、そのアドバンテージを上手く説明できていない点にある。世界でもまれにみる過密ダイヤで安全に鉄道を運行するノウハウや、人材育成などを海外の人にも分かってもらうことが大切であると上山教授は主張した。
 また、駅構内のサービスから街づくり、周辺地域でのバス運行などをトータルパッケージで提供しているのも日本の鉄道会社の特徴的なビジネスモデル。アジアなど、人口密度の高い地域ではこのノウハウも役立てられるはず。
 まずは鉄道車両からだが、今後は運営や周辺サービスなどのトータルパッケージでの輸出にも期待したいと、上山教授は力強く語った。

日本の鉄道は世界で勝負できるはず!!

今回のセッションを通じて感じられたのは、日本の鉄道が世界に出られる可能性は十分あるということだ。技術もビジネスモデルも、他国の企業にはマネのできないほどレベルが高く、良く練られている。日立の例のように、実際に車両を輸出した経験もノウハウもある。
 世界中の都市をMade in Japanの高速鉄道が結ぶ日も、そう遠くはないのかもしれない。