ORF2日目の16:30からは、セッション「アーキテクチャとしての恋愛」が行われた。このセッションは、昨年のORFで行われた「恋愛のアーキテクチャ」の続編という位置づけ。昨年と同じメンバーに、新たに女性パネリストを2人加え、恋愛に関して1時間半に及ぶ討論が行われた。


■パネリスト
・木原民雄氏(NTTサイバーソリューション研究所主幹研究員)
・濱野智史氏(批評家/05年政・メ修了)
・平野啓一郎氏(作家)
・櫻井圭記氏(アニメ脚本家)
・赤坂真理氏(作家)
・金益見氏(人間文化学者)

平野氏「他者をとおした自己肯定、分人という概念」

三島由紀夫は、短期的に盛り上がる「恋」を重視し、谷崎潤一郎は継続的に続く「愛」を重視しました。このように、「恋」と「愛」は違うものと考えられていて、三島と谷崎は対照的な立場をとっています。そんな中、小説だと短期的に盛り上がる「恋」は感情の動きが見えやすいので、描くことが簡単なのです。
 また個人の中で、接する相手によって外に表れる人格というのは少しずつ違っていて、これを「分人」と呼びます。ここで、「誰と一緒にいるときの自分(分人)」が好き、という“他者を経由しての自己肯定”が「愛」なのだと思います。

ORF恋愛6セッションの口火をきった平野氏

そして恋愛観が年齢によって非常に幅のあることと、1人と付き合うサイクルが数年であることを考えると、25歳から35歳までの結婚適齢期に付き合える人って本当に限られちゃいますよね。だから、同時に何人かの異性と付き合って見極める必要がある。でも社会はそれを受け入れてくれない。短期間で効率よく相性の良い人と付き合うために、巧妙でエレガントな恋愛システムが必要かもしれません。

濱野氏「AKB48の斬新な片思いシステム」

恋愛とは近代化社会にとって最重要な単位「個人」を作り出すシステム。つまり恋愛が個人の人格形成に大きく関わってきます。恋は、自分と相手の置かれた状況に燃え上がる「属性の発見」、愛は継続的に行動を持って気持ちを証明する「愛の行動証明」です。でも、それが最近崩れ始めている。というのも、ネットが普及したおかげで、いくらでも自分と相性ぴったりの相手(萌え要素)が見つかるようになったんです。また、付き合っている間もtwitterやFacebookやmixiなど、ネットでいくらでも相手を監視できるようになりました。

ORF恋愛1AKBについて語る濱野氏

AKB48も、恋愛に大きな影響を与えています。AKB48というのは、市場と政治という、もともと相容れない要素を融合した斬新なシステムなんです。これは本当に面白くて、こんなハマれるシステムがあったら当然若者は政治にも恋愛にも興味がなくなるわけです。だからといって日本の若者がダメ、で終わるのではなく、この異様に奇形的に進化したシステムを何かに水平利用できないかと僕は思いますね。

櫻井氏「『萌え』という萌芽を慈しむ」

今のアイドルのシステムは、片想いを構造化してますよね。好きな娘と握手をしにいくとか、好きな娘のためにお金を投資するとか。萌えを大事にできる。萌えっていうのは、燃やしちゃいけないんですよ。こころのなかにある、むにゅってしたもの。萌芽が芽生えて、それを一気に燃やさずにそっと、ずっと慈しむ。これが萌えの本来のあり方なんです。

ORF恋愛5櫻井氏

赤坂氏「草食系の由来と、韓流への憧れ」

ORF恋愛3満員のセッション会場

草食系男子って本当にいるのでしょうか。草食動物も性には必死だし、肉食動物も同種のメスを狩ったりはしませんよね。性愛に「狩り」の比喩を使えるのが人間の特異さという気がします。私は、草食系とは戦後民主主義教育のひとつの達成であると考えていて、だとしたら草食系っていうのは日本社会が望んだものなのではないでしょうか。そして、恋愛が起こりにくくなったことを真っ先に感知した日本人女性たちが、戦後日本社会が排除してきた「肉食性」を持つ「韓国人男性」という新対象に興味を向け始めたのです。
 また、恋愛から結婚に至るまでの過程が変わってきたことについて、『○活』という観点に着目。そして「◯活」という表現も、恋愛から結構に至るまでの過程が変わってきたことに影響を与えている表現です。婚活、就活、などと称して、受験の方法論で人生を乗り切りたいと考えている若者が多いのも問題です。効率を重視するあまり、心が動かなくなっているのでは、と思います。

金氏「ラブホのシンカ」

ORF恋愛2左から順に、赤坂氏、金氏、櫻井氏

私はラブホテルについて研究しているのですが、ラブホテルって、少し前までは「セックスをするための所」でしかなかったんですよね。暗いし、顔を隠して受け付けするし、悪いことをしているみたい、という感じすらしていました。でも、最近は明るい雰囲気のお店がたくさん増えましたし、コンセプトが「セックスもできる場所」へと変わってきました。なかには、しっかりしたランチやディナーが楽しめたり、女性の友達どうしでティーブレイクなんかが気軽にできるところもあるんですよ。こうやって、カップルが気軽に楽しく愛情を育める環境が整っているのは、日本文化ならではの、良いところだと思っています。

恋愛のイノベーション

パネリストそれぞれの意見を踏まえて、濱野さんは「それぞれ全く違った話をしているようで実は同じことについて語っていて、非常に面白かった。つまり日本の中で、恋愛のかたちやあり方がそれぞれ異様な進化、イノベーションを遂げている。そうなると、まじめな学生が集まって、まじめに勉強している大学なんかでイノベーションが生まれるわけがないんですよね。だからイノベーションをやたら推してるSFC でだって、当然無理なんです」と語り、会場の笑いを誘った。「これらの話をメタ結合させて、何か新しく面白いイノベーションを起こせたら良いのですが」
 #orfrenaiというハッシュタグも使われ、会場だけでなくタイムラインも非常に盛り上がったこのセッション。内容が内容だけに、討論終了後も様々な意見が飛び交い、話題となった。さらに、この討論は来年3月に書籍化されるという。恋愛に関して各人のより深い考察を楽しみにしたい。